第5話 未確認飛行物体

 耳をつんざくブレーキ音! 嘉平と八重子が窓の外を見ると、新吉が四トントラックのタイヤに潰されているのが見えた。


 運転席を転げ落ちるように駆け下りたドライバーは、新吉が白目をむいて泡を吹き痙攣している様を見るやスマホを取り出して、恐らく救急車を呼んでいる様子。


 これで嘉平と八重子は一安心。我々にできることは祈るだけモードに突入して安堵の息をつく。


「でもアイツ、事故前から白目むいて痙攣してたし大げさにとらえる必要はないのかも」と、嘉平は窓の下枠のレールに指先を滑らせ、黒く汚れた指の腹を、親指の腹でこすり消す。新吉の無事を祈ることしかできない自分が歯がゆい。


「アッ、あれを見て」八重子が東の空を指さした。「昨日、彼ピのポコチン血だるまにしたやつ」


「ニャロー、よくも」嘉平は八重子の塩せんべいの袋から一枚奪うと、それをフリスビーみたいにして宙を飛ぶポコチンキラー目がけて投げた。

 同じ男として、八重子の彼氏に与えた暴力を許せなかったのだ。


 だが謎の回転皿は飛んできた塩せんべいを高速回転で弾き飛ばすと、嘉平目がけて飛んできた。


 嘉平が死に物狂いで逃げたのは言うまでもない。

 だが謎の円盤は嘉平にやすやすと追いつくと、彼の頭頂部にへばりついた。


 するとたちまち嘉平の心身は円盤に操られてしまった。


 嘉平は階段を駆け下り校門を出て、新吉に人工呼吸をほどこし、おかげで息を吹き返した新吉と嘉平は、その接吻をきっかけに動物的欲求をベースとした感情から互いを意識し合うものの、熱烈な与党支持者である嘉平は己の感情と欲望を素直に認めるまでに少し時間がかかり、その末にG7で同性婚を認めない唯一の国という現状打破に向けて活動を始めるはずだったが、嘉平もまた校門を出た瞬間に原付に跳ね飛ばされたので、前述の未来は泡のように永遠に姿を消した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る