第47話 諸悪の根源は、着衣
「足、早くなったな」
俺が遅くなったという話は置いておいて、妹を褒めるスタンスでいく。
正直このまま倒れ込んでぜーぜーやりたいくらいだけれど、全然余裕ですけどって顔で、妹に近づいた。
「お兄ちゃん……」
「
土曜日だが、夕暮れ時なのもあってか俺と妹以外の参拝客はいない。地元の神社なんてこんなものだろうか。経営とかどうなっているんだろうな。
「……どうしても?」
「どうしても」
「あたし、……頑張ったよ。裸になって」
「……それは頑張ったことなのか?」
服を脱ぐのに頑張るとか頑張らないとかあるんだろうか。
脱ぐだけだ。いや、脱がないでほしいんだけど。
「待て、待て。……波実香がずっと全裸だったのって……えっと、つまりそういうことなのか? ……俺が……好きだったから?」
「……そうだよ!! そうじゃなかったら、裸になるわけないじゃんっ!! なんだと思ってたのっ!?」
「なにって……いや、悩みとかあるのかなって……」
「悩んでたよっ! 悩んでたけどっ、ただの悩みじゃなくて……お兄ちゃんに妹じゃなくて、女の子として見られたかったからで」
――待ってくれ、冷静になってほしい。普通家で兄妹が服を着ていなかったら、家族の前だから恥じらいがないんだな……とならないか?
「なに、お兄ちゃん……その顔は」
「えっ!? 俺、どんな顔しているんだ!?」
「不満そう。あたしの裸……そんなに不満だったんだ」
「違っ! ただな、もう少し話し合いで解決できなかったのかと……」
息もやっと整ってきて、俺は頭をなんとか回転させる。妹にもどうか落ち着いてもらいたい。泣き止んではいるようだけれど。
「だいたい服を脱ぐって……よくわからないよ」
「女子が男子の前で肌を見せるのは……好きな人の前だけでしょ!」
「…………まぁ、そうなのか」
一旦、妹という――家族という前提を取って考えると、たしかにそうだ。
妹はそんな気軽に異性へ肌を見せるような人間ではない。
なんらかの特別な感情がなければ、いくらストレスがたまっていても急に全裸とはならないはずだ。
――ん? 待て、そうなると
浮津さんは……えっと、あれだ、俺に助言をくれようとしていたんだ。そうだよ、『妹と向き合え』って言っていた。さすがだな、浮津さん。すべてお見通しだったのか。それで下着姿になる理由はまったくわからないけど。
「つまりえっと……」
涙ながらに妹が叫んでいたことを思い返して整理する。
妹は俺に好意を持っていて、裸を見せて俺に興奮してほしかった。
俺は興奮していた。――とうことは、解決か?
「でもお兄ちゃんはあたしの裸なんて全然興味なかったんだよね……そうだよね、妹だし……」
あれ、走りながら叫んだつもりだったが、妹も走るので必死だったから聞こえていなかったんだろうか。
つまり改めて言うべきか。しかしどうだろう。けっこう咄嗟の状況だからためらいなく言えたが、冷静になった今では、かなり問題のある発言だ。
ただ、すべての始まりでもある。
もし俺が正直に、妹の裸を見てすぐ「お兄ちゃん変な気持ちになりそうだから服を着てくれ」と言えていたらすべてが解決していたとも言える。
そうなると、つまり妹が俺に言えない本音があったように、俺も同じく隠した気持ちがあったから起きた一連の出来事だったわけだ。
すれ違い、脱ぎ違い。
せめて昨日の時点で言えていたら。
しかし後悔しても遅い。だったらせめて今からでも正直に言うべきだ。
「待ってくれ波実香。訂正させてほしい」
世間的に、俺は兄貴失格かもしれない。というか家族として異常かもしれない。
親父に聞かれたら殴られて家から放り出されるだろうし、母さんも泣くんじゃないか。でもまあ、言おう。
「俺は波実香の体を見てすごく興奮していた。妹の体なのに変な気になって困っていたから、顔に出さないようしたり、悩んだ結果女慣れしていないのが原因なんじゃないか検討したり……」
「本当にっ!? え、待って……女慣れって」
「あ、ああ……それでまあ、彼女募集を……」
「お兄ちゃん……あたしが裸になったから彼女を……二股したの!?」
ちゃんと経緯を最初から話しても、まだおかしな話だった。
いや、一応理由はあるんだけど。
「おかしいよっ!! なんでそうなるのっ!?」
「……疑問はもっともなんだけど」
「お兄ちゃんいつもそうっ! なんか急に変なことしだすっ」
「ま、待て待て! 俺だけじゃないだろ、言っちゃ悪いけど波実香だって」
たしかに俺は奇行が多いとよく言われるが、いくら異性として意識されたいからと言って突然全裸になる妹と比べてそこまで異常だろうか。
そんなことはない。俺が彼女募集して二股するのは全裸と比べたらまだわかる。
「お兄ちゃんのが変!」
「波実香のが変だ! 世界一可愛いけど!」
「かっ、可愛いはいらないでしょっ!?」
「可愛いのが大事だっ! 変は……まあ……変だけど」
優先度的には間違いなく可愛いが上である。
そのまま言い合いはしばらく続いたのだが、
「あのな、あんまり言い訳というか……まあ人のせいにはしたくないけど、俺が彼女募集したのは友達が……」
「あ、あたしだって……お姉さんからアドバイスもらって」
「お姉さん?」
「……お兄ちゃんの友達って」
そこで、散々騒いでいた俺たちの様子を遠目でうかがっている二人の存在に気づいた。
「……
俺の友人である黒沢と、その姉でありこの神社で巫女をしている……たしか
二人が気まずそうな顔で立っていた。
「あー
多分申し訳なさそうに、黒沢がほほをポリポリとかいた。
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