第33話 二人ですることは、裸?
ミイラ取りがミイラになる――ということわざがあるけれど、裸族はどうなのか。いやまあ、ミイラが単純に装いとして包帯まみれのミイラのことを言っているわけじゃないんだけど。
友達になにかオススメのものを紹介して、自分と同じようにはまってもらう――いわゆる布教活動のようなものはある。俺の友達は
ああ……妹だな。
妹の可愛さについてはいつでも喧伝していた。俺は妹の可愛さを世に伝えるための宣教師みたいなものだった。
ただ平和に、妹の可愛さを豪語できる――そんな兄貴になりたいだけだった。
はずだが。
「佐志路部君も脱ごうね」
今俺は、裸族にされようとしていた。
なんでだ。妹の裸を見ても大丈夫なりたいなんて邪な理由で彼女をつくろとしたからなのか?
――しかし、妹が裸族になった今、俺も裸族になるというのは……もしかして悪くない?
「いやいや、二人で裸になったらおかしいって!!」
「あら? もう、抵抗してどうしたんですか」
「どうもこうもっ!」
気づけば浮津さんは俺に覆いかぶさるようにして、シャツのボタンを外そうと――いや、既に一つ二つと外されている。
どうする、全力で抵抗すればなんとかなるはずだ。腕力も体重差もある。だけど下着姿の浮津さんを無理に押し返すなんてできない。
浮津さんがどうして俺まで裸族にしようとしているのか全くわからないが、話し合えばわかるんじゃないか。説得してやめさせるんだ。
「待ってくれ、浮津さん! 俺が思うに、服を脱ぐと寒いと思うんだ!」
「大丈夫ですよ。すぐ温めてあげますから、わたしが」
「浮津さんだって寒くないのか!?」
「佐志路部君が温めてくれますよね?」
どうやら着衣という非常に初歩的な防寒システムに異議を申し立てたいらしい。いつからそんなリベラルになったんだ、クラス委員長はいつもみんなに気配りしていて優しく人望があって――。
それでか!? クラス委員長として、日頃から気を遣い過ぎてストレスが!? それで裸族に……!?
そうだ、俺やクラスの連中が好き勝手する度に、みんなのまとめ役である浮津さんには負担がかかっていて――だから裸族になるのはいいけど、俺まで脱がす必要はなくないか!?
「次は下ですね」
「浮津さん、俺のベルトから手を離すんだっ」
上半身裸の俺は、自分の素肌に浮津さんの下着や彼女の白い肌が微かに触れることがくすぐったく、とてももどかしかった。
事態が飲み込めず、混乱ばかりしていたが。
そうだった、俺の目標!
妹の裸に取り乱した恥ずかしい兄から、クラスメイトとのいかがわしい体験を得て一枚大人の男に成長できている!?
冷静に判断できるような状況ではないが、今の俺は自分でもわかるくらい
妹の裸には感じていなかったもの――だよな?
しかし、浮津さんの――クラスメイト女子の下着姿にというか、俺自身が脱がされようとしていることによるものなのか……。
「待って! 待ってくれ、どっちに興奮しているか冷静に判断したいからっ」
「佐志路部君……さっきからなにを言って」
俺は今一度、本来の目的に立ち返って前向きに彼女を止めようとした。
けれど遅かった。いや、遅かったという意味では、かなり前からもう手遅れだった。
ガチャリと、玄関のドアが開く音。
――今、何時だ?
スタスタと廊下を歩く音。
――親父と母さんじゃない、でも妹だって部活はまだっ。
「ふふっふーん、あれ、お兄ちゃんも帰ってたのー?」
あいつは大雑把だから、玄関の靴を確認するようなことはしないだろう。
リビングから聞こえる物音でやっと俺の帰宅を意識して――。
「たっだいまーっ」
「お、おかえり」
明るい声でリビングに顔を出した妹は、帰ってきたばかりだから制服を着ていた。
まず一安心だ。お客様に妹が裸族だとバレなかった。
俺の制服はもう下半身だけで、シャツはどこかに投げ捨てられてしまっている。ソファーに少々アクロバットな姿勢で寝転がっている状態だ。
これだけならまだちょっとだらしない兄の姿なのだが、俺に馬乗りすように、下着姿の女子がいる。初対面ではない。昨日の朝も顔を合わせている。
どうだろう、裸族の妹なら兄が上半身裸で下着姿の女子ともみ合ってみても「あ、お客さん来てたんだー! ごゆっくりー」くらいで流してくれるだろうか。
いや、これを見てなにも疑問に思わないなら、それはそれで裸族以上に心配だけど。
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