第29話 お家に招待するのは、着衣?
誤解というのはいったいなんだろうか。
――もしかして、
たしかにそうだ。
あれだけ嫌いとはっきり言われたからとして、彼女に立候補されて、デートに行って、下着まで見せられ……あまつさえ、次にまた下着姿を見せてもらう約束まで取り付けた。
これは普通の男子なら、『もしかして嫌いってのは照れ隠しで、実は俺のこと好きなんじゃないか!?』と勘違いしてもおかしくない。いや、むしろそっちの方が自然かもしれない。
教室に戻ると、
「昼間っからお熱いじゃねえの」
俺と
「言って置くけどお前の想像しているようなことじゃないぞ。ただ土下座して、下着を見――」
多分黒沢の想像とは違っているが、しかし言葉にすれば余計に誤解が膨らみそうだ。
「土下座? 下着? おいおい、なにしてたんだ本当に」
「今のは忘れてくれ」
「忘れるってなぁ。でもまあ、仲良くなってるみたいだな。前までの
「……まぁ、いろいろあったから」
椅子に座って、俺も昼飯を食べる。
遅くなったし、今日もいろいろあってお腹が空いていた。
「黒沢は……蓮華院と話すのか?」
「そんなには。あいつが男子とそんな仲良くしているところは見ないな。ま、実際、あいつの家にびびって腰が引けてるやつが多いのも事実だろうな。そうでなきゃあんだけ可愛いんだし、もっと変な男が寄ってきてもおかしくない」
同性の女子はともかくとして、男子が下手な下心で近づけばどうなるかわかったものじゃない。俺は健全な気持ちだったのに大変な目にあった。
「でも佐志路部はそういうの気にするやつか?」
「……気にしてなかったけど」
「ならこれからも気にしなくて良いだろ」
「……そう言ってもなぁ」
言葉を濁す俺に、黒沢はニタァっとイケメンらしからぬ気味の悪い笑みを浮かべた。
「自分から話題に踏み込んだんだ。佐志路部だって思うところがあったんだろ?」
「……」
「妹ちゃんの時と同じだ。佐志路部はわかりやすいからな」
「……」
「さては、もう手を出したのか。それで、蓮華院の両親に怒られるんじゃないかびびってんのか?」
こいつ、勘が良いようで、最後に的外れないこというよな。探偵になっちゃダメなタイプだ。
途中まで当たっているせいで、余計に質が悪い。誰かが信じて最後まで騙されてしまわないか心配だ。
「そういえば最近、姉貴が佐志路部のこと気にしてたけど」
「え? そういえばこの前会ったからかな」
「女子二人とよろしくやってるって答えておいたぞ」
「おい」
本当に目を離すとなにしでかすかわからない。この前の件と言い、もっと本気で怒った方がいいんじゃないか。そんなことを考えながら弁当を食べていると、
「ちょっといいかな、佐志路部君」
にこりと微笑む
◆◇◆◇◆◇
放課後、俺は浮津さんと並んで歩いていた。
昨日は隣駅で蓮華院と、今日は浮津さんと。
あながち黒沢の言っていたホラ話を否定しにくくなっていないかと不安になってきた。
実際問題、俺と二人の女子の関係性は誰かに話せるようなものでもないし、聞かれたら誤解されてもおかしくない上に、それが誤解とも言い切れない。
しかし、
「……なんでまた、今日俺の家に」
浮津さんが俺の家に来たいと言いだした。
これ完全に予想外で、俺もどう捉えて良いかわからなかった。
「うーん、たしかに今週は
「そういうわけじゃなくて……」
どうして今日なのかというのも気になったけれど、なぜ俺の家に来たいのかという方がよほど問題だった。別にクラスメイトが遊びに来ることはいいけれど――そういえば黒沢も来たことなかったな? 誰かが来るのって初めてか?
待て、言われるがまま連れてきたけど……妹がいるんだ。
放課後すぐ帰っているから、先に全裸の妹が来るなんてことはないだろうが、それでも――いやいや、さすがに妹もお客さんがいたら脱がないか。
ん? そうなると俺が毎日誰か家に連れてくれば、妹の全裸問題は解決するのか?
「急だったし、迷惑でしたよね。ごめんなさい」
「場合によって毎日でも呼ぶかもしれない」
「毎日っ!? それは……歓迎してくれているってことですよね? ふふっ、なら良かったです」
朗らかに笑う浮津さんだが、しかし家に来てなにをするつもりなのだろうか。もてなしの準備なんてない。妹や両親とたまに遊んでいるボードゲームとかはあるが、二人でやっても気まずくなりそうだし。
なにとはなしに不安だったが、まさか俺の予想なんて遙かに超えたことが起きることは――。
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