第23話 個室ですることは、裸?

 カラオケの一室ではあるが、個室で二人きりの状況。

 蓮華院は折り目正しく着ていた制服姿から、第一ボタンとリボンを外して固まっていた。


 今まさに第二ボタンに手がかかっているのだが、これからなにをしようというのか。


「脱げばっ……裸になったら、いくら佐志路部さしろべだって……私の気持ちわかるでしょ!?」

「わかんないけど!? なんで裸になろうとしているのか全くわからないけど!?」


 妹が裸族になった理由もさっぱりなのに、カラオケで突然脱ぎ出すクラスメイトの気持ちなんて理解不能である。

 ……暑いのか?


蓮華院れんげいん、頼むから落ち着けって」

「そ、そうね。……まだブレザーも脱いでなかったもんね。脱ぐならまずこっちからよね」

「いや、冷静に不意でほしいわけじゃなくて」


 言いながら、蓮華院は脱いだブレザーを丁寧にたたむ。ハンバーガーの包み紙といい、育ちはよさそうだ。


「……」

「ど、どうした? 正気を取り戻したのか?」

「靴下……靴下からでもいい?」

「いや、よくないが」


 靴下から脱いで良いか、という意味だと思う。

 もちろん、個室なので素足になるくらい自由ではある。だが靴下から順番に脱ぐという意味であれば危険だ。

 蓮華院がなぜ脱ごうとしているのか、気持ちも意味もわからない。

 わからないが――もしこの場を誰かに見られたら、俺はどうなる?

 もし妹に見られたとして、なんて説明すればいい!?


「早く胸を見せろって言うの!? わっ、私のことずっと興味なさそうにしておいて……男って本っ当」

「誤解だっ! 脱ぐなって言っているんだ」

「……わ、わかった。でも順番……ちょっとずつ……靴下から……」

「なんだ? さっきのドアは、異世界への入り口だったのか? 会話ができなくなっていないか?」


 もしかすると、俺はずっと前から異世界に迷い込んでいる?

 目の前の女子が服を脱ぎ出す世界――それは健全な男子高校生としては喜ぶべきものなのだろうか。


(そりゃ、妹以外の女子の裸なら……素直に喜べるけど……)


 蓮華院は例外だ。

 だって俺のことを嫌っているし、金持ちのお嬢様かどうかを抜いても――。


「ぬ、脱ぐから! あっち向いてて!!」

「え……だから……しかも靴下なんだよね?」

「早くっ!!」

「はひっ」


 仕方ないのでドアの方を向く。このまま部屋から逃げていいだろうか。……ダメ?


「あのぉー蓮華院? えっとさ、脱ぐ前に話し合わないか」

「佐志路部は話しても伝わない。もうわかったから」

「そんなことないよ! 話せば通じるよ!」

「……妹の裸見て興奮するくせに」

「関係ないし、興奮はしてないからっ!!」


 どうやら話し合いでは解決しないらしい。

 だがこのまま脱がせて良いのか。殴ってでも止めるべきじゃないか? いや、殴るのはダメだけど、体を押さえつけるとか?


「蓮華院っ!!」

「ひゃぁああっ!! ――なっ、なんでこっち向くのっ!?」


 振り向けば、片方が素足でもう片方が脱ぎかけになった、白く長い二本の足があった。

 革張りのソファーに浅く腰掛けながら靴下を脱ごうとしている蓮華院が、またなんというか――。


「ごっ、ごめんっ!?」


 顔の赤い蓮華院に怒鳴られた。反射的に――いや、俺も内心やましい気持ちがわいていたからなんだけど――謝った。でも、見えてるの足だけだよ!?


「み、見ないで……」

「自分で脱いでおいて」

「だって、心の準備が」

「準備とか良いから、脱ぐのやめてくれ」

「……下じゃなくて、上を脱げってこと?」

「いやいや、さっきからなんか無理にでも脱ごうとしているよね!? 俺は脱ぐなってずっと言っているからね!?」


 蓮華院の恥じているんだか怒っているんだかわからない赤ら顔に、俺も自分が悪いのかと錯覚しそうだった。違う、俺はなにもしていないんだ。


「……脱ぐなって言うけど、私の気持ち、わかってないでしょ?」

「え? いや、それは……」

「……」


 蓮華院は瞳に涙まで浮かべながら、残った靴下を脱ぎ始めた。


「待って待って! わかった! わかったから!」

「じゃあ……なに?」

「暑い!! 蓮華院は暑いんだな!? よし、エアコンをつけてやるぞ」

「……」


 蓮華院が靴下を脱いだ。両足が、生足になった。

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