第22話 もちろんカラオケですることは、着衣?

 クラブとかバーとか、一見するとそんな雰囲気だったが、それともまた別の格式高さを感じる。


 こんな場所がカラオケ店? 嘘だろ?


 ――かと言って、俺を拷問するための場所でもないとも思う。


(入って、大丈夫だよね? 多分、蓮華院れんげいんのことだから……庶民のカラオケは知らないんだろ)


 しかし、ハンバーガーチェーンも普通に知っていたし、友達もいる女子高生なら……カラオケを知らないということがあるか?


「なあ、ここってタンバリンとかあるのか?」

「ない」

「え? あ、おい。受付は?」

「必要ない」


 蓮華院が勝手に奥へと進むので、俺もしかたなくついて行く。

 タンバリンがなくても別にいいけれど、それでもこの店の雰囲気は……。


「ここ」


 個室のドアが開かれていた。カラオケという普通過ぎる提案で気にも止めていなかったが、個室だ。

 いいのか、個室。とやや躊躇する。


 中をうかがうと、俺の知る他のカラオケよりかなり内装が綺麗――というより、やはり豪華だが、カラオケといわれればぎりぎりカラオケという室内だ。


 ちゃんと、カラオケ機器もある。マイクも二つ。蓮華院と二人で歌うなんてことはないだろうけれど。


「早く入ってよ」

「えっ……まだ安全確認がっ」


 いつの間にか、俺の背後に回っていた蓮華院に押された。部屋にそのまま入れられて、ドアが閉められる。

 普通のカラオケでよくある少人数部屋よりもだいぶ広いから、二人で密室という感じもないのだが、どうも気まずい。


 ――それに、ドアが閉まってから気づいたけど。


「ここのドアって……」


 カラオケのドアと言えば、だいたい外から室内の様子が見える様にガラス張りかなんかだが、ここは違うようだ。

 完全に外から隔絶されている。


(これなんか条例とかでアウトなんじゃないの!? 漫画喫茶の個室とかも完全に別室はダメとかそういうのあるって聞いたことありますけど!?)


 しかし、俺も具体的に細かいことまで知っているわけではない。

 もしかしたら高級カラオケ店にだけ許される抜け道などあるのかもしれない。


 だいたい、俺も疑い過ぎなんじゃないか?

 さっき許すと言っていた。でも、嫌いだってハッキリ言われたのも昨日のことだ。


 わからないが、二人きりで個室というのもやはり気まずい。歌って空気を変えるべきだ。


「……な、なんか歌おうかなぁ。そうだ、さっそく俺の十八番で盛り上げちゃおうかなぁ」

「佐志路部」

「え、なに!? 蓮華院が先に歌うか!?」

「歌わないって言ったでしょ」


 蓮華院は俺の向けたマイクを払うようにして、そのまま手を自分の首元にやった。

 彼女が、きっちりと締められていたブラウスの第一ボタンを外す。


 ――歌うのに、首が苦しかったのか? でも歌わないって言ったばっかだし……暑かったとか?


「……これしか、ない」

「え? なんて言った?」

「佐志路部、妹の裸見て……意識するようになったんでしょ?」

「え、いや……そうだけど……」


 面接の最後に、俺が伝えたことだ。

 妹の裸を意識しないように、彼女をつくった。


「もう半年くらい……誤解を解こうってしても意味がなかったから」

「半年って?」


 聞き返すが、答えは返ってこない。

 変わりに(変わりに?)蓮華院は、ブラウスの襟についていたリボンを外した。


「……これだけしたら、佐志路部も……私のこと、意識する」

「あの、蓮華院さん?」

「……こ、これだけしたらっ」

「……えっと?」


 ブラウスの第二ボタンに手をかけて、蓮華院はそのまま固まってしまった。


「どうした?」


 蓮華院の表情が、次第に険しくなる。手も震えだした。


「ぬっ、脱げない……恥ずかしい……っ」

「脱げ? え?」


 ――えっと、なにをするつもりなんですか?

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