第17話 教室のみんなは、着衣
俺の言葉を遮ったのは、
「と、も、だ、ち! ね、
にこっと、浮津さんがイタズラ気に笑った。呆気に取られていると、口に指を当てられた。目が一瞬合って、なにかアイコンタクトめいたものを感じる。
「えっ、ああ、そうだな。……友達だよ! 悪い」
「ですよね。よかった」
浮津さんが俺に伝えたかったことが『言うな』なのか『言わなくていい』なのかはわからなかったが、ともかく彼女の言葉にそのまま付き従うことにした。
その場しのぎのごまかし――ではないと思いたい。
ややこしい状況を一旦取り除けば、俺と浮津さんは友達というのが本来の正しい関係性である。
(というか、友達だとは思われていたのか……良かった……)
浮津さんみたいに、『同じクラスの人は全員友達!』という花壇の向日葵みたいな思考の人からすると、逆に『クラスメイト』と『友達』にたいした差もないと思っていたが、一応そうではないらしい。
とはいえ、浮津さんからしてみればあくまで『お試しとしての交際』であって、俺のことは単なるクラスメイトで一応友達という認識であったとしても不思議でない。
――もしかして、俺、自意識過剰だったのか!?
みんなの委員長と自分だけ特別にみだらな関係になっているのでは、などと妄想していただけの可哀想な陰キャだったのかもしれない。
よかった、調子に乗って余計なことべらべら言わなくて。
ほら、妹も横で呆れて――。
「……友達なんだ?」
疑いの目を向けている。
妹は、俺と浮津さんを交互に見比べて、
「ただの友達?」
とぽつりと呟いた。
◆◇◆◇◆◇
妹と別れた後、その流れで浮津さんと二人で教室まで歩いた。別にクラスメイトと並んで教師に入るのなんて、大それたことじゃない。
ただなにか、周囲の視線が気になった。
それを念押しするかのように、俺を見た
「さっそく仲良さそうで順調だな」
「偶然だ」
「そうかな。浮津、いつもはもっと早くないか?」
「なにが?」
適当に準備しながら、適当に返す。
そんなことより、今更だが黒沢に言って置かないといけないことがあった。
「あのなあ、昨日のことだが……」
「お? 礼なら、チャーシュー麺おごってくれよ」
「苦情なんだけど?」
「そういうのは、カスタマーセンターに頼む」
それはどこだろう。黒沢の美人のお姉さんだろうか。
弟さんに迷惑かけられていますと告げ口して、代わりに怒ってもらえばいいのか。
「じゃなくてな! ……俺だけならともかく、他の人まで巻き込んで変なことするな」
「佐志路部。いいか、人生ってのは、普通に生きてたっていろんな人間を巻き込んでくもんなんだよ」
「…………はい?」
「それが楽しいんだ。ジグソーパズルだって、いろんなピースが繋がって大きな絵をつくるんだ。オレと佐志路部、クラスの女子達……違うか?」
「え? ん?」
よくわからない。俺は黒沢にはっきり文句を言ってやるつもりだったのに。
「……まあ、わかった。文句は一旦置いておくとして、昨日のことだが」
「チャーシュー麺、大盛り」
「なんで要求上がってんだ。……なんか、すげえ女子集まってなかった?」
「餃子とライス大も」
黒沢が、朝から腹を空かしているのはよくわかった。
「わかった、わかった。今度、餃子くらい奢ってやる。だから真面目に答えてくれ。……昨日のあれ、マジなのか? 黒沢のやらせじゃないんだよな?」
「オレはなにもしてない。グループチャットで募集しただけだ」
「じゃあなんであんなに大勢……」
「あのさ、それまだオレが言わないとわかんないのか? 佐志路部、さすがにそれはちょっと精神状態が心配だぞ」
黒沢の呆れ顔に、俺は少し困った。
こいつの言いたいことはわかるが、けれどそれはやはり――未だに信じられなかった。
「……俺って、モテるのか? ……少しだけ」
「少しモテるやつが視聴覚室いっぱいの女子を集めるか?」
「で、でも! 全員が全員じゃなかったし、ほら、浮津さんと
「……信じているのか?」
黒沢がため息をついた。
信じている、どういうことだ?
「姉貴が面接なんて嘘つき合戦だって言ってたけど、あれって本当なのかもな。オレも面接官側になって、身にしみたよ」
「え、どういうこと!? やっぱり全員俺のことだましてたのか!? 俺やっぱモテてない!?」
「あー、無理無理。こっから先は餃子だけじゃ無理です。チャーシュー麺は必要」
「わかった! ライスだ。ライスと餃子で腹一杯食べろ!!」
財布事情を考慮した提案だったけれど、「ラーメン屋でそんなことしたら迷惑だろうが」と言い返される。なにか大事なことが聞けていない。
もっと聞き出したかったのだが、
「オレが手伝えるのはここまで。ほら、佐志路部。次の審査はお前一人だから頑張れよ」
「次の審査って」
「ほら、来てるよ。今週のお相手さん」
言われて振り返ると、
「おはよう、佐志路部」
俺のことを嫌いと言い切った蓮華院が立っていた。
もしかしたら、今信用できるのは彼女だけなのかもしれない。
――蓮華院が俺のことを嫌いなのだけは間違いないからな!!
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