第12話 理由はわからずも、裸
「なんでって、シャワー浴びたからだよ。さっき言ったじゃん」
妹は不思議そうに眉を寄せた。だが、全裸である。リビングで、兄もいるのに。
非常に不思議極まりない光景である。
「いや、おかしいだろ!」
「おかしくないよー。それろもお兄ちゃんは服着たままシャワー浴びるっていうの?」
「いや、それは脱ぐけど!」
「ほらー」
してやったりがごとくケラケラ笑う妹だが、笑い事ではない。服を着ていない人間がそんな無防備に笑って良いのか。いや、ダメだろう。
「脱ぐのはいい。シャワーを浴びるとき、服を脱ぐのはいい。ただそのあと着る必要があるだろ!」
「え!? シャワー浴びながら!? そんなことしたら服びちゃびちゃだよっ」
「いやいやいや! 早い早い! その後だから!」
「んー? あたしも、ちゃんと後で着るよ?」
そういえば、昨日も両親が帰ってくる前には服を着ていた。
着ていたけど、
「後過ぎるんだよ! シャワーから出たら着るんだって!」
「えっと、シャワーから出るって?」
「え? あ、浴室か。浴室から出て脱衣所に出たタイミングだよっ! なんでそんな細かいんだよっ!!」
「えー、お兄ちゃんのが細かいよー」
全裸で堂々としている人間に細かいことを言われて納得できない上、さらに俺の方が細かいとまで言われてしまった。――俺なのか? 俺がおかしいのか?
「なんでだよっ、だってついこの前まで……普通だったじゃないか!」
「普通ってなに? ……お兄ちゃん、今度は哲学?」
「もっと一般常識的なものだっ!」
「シャワーを浴びるときは服を脱ぐみたいな?」
「よし、脱ぐタイミングの常識はバッチリだな! 次は着るタイミングだ!」
「うーん? 着たくなったとき?」
「いや、ん? 着たくなったときだけど……」
妹の方がよほど哲学的なことを言い出した。
なんだ、服を着たくなるときって。着ている時間が人生の大半なのだから、服を着たいと思うタイミングなんて――って、
「着たく……ないのか? 服を」
今更のことで、そもそもの帰結なのだが、着たくないから着ていない。そういうことなのか?
「……別に着たくないってわけじゃないけど」
「そ、そうなのか!? じゃあなんで服を着ないんだ! おかしいだろ……、だって」
「……あたし、おかしいの? やっぱり、おかしいのかな」
俺の言葉に、妹の顔が目に見えて曇った。
「ごめん。言い方が悪かったな」
「ううん」
「……あのさ、理由があるのか? 服を着たくない理由なのか、裸になりたい理由なのかわからないけどさ。あるんだったら教えてほしいんだ。……俺、頼りないかもしれないけど
妹は、なにか言いかけるように何度か口を動かした。
だけど声にはならず、うつむいたまま首を横に振った。
「……お兄ちゃんは、あたしの裸……嫌? 見たくない?」
「えええぇ!? ……見たくないってことはないし……もちろん嫌でもないけど」
咄嗟に、妹を元気付けたいと口にしてしまった。本心でもあったと思う。
妹の裸に、不快感があるわけではない。それどころか――だからこそ、俺は困っているのだ。もし「おいおい、みすぼらしい裸で出歩いてんじゃないぞ!」と注意して終わるようなことだったら、もっと簡単だったのだ。
だが、これが良くなかった。
嘘でも、もっとハッキリ裸なんて見たくないと言っていれば――。
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