第10話 増えるのは、着衣?
妹の裸を見てしまった。
見てしまったというと、事故のような偶発性を言うし、まるで俺に何か失態があるかのようだけど――実際には、堂々と全裸で出迎えてくれる妹をそのまままじまじと見てしまったのだ。
(だから俺は悪くない……と言いたいけど、この場で妹の裸族を公にはできないし……)
兄として、妹の名を汚すくらいなら、いくらでも俺が悪評を背負うつもりだ。
「兄として恥ずかしいことに……俺は妹の裸に……その、思うところがあって……いや、その! 一応言って置くが、そんなにはっきりしたものじゃないぞ! ふわふわっと軽い感じで!」
俺は覚悟して打ち明けたはずが、クラスメイトの女子二人からの視線が胸に刺さってだいぶ情けない感じになってしまった。
「おい、
「いや……でも本当にその……別にエロい感情とかってわけじゃ」
「たぎったんだろ? 女、抱きたくなったんだろ?」
「ち、違うから!! 本当に、そういうんじゃないから!」
――妹を、義妹とは言え、妹を意識してしまった。
家族ではなく、異性の裸として見てしまっただけなのだ。
しかし、『だけ』なんてものじゃない。これは家族として十年近く過ごしてきた兄妹にとって、明確な裏切りに近い。
「ただまあ、妹を変に女子として意識してしまって……」
「佐志路部……っ」
「佐志路部君」
「わ、わかる! 俺でも最低だってのはわかっているんだっ!」
否定しようもなく、俺は女子達からの侮蔑を受け入れるつもりだったが、
「……佐志路部がシスコンなのは有名だし知ってたから、そこまでは」
「わたしも佐志路部君が妹さんのこと自慢するの何度も聞かされたことありますからー」
「は、はい?」
「でも裸……女子として意識って……そんなはっきり言われると」
「ちょっとびっくりですね。……でも、引いてはいないですよ! 佐志路部君らしいです」
なぜか、浮津さんがまた優しげな笑みを取り戻した。横にいる蓮華院も同様だ。複雑そうな表情ではあるが、俺の話を受け入れたようである。
「え、俺って……もしかして元からそんなイメージなの?」
二人どころか横の黒沢まで首を縦に振った。
「つまり、こういうことだ。このままだと佐志路部がいつ妹に手を出すとも限らない。だからこそ、ちゃんと彼女をつくって発散してもらい、道を踏み外さないようにしよう――そういう理由で今回の彼女を募集したわけなんだ」
「言い方っ! 発散とかそういうんじゃ……」
「ないのか? お前だって高校生で、正常な性欲を持っているなら……恋人ができて、まったくそういうことがないって言えるか?」
「それは……っ」
性欲についてはおそらく人並みくらいにはあるだろうし、まったくそういうことがない――と言い切るのは難しい。
ただ目の前に居る、蓮華院と浮津さん相手にというのは想像できない。他の誰かなら、というわけでもないし、多分特定の誰かを相手にして考えられるほどの解像度ではないのだろう。
「はーい、いいですか!! エッチありです! 交際したらエッチありです! それをご納得の上でお願いします!」
「黒沢ぁ!?」
言いよどんでいる俺を置いて、黒沢が勝手に大声で宣言する。
「えっ、エッチあり!?」
「佐志路部君も男子だもんね」
女子二人は戸惑っているようにも、呆れているようにも見えた。このまま二人とも部屋を出て行ってしまうのではないか。
見ていられないと目頭を押さえるように、視線を下げていた。
ドアの開く音がした。それから足音――二人が出て行ったのか。
「黒沢……いや、いいんだよ。別に俺は彼女ができなくたっていいんだけど……だからってあんなこと言われるとみんな帰るって――」
ため息をつきながら、顔を上げた。
なぜか、女子の数が増えていた。
「なんで!?」
「エッチありって聞いて……だったら応募しようかなって」
「ありじゃないから、帰ってください!!」
突然現れた数名の女子達には申し訳ないが帰ってもらった。
エッチ目的で来られても困る。
――だいたい、どこで聞きつけたんだよ!? この面接どっかで配信されてんの!?
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