第7話 面接するのは、着衣

 その後もいくつかのやり取りで、女子生徒を絞った。

 最後にはが一人一人面接するというのだから、否が応でも人数を減らす必要がある。


 今日は、妹も部活で帰りが遅い。

 だからといって、五十人以上と面接なんてしたらいつ帰れるかわからなくなるだろう。


「まさか面接前からここまで落とすとは。佐志路部さしろべ……お前見かけによらず、女子厳しいのな」

「いや、厳しいって言うか……」


 もう趣味趣向などとは関係なく、とにかく彼女の候補の女子を減らすように条件を加えていった。目玉焼きを塩と胡椒で食べること、毎日シャワーではなく湯船にまでしっかりつかること、家事全般が得意なこと、兄でも姉でも弟でも妹でも――ともかく『キョウダイ』がいること、などなど。


「七人か。それだったら曜日ごとに付き合うってことにすれば、全員採用でいけるんじゃないか?」

「……あのなぁ」


 黒沢くろさわがよくわからないことを言うけれど、俺は無視した。


 ここまで来たら、なんとか一人に絞る。

 それでその人が本気で俺と付き合うつもりがあるなら――ややこしいことに、好意は本気ではないという条件が既にあるので、どういう目的で俺と付き合うのかは謎だ――俺も腹をくくって、いや、そこは男として喜んで付き合わせてもらおう。


「とりあえず、面接するか」

「あ、ああ。それだけど」


 俺もそのつもりだが、ただ一つというか、二つというか問題がある。


 残った七人のメンツに、二人ほどよく知った顔があった。

 何故この二人がこの場にいるのか。俺の彼女募集に立候補して、しかも今までいくつも追加した条件をかいくぐってここに残っているということだけれど――どうしてこの二人が?


 もっとも、他の五人だってどうしてここにいるのかはわからない。

 俺のことが好き――ではないはずだし、じゃあ何でだ?


 ただ俺も、いろいろ複雑な事情があって、好きな相手ではなく、しかも告白したでもされたでもないのに、交際しようとしているのだ。

 ここに集まった彼女たちも、どうにも複雑な事情があるのだろう。


「えっと、じゃあまず……」


 一番手前に座っていた女子に声をかけた。

 他のクラスの子だ。顔は、見覚えがあるかもしれない……程度。


「悪いんだけど、名前から聞いてもいいかな」

「あ、一応こっち映せるぞ」


 黒沢がそう言って、俺たちの横のスクリーンに、名前やらクラス、趣味など――おそらくこの子のプロフィールが表示された。


「……本格的だな。必要あるか?」

「大事だろ。女子はさ、雰囲気が好きなんだよ」

「俺が言うのもなんだけど、こういう雰囲気じゃないと思う」


 よくわからないが、普通の面接でだって自分のプロフィールをこんな大きく映し出されないだろう。

 ましてや彼女募集で、こんな面接。――そもそも面接ってなんだ!? しないよね、彼女募集で面接!!


 彼女はスクリーンに戸惑いつつも、改めて自分からも自己紹介をしてくれた。

 少し明るい髪色で、水泳部だという。

 可愛らしい子だ。それに、普通の子に見える。こんなよくわからない男の彼女募集に立候補するようには思えない。いったいどうして――。


 ああ、そうか。それを聞けばいいのか。


「質問、してもいいかな」

「は、はい」

「なんでこの募集に立候補してくれたの?」

「え、それは……その……」


 水泳部女子は、緊張した面持ちから、少し困った顔になった。


「えっと、それは……好きだからですけど」

「好きって? 俺が?」

「違うっ! じゃなくてほら、男! 私、男が好きなんです!」

「……男が好き?」


 俺が好きな女子にはお帰り願っていたのだから、俺もなにうぬぼれた質問をしているのだというところだが、それにしても『男が好き』と応えられると、たじろいでしまう。


 ――男好きか。


「……でも、彼氏はいないんだよね?」

「い、いないです。いたこともないです」

「男好きなのに?」

「はい!」


 男好きと言われると遊んでいそうなイメージだが、彼女はどうもそう見えない。

 彼氏がいなかったとしても――いや、男遊びばかりしているからこそなのか?


「特定の彼氏はつくらず、たくさんの男性と遊んでいるってこと?」

「ち、違うよっ! 佐志路部君……私のことっ、そういう風に見えるの!?」

「ええっ、だって男好きだけど彼氏がいたことないって言うから、どういうことなのかと……」

「そ、それは……」


 気まずそうにうつむく彼女は、黙りこくってしまう。


「佐志路部、あんまり圧迫面接するなよ」

「え、これ圧迫面接なの? ……疑問に思ったこと聞いているだけなんだけど」


 黒沢に小突かれるが、俺が悪かったのだろうか。

 しかし、黙っていた水泳部女子が大きく頭を下げた。


「ごめんなさいっ! ……嘘つきました」

「やっぱり不特定多数の男性とっ!?」

「違っ!! そっちじゃなくて……その、もっと前」

「……彼氏、いた?」


 水泳部女子が首を横に振る。


「もっと前……その、佐志路部君のこと、好きだったけど、黙っていれば……付き合えるんじゃないかって」

「えええぇ」

「だけど……好きな佐志路部君に、男好きで、いっぱい遊んでるって思われるのが……耐えられなくて……」


 そもそも男好きは自分で言ったんじゃないのか。しかし、涙ぐむ彼女にこれ以上追及はできなかった。

 嘘は良くない。良くないが、まさか嘘までついて、俺を好いていて、それで俺と付き合おうとする女子がいるとは。


 ――え、本当に、なにが起きているの?

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