第5話 集まったのは、着衣
なにか壮大なドッキリをかけられているのではないのか。
放課後、俺は
訳もわからず、抵抗もほどほどにおめおめとついて来たことを後悔する。
――待ち受けていたのは、ずらりと部屋いっぱいの女子だった。
「お、おい……黒沢。冗談にしては、ちょっと人を巻き込み過ぎなんじゃ……」
「
信じられない。しかし、実際に目の前には大勢の女子がいる。いや、本当に多い。お昼に少し話している間にも応募が増え続けていた。放課後までの時間にはさらに増え、
「けっこう書類選考で落としたんだがな」
との黒沢談だが、それでも視聴覚室には百人以上の女子が集まっていた。
俺と黒沢は部屋の前方、普段なら教師がいるべきスクリーン横の席に座っている。女子達からの視線が俺に向いている。どうして、こんなことに。
「マジって……そんなわけが……」
「本当だったら面接するつもりだったんだが、条件である程度絞ってくしかないな」
「条件?」
「あるだろ、胸が大きいほうがいいとか。背が低い子が好きとか」
それは黒沢の好みだろう――と内心で眉をひそめる。
「なんかないのか、彼女だぞ。好みとかあるだろ」
「急に言われても……」
考えてみるが、どうも思いつかない。おかしいな。こんな彼女できたらなあと妄想したことくらいあるはずだが、大勢の女子を前にして、彼女たちを有りと無しでわけるような行為への抵抗もあるんだろう。
「本当か? 彼氏持ちもいるけど、そこは条件に入れなくて大丈夫か?」
「は? え、彼氏持ち?」
「ああ、そこら辺は大事だと思って応募書類で確認しているんだけど、一割くらいはそうだ」
「え? 彼女募集……なんだよね? えっと、一応、俺の……」
状況に納得も信用もできていないままだけれども、仮に、本当に俺の彼女募集でこれだけの人が集まったとする。
(彼女募集の立候補者で……彼氏持ち!?)
「いやいや、最初に外してくれよ! 書類選考したんじゃないのか!? 彼氏の有無確認しておいて、なんでそこで除外しないんだよっ!!」
「そうか、佐志路部は寝盗りとか興味ないのか……」
「寝盗り!? ないよっ!! それもお前の趣味か!?」
「……まあ、オレはどっちかというと盗られる方が興奮するんだが。ふむ、佐志路部の趣味趣向とは違うらしいな。集まってくれて悪いけど、彼氏持ちのみんなは帰ってくれー」
パンパンと黒沢が手を叩いた。不満げな声を漏らしながら、何人かの女子が出て行く。
「待ってよ! でも、佐志路部君と付き合えるならちゃんと別れるつもりだったんだけど。それでもダメなの?」
「そうそう、私もそのつもりだったし、なんだったら今別れてもいいくらいで!」
彼氏持ちの子達なのだろうが、とんでもないことを言い出した。
「どうする?」
と黒沢に聞かれるが、
「……別れるって言われても、困るし」
本気なのかわからないが、別れるからといっても今彼氏持ちの女子は遠慮したい。彼氏に恨まれるかもしれないし、俺も気分が良いものじゃない。
「だそうだ。悪いが次回また応募してくれー」
「え? その次回って俺以外の人ってことだよね? 俺はないよ? 次回ないよ?」
今回ですら認めていないのだ。次があってたまるものか。
視聴覚室の人数は多少減ったけれど、まだ座りきれず立っている女子が何人も居る。
「うーん、面接する前にできればもう少し減らしたいんだが」
「全員このまま帰ってもらわないか? 面接なんてしたくないぞ……」
「佐志路部、みんなお前の彼女になりたくて集まってくれているんだ。オレが勝手にやったことで、それは悪い。だけど、これは絶対お前の――強いては、妹ちゃんのためになる。佐志路部は早く女子に慣れて、彼女の一人でもつくるべきなんだ」
「妹のためって」
そうだったな。
最初は、というか俺の悩みはずっと妹であり、このおかしな状況もすべては妹が全裸になったことから始まったのだ。
本当に、俺が彼女をつくることは、妹のためなのだろうか。
『お兄ちゃん、いつまでも彼女つくらないよね。モテるのに』
――あの艶めかしい裸体ばかりが記憶に刻まれて、端に追いやられていた断片が
妹は、どこか悲しげな表情で、裸のままつぶやいていた。
あの時、俺は全裸の妹にばかり気が取られていたから、ほとんど聞き流していた。
いつもバカみたいに明るい妹が、どこか苦しそうだったような――いや、裸に気を取られすぎていた。そうだよ。俺が妹の全裸に思い悩んでいる以上に、妹だってきっとなにかに思い悩んで急に裸族となったはずだ。
(もしかすると、本当に俺が……)
「黒沢、俺も妹離れした方がいいのかな?」
「……まあ、あんまりオレが口出すことでもないと思うけど、正直傍目には、そうだな」
高校生にもなり、昔よりは中学生の妹との距離感には気を遣っているつもりだった。
だが考えてもみれば、黒沢の言うとおり俺は女慣れしていない――どころか、まともな異性の友達もいないで、苦手意識まである。
こんな俺が、もう中学三年生で立派な女性へと成長しつつある妹に対して、ふさわしい態度なんて端から取れるわけがなかった。
妹だって、いつまでもデリカシーがなく、女っ気皆無な俺を心配していたのではないか――だからって、その心配が全裸に繋がる所以は全くもってわからないけれど。
(彼女、作った方がいいのかな……。そりゃ、俺だって全くほしくないわけじゃないし)
間違いなくイケメン黒沢の効果だろう。
どういう原理かさっぱりわからないけれど、もしかしたらやっぱり盛大なドッキリで、ここにいる女子全員仕掛け人かもしれないが――それでも俺の彼女候補が集まってくれている。
「……わかったよ、黒沢。少し、真面目に考えてみる」
「おいおい、今更か? やっぱり彼氏持ちの子が良かったって言われてももう遅いぞ」
「すまん、それは真面目に考えるほど無しだ。俺の趣味じゃない」
――ということで、集まった彼女候補達のことを真剣に考えてみるのだが。
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