第11話 私の使命 【シルキー視点】

「眠ったようですね…」


 私は自分の胸に顔を埋めながら寝ているレンを見ます。すぅすぅと静かに寝息を立て、普段の力の入っていない無表情な顔から、頬を緩ませて微笑んだ顔で安心しきった様子で寝ています。


 ……とても可愛らしいです。


 でも、そう思うのと同時に私は悲しくなります。


「寝ているときだけは、昔の表情になるのですね……レンは」


 私は瞳を閉じて、レンとの出会いを思い返しました。


 レンは元々、私のように無表情な人ではありませんでした。

 私がレンに初めて出会ったのは、彼が生まれてから6ヶ月が経った頃です。

 私は課せられた使命を果たすため、レンに会わなければならないのでした。そのため、シルフォード家に赴き、オリヴァーとエリーゼに雇ってもらえないかお願いをしました。


「ご子息に剣と魔法の指導を致しますので、私を専属の使用人として雇ってもらえないでしょうか?」


 突然の申し出にオリヴァーとエリーゼは驚きました。しかし、二人は笑顔で「よろしくお願いします」と快く私を受け入れてくれました。


 そして、エリーゼが私にレンを見せるために抱っこをして連れてきました。


「ほら~あなたに剣と魔法を教えてくれる綺麗なお姉さんが来ましたよ~」

「本当は俺が教えてやりたかったんだがな……」

「ばぶ~」

「あっ…」


 私はエリーゼにレンを抱っこさせられました。

 精巧に作られた人形のような…いえ、神から与えられたような顔をしているのですね……。そうレンの顔を見て思いました。

 綺麗で艶やかな銀髪…吸い込まれるほど幻想的な蒼氷色アイスブルーの瞳。

 まだ生まれてから半年だというのに、ハッキリとした中性的で美しい顔立ち。

 何より、宿している魔力の密度がとても赤ちゃんのそれとは思えませんでした。

 やはりレンは普通の人間ではない…。そう思いました。

 だから私は……自分の使命を果たすために



 ―――この子を殺さなければならない。



 私がレンの使用人となって3年が経ったある時、『レンを殺す』という罪悪感に耐えられずにいました。


 今すぐレンを殺さなければならないのに、手が震えて殺せません……。

 どうしてなのでしょうか…レンを殺そうと考えるだけで……彼の無垢で優しい笑顔が頭に浮かぶのです……。

 黙っている時は人形のような顔なのに、どうして笑う時だけは……人間らしい眩しい笑顔をなさるのですか…。

 そんな笑顔を見たら…殺せるわけないじゃないですか。殺してしまえば、あなたの笑顔はもう二度と見ることはできない。

 自分がどんな存在なのかを知らないレンを殺すことなんて……私にはできません。

 そんなの余りに…レンが可哀想です……!

 突然、私の瞳から涙が零れ落ちました。

 必死に我慢しようとした、レンへの気持ちが溢れ出てしまったようです……。


「うぅ……どうして私がレンを……レンをっ……!」


 殺さなければならない……!


 そうベッドで横になりながら、己の残酷な使命に悲観し泣いていると、突然後ろからレンに抱き締められました。


「シルキー…だいじょうぶだよ。だから…なかないで」

「……! レンっ!」


 私はレンの方へ振り返り胸元へ強く抱き寄せます。

 はぁ…私とレンの胸がぴったりとくっついて物凄く温かい……この温もりを手放したくありません。

 この瞬間が……永遠に続けば良いのに。

 そう思っていると、レンが私の脇の下から腕を伸ばし背中を撫で慰めようとしました。

 レンのバカ…誰のせいで泣いているとわかっているのですか……! どうして、あなたはそんなに優しいのですか…もう!

 それでは…私の決意が揺らいでします…そんなことをされたら……!


 ―――使命なんか投げ捨てて、あなたの傍にいたいと思ってしまうではありませんか……!


 これから私は……どうすれば良いのでしょうか?



 それから2年が経った頃、オリヴァーが帝国軍の攻撃で重傷を負ってしまいました。

 シルフォード領を治める領主の代理として、唯一領主の権利を所有している、次期領主のレンが領主代理となりました。

 当然、レンはシルフォード領を守るために戦場に立って指揮を執る必要がありましたが

 ……レンはまだ5歳です。

 剣と魔法の訓練を始める6歳に達していません。何より子供を戦場に向かわせるなど愚の骨頂です。

 ですが、レンはみんなを守りたいと、私に訓練して欲しいと志願しました。

 私は迷いました…訓練をしても良いのかと。何故なら、私の手では負えないほど強くなってしまうからです。だから、私はレンに訓練を施すことで強くさせることに懸念を抱きました。

 しかし…レンの悲しむ顔は見たくありません。彼は自分が苦しむことよりも、他の誰が傷つき苦しむことが何よりも許せないということを、小さな頃から見てきた私は知っています。

 なので、私はある約束をして、レンを覚醒を遅らせようとしました。


「レン、どんなことがあっても『殺さない』と約束できますか?」

「うん! 約束する! だから早く僕に剣と魔法を教えて! シルキー!」

「~~~~っ!」


 そんなキラキラとした瞳でお願いされたら断れるわけないじゃないですか……!

 可愛すぎます…レン。

 はぁ…全ての責任は私の甘さにあるようですね……仕方ありません……。


「……わかりました。訓練を致しましょう」

「ふぁ~~っ! ありがとう! シルキー大好き! 結婚しよ!」

「~~~~~~~っ!!!!」


 どうして子どもは、覚えたての知識を意味も分からずに言うのですか……!

 私の気持ちも知らないで…どれだけ必死にあなたへの愛を我慢しているのか、レンは知っているのですかっ!

 もう好き好き好き好き好き好き好き~~~大好き~~~~っ!!


 ―――今すぐにでもレンと結婚したいです。早く大人になってくださいレン。二人で幸せに暮らしましょう……。


 この瞬間、私は己の使命よりもレンと傍にいることを選びました。


 そして、レンに指導を始めると…私の想像以上の実力を有していました。

 

 私が手本として剣術を披露すると……。


「うん!わかった!」


 初めて持つであろう剣を、自分の手足の如く自由自在に操り私の剣術をコピーしました。

 さすがです、レン。愛しています。


 そして、次に魔法を教えました。


 私が手本として魔法を披露すると……。


「うん! こうやるんだよね!」


 又もや見ただけで一瞬でコピーをしました。

 さらには、自分自身で新たな魔法を編み出し応用をしていました。

 すごいです、レン。大好き。


 なので、私にできることは―――


「レン、この力は大切な人を守るために使うのですよ」

「うん! 剣と魔法を教えてくれてありがとうシルキー! 大好き!」


 道徳の指導しかありませんでした。




~あとがき~

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