第4話 本当に大切な人

 T大から研究論文の返事が返ってきた次の日の事である。私は冬美の部屋に行く事にした。


 昨日は歓喜のあまり、相手にできなくて暗かったからだ。唯なき後で私に理解者は冬美だけである。冬美の部屋をノックすると。冬美が出てくる。


「昨日はゴメンな、よかったら一緒に研究施設に行かないか?」

「えぇ、千真の友達は私くらいですものね」


 うん?


 冬美の様子がおかしい。まるで泣き疲れた子供の様な表情だ。


「何かあったのか?」

「ちょっちね、姉の日記帖を見つけて読んでいたら寝不足になっただけよ」


 唯の日記帳!?


 私は嫌な予感がした。唯は本音を隠していた様子であったからだ。


「それで、その日記帳の感想は?」

「まだ、途中でコメントはできないよ」

「そうか……」


 私はこれ以上日記の話題に触れるのを止める事にした。


「それでだ、T大の研究施設の件だが行くか?」

「はい……」


 私は冬美に少し研究のテーマを説明する。


「加速器で加速された素粒子同士をぶつけて一瞬生じるワームホールに電磁波で干渉してVR式の画面で平行宇宙の様子を観察するのが論文のテーマだ」


 ……。


 黙り込む冬美は私の話が難しかったらしい。


「そんな事より、今日は手作りクッキーをごちそうしたいの。食べてくれる?」

「あぁ、楽しみにしている」


 やはり、冬美の様子がおかしい。まるで、消えてしまいそうな予感がした。


 春休みに入るとT大の研究施設への見学が実現した。そこには私の論文に載せたVRが置かれていた。


「君の研究通りに作ったのだ、テスト運転を試してくれないか?」

「本当にいいのですか?」

「勿論、君の研究テーマだ、是非、初運転を試して下さい」


 私は勧められるままにVRゴーグルを着ける。


———……。


 たどり着いたのは、あの夏であった。唯の死んだ夏休みの終わりの日に時計の時刻が合っていた。


 これが平行宇宙の唯の生きている世界……。


 私は隣の家に唯を確認しに行く。


 しかし、葬儀の途中であった。死んだのは冬美であった。ばかな!!!冬美が死んだ!?


 私が動揺していると。唯が近づいてくる。


「これで邪魔者は居なくなった、私と愛し合いましょう」


 唯は妖艶に微笑む。


 違う、こんな世界は私の望んだ世界でない。私は唯を拒絶すると冬美の元に行く。


 花に包まれた冬美は何も語る事はなかった。


「で、出口……この世界からの出口は無いのか!」


 私は元の世界への出口を探す。


 T大の研究施設のテスト運転だ、冬美の居ない世界からの出口は見つからなかった。そして、冬美の火葬が終わり、この世界からの出口が見つからずに途方に暮れていると。


 落ち込んでいる私に唯は手作り料理をふるまってくれた。


 でも……。


 失って本当に大切な人に気づく、私の選んだのは冬美の居る世界であった。

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