第2話 それでも叶わぬ恋
姉の葬儀に高校制服で参列したのが印象的であった。皆、制服姿で来てくれたのだ。姉は人望もあり、クラスの半分は来てくれた。
でも……。千真は居なかた。
家が隣なので行ってみると、自転車が無かった。メッセージアプリで連絡を取ると。
『海に来ている、太平洋が見たかったからだ』
海まで自転車で片道4時間はかかる、私は心配するがどうしようもない。私の恋心は姉には勝てない事を改めて感じる。
その後、箱に入った姉が帰宅するが実感が無い。今にも玄関を開けて帰ってくる気がした。
私は一週間ほどして高校に登校する。朝、早めに登校したはずなのに、すでに千真が自習室で勉強している。
私が声をかけると。
「今、論文を書いている、平行宇宙に唯が生きている宇宙があるはずだ。この論文をT大に送ってみるつもりだ」
私にかける言葉は無かった。死んだ人間が生きている世界などあるはずがない。それでも、科学的に可能性があるのであろう。千真は素粒子物理学にたけているからだ。私はそんな千真を見るのが辛かった。この恋心では千真を癒せないからだ。
千真が葬儀の日に片道4時間かけて海に行った時に後を追うのではないかと、かなり心配したのを思い出す。
元気になったのは嬉しいが千真の目は死んでいた。こんなの、私の好きな千真じゃないよ。
でも……何もできない。
私は校内の自販機でホット珈琲を買うと千真に差し入れる。
「ありがとう、心から感謝する」
そんな言葉は要らない、私じゃダメなの?
そんなセリフが喉元まで出かかった。辛い……そんな感情しか生まれなかった。
そして、木枯らしが吹く季節になった。私は姉の死については整理ができてきていた。
しかし、千真は違う、毎晩遅くまで部屋の照明はついていた。
結果、千真の平行宇宙の論文は完成した。私は息抜きにと千真を買い物に誘う。
「下着を買うの、選んでくれる?」
千真は顔を赤くして頷く。私の勇気を振り絞って出た言葉であった。やはり、積極的な姉と恋人同士になった理由がわかる。そう、千真は押しに弱いのだ。
下着売り場に着くと黒いランジェリーを試着室に持ち込み身に着けると千真に見てもらう。
「ハハハハハ、綺麗だ」
千真は完全に動揺している。
「気に入ってくれた?なら買うね」
「は、はい」
この後には逆に会話が消えた。それは恋人に成れない絶対的な壁を感じたからだ。千真はまだ。姉の唯の事を愛している。
その後、Wバーガーで食事にするが沈黙が続く。
勇気だ!私!
私は生きる意味を千真に聞く。間接的だが私の生きる意味は千真への愛である事を説く。
しかし、私の想いは千真も理解していた。
それでもなお、姉の唯の方がいいと言う。これは時間が解決してくれるのを待つしかないとかと思うのであった。
更に一ヶ月後。
寒さが増して吐く息が白くなる季節になっていた。千真のT大に送った平行宇宙の論文のメールによる返事が来たらしい。
「やったよ、冬美、私の研究が認められて素粒子加速器の施設見学の招待状が届いたよ」
メールが来たのは私が千真の部屋に遊びに来ていた時であった。喜ぶ、千真だが本当に平行宇宙に姉の唯が存在しているのであろうか?
やはり、私は姉を憎んでいる。何でもできて、クラスの人気者で何より大好きな千真を奪った。本当に三人で何も感じなく遊べた小学生時代が懐かしい。
私はトボトボと自宅に戻る。千真の家は隣なのにこんなにも長く感じた。
不意に姉の部屋に入ると机に向かう。この景色が姉の唯が見ていた世界なのかと思う。
本棚に目を向けると。一冊目立った本がある事に気づく。机に向かった、この視点だから目立つのだ。
私は立ち上がりその本を手に取る。
それは日記帖であった。
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