襲われる

 夜は講義の時間だ。俺が城で盗み見した書物を口頭で説明をする。

 二人とも『瞬間記憶』の才能を持っているから一発で覚えられる。

 知識は最大の武器だ。この世界は俺達にとって未知の物だ。


「一ヶ月でダンジョンの最下層到達まで目指す。そこには必ず俺達が知らない情報があるはずだ」


 ダンジョンというものは神々が与えた物と言われている。

 魔物が生息し、宝が落ちていて、階層によっては様々な空間が存在ている。

 規格外の建造物だ。ダンジョンを探索する事に命を注いでいる者もこの世界では存在している。一生をかけてダンジョンを調べている者もいる。


「わかったわよ。意味がある行為なんでしょ? なら攻略するしかないわ」


 西園寺の才能は向こうの世界で言うと、異能系に特化している。

 超能力、魔術、呪術、陰陽術、それらに適正がある。

 こっちの世界の魔力を使って、非常に強力なサポーター役になれるだろう。

 接近戦も苦手なわけじゃねえ。西園寺家の道場で鍛えられて、大体の武術が使える。


「うん、僕ももう隠さないよ。……あはは、本当は自分の家が嫌いなんだけどね……。でも、妹のために絶対日本に帰りたい」


 竜宮はガチガチの脳筋系だ。

 隠密、身体加速、武芸、行動予測、それらに適正がある。

 といっても、『高速思考』と『瞬間記憶』も使えて地頭も良い。非常に強力なアタッカーに成長するだろうな。


「まあ無理すんなよ。二人ともまだレベル低いからな」


 三時間前、ゴブリン一匹を倒すのに一時間かかった。次のゴブリンは三十分で倒せた。その次は5分もかからなかった。

 才能というものを認識して、レベルが上がった証拠だ。

 といっても現時点では10層を攻略するなんて夢のまた夢だ。


 こうして、俺達の新しいルーティーンが出来たのであった。


 早朝から午前にかけて俺が二人を特訓する。二人いわくこの時間が一番つらいらしい。ボロボロの身体のままダンジョンに突入して、ひたすら魔物を狩る。そして、死にかけると街に帰還し、飯を食って俺が戦闘理論だったり、才能の使い方だったり、講義の時間となる。

 二人はこの講義の時間が一番楽しそうだ。





「うわ、まだ一層攻略してるよ」


「流石にやばいんじゃないの? あのさ、西園寺さんがよければうちのパーティー来ない?」


「うんうん、西園寺さんだったらいいよ」


 毎日訓練で疲れ切った俺達に声をかけてきたのは元クラスメイトであった。


「えっと、ごめんなさい、誰だかわかんないわよ。そこどいて」


「はっ? まだ勘違いしてんじゃねえのか? ここはもうお前がリーダーだった学校とは違えんだよ!」

「そうだ、そうだ! な、なあ、どうせならダンジョンに連れ込もうぜ」

「お、おう、悪くない提案だ」


 ……いや、人として最悪だろ。立場が変わると人の本心が現れる。本当に嫌な性質だ。

 名前も一致しない男子生徒が西園寺の手を触れようとした。

 西園寺が少し抵抗すると無理やり引っ張って羽交い締めにする。


「なんだよ、抵抗弱えじゃねえかよ。なーに、すぐに終わるからさ。あとで飯でも奢ってやるよ」


 こいつらはSSR、攻略地点はダンジョンの十層は軽く超えているだろう。俺達よりも遥か先を行っている。


「んだ、御子柴と竜宮も混じりてえのかよ。仕方ねえな……。付いてこいよ」


 夜の裏通り、人気の無い通り。この場には俺達しかいない。監視の目はない。

 俺は竜宮と西園寺に目配せをする。


「西園寺は彼氏っていたのか? なんなら俺が彼氏になって――」


 男子生徒の声は続かなかった。

 羽交い締めにされていた西園寺が喉をナイフで貫いたからだ。その瞬間の西園寺の表情は変わらない。


 訓練の成果だ。俺達が一番効率敵に経験値を得られる方法。それは遥か格上を殺す事だ。

 幸い、俺達の才能は対人戦に超特化している。大型魔物を狙うよりも、人だ。


 ただのナイフではSSRの元クラスメイトに致命傷を与えられない。

 だが、俺達の才能と組み合わせれば問題ない。西園寺はナイフにい呪術をかけていた。それは毒に近い性質。


「お、おい、お前何してんだよ⁉」「田畑君後ろ!」


 竜宮のナイフがもう一人の男の目をえぐる。これは単純な攻撃力による貫通。

 リミットを解除された攻撃はSSRの防御力をも貫通する。

 竜宮は田畑と呼ばれた男の筋肉の筋を切り裂く。


「あ、あわわ……」


 逃げ出そうとした最後の男の頭は弾け飛んだ。俺のパチンコ玉だ。

 西園寺と竜宮は元クラスメイトの死体を見つめている。


「……意外と何も感じないわね。ここまでゲスだと魔物と変わらないわよ」

「うん……、ちょっとひどいもんね。沙也加の事襲おうとしたよ」


 そんな強がりを言っても足が震えている。俺は二人の肩に手を置く。


「ま、しゃーねーな。ていうか、SSRの経験値、すげえだろ。まあこいつらはこの街で悪さばっかしてたからいいと思う。正直、住人に感謝されんじゃね? って感じだ」




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その男、現実世界最強につき〜〜異世界クラス転移、最低レアの俺達は手持ちの才能で生き残る うさこ @usako09

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