ガチャ


「高レア確定召喚……、三十連……」

「姫、測定機の結果では最高レアUR4体、SSR23体、R3体です」

「うむセバス上々な結果であるな。URレアの属性は?」

「光と闇、氷と草です」

「この4体は大切に育成しろ。これで次の世界樹戦争で負けないだろう。残りはいつもどおりの処理をしておけ」

「かしこまりました」


 大きな広間、床には魔法陣のような文様が絵ががれている。天井や壁、室内は豪華絢爛な作り、気絶している二年D組の生徒全員。目覚めているのは俺一人。


 突然の地震と謎の光。

 薄目を空けて状況を確認する。

 小声で喋っている女性とその部下のような初老の男との会話を盗み聞いていた。


「SSRでも有能なスキルを持っている者もいるからあまり壊すでないぞ。戦争の駒としては上出来だ。世界樹戦争に出られるのは異邦人だけであるからな。うちの異邦人は先の魔王戦争で消耗したからな」


「ふむ、ところでRの三体はいかがされますか?」


「放っておけ、どうせ訓練中に死ぬだろ? そんな雑魚にかまっている暇はない。世界樹戦争はすぐそこまで迫っているんだ。我が世代で王国は帝国に負けるわけにはいかん」


「……姫、そろそろ英雄たちが目覚める時間です。ご準備を……」


「そうだな、はぁ……、面倒だが接待の時間としよう」


 神経が研ぎ澄まされる。異常な事態が起こっているのを身体が認識する。この場所からは微かに血の匂いと暴力の雰囲気を感じる。

 俺以外の生徒たちが気絶から目覚め始めた。俺も寝たフリをやめて起きあがる。


「な、なんだここは⁉」

「え……、学校、じゃないの?」

「うお! ここって城じゃねえかよ! まさか、まさか異世界転移じゃね!」

「いやいや、そんな事ありえねえだろ……」

「すごい綺麗な人がいる……。お姫様だ、絶対そうだ!」


 起き上がった生徒たちが騒ぎ始める。そんな様子をあの女が微笑みながら見ていた。さっきまでの冷酷な表情とは大違いだ。


「異世界からの英雄様。はじめまして私はこの王国の第一王女であり、王国教会の聖女エリザベスと申します。……召喚の儀によって選ばれし貴方がたは、英雄となり王国を救う救世主です」


 不思議な物だ。意味がわからない言葉だらけなのに不快に感じさせない。彼女からは圧倒的なカリスマと、強制的に声を聞かせる力を感じる。

 声は脳に響き、彼女の魅力が強制的に頭に入り込む。


 誰も何も反論しない。ただ、口を空けてエリザベスという女の言う事を聞いている。


「……突然こんな事になって混乱しているとは思います。しかし、私達の召喚の儀は死にゆく運命の者達に救いの手を差し伸べるものでもあります」


 一人の女子生徒が声を上げた。


「あっ、じ、地震あったよね? も、もしかして、あの時私達全員死んじゃったのかな……」

「そ、そうか、俺達死んじゃったんだ」

「なあ、マジで興奮しね? だって異世界に転移したんだぜ! あれだろ、剣と魔法のファンタジーだろ!!」


 聖女はみんなが静かになるまで微笑みながら待っていた。

 と、その時、竜宮が手を挙げる。


「あ、あの、エリザベス様、その、僕たちは向こうの世界に帰れるのですか?」


「……本来なら、帰還魔法を使って帰れるのですが、あなた達は向こうでは死者です。……しかし、この世界に存在している世界樹を手に入れて、理を捻じ曲げれば、無事に帰れる事も可能ですね」


 生徒たちからは様々な声が聞こえてきた。泣いている生徒はほとんどいない。この現実を喜んでいる生徒もいる。

 妙な感じだ。本来なら拉致されて家族ともあえなくて、日本に帰れない状況に恐怖を覚えるはずなのに。

 まるで熱に浮かされているような雰囲気だ。多分洗脳の類だろう。

 俺はマリの顔が浮かんだが……、まあどうでもいいか。俺は平常運転だ。


「大丈夫です。貴方方は女神様の加護により特別な力を有しております。通常の兵士よりも遥かに強い『レア』『スキル』です。貴方がたは特別な存在なのです。こちらの測定機で新しい力を感じて下さい」


 ふと、疑問に思った。なぜ俺達はこいつらの言葉を理解出来ているのだろうか? 召喚の儀というものの影響なのだろうか?

 ……うーん、少し仕事モードになりすぎた。……緊急事態ではあるが、これは仕事じゃねえ。とりあえず様子見て適当にやり過ごすか。


 生徒たちは言われるがままに測定器という代物の前に立つ。

 初老の男が淡々と作業を進める。


「田中佑樹、SSR、ベーススキル『剣士A』補助スキル『身体強化B』『剣術C』」

「本庄彼方、UR、ベーススキル『勇者S』補助スキル『身体強化S』『魔力強化S』『耐性S』」

「竜宮疾風、R、ベーススキル……なし」


 隣にいた西園寺が震えていた。

「ね、ねえ、御子柴……なんかみんなおかしいのよ? こ、こんな状況なのに怖くないの? ねえ、変だよ」

「あん、西園寺がまともな感覚だぜ。なんかあの女やべえぞ」

「て、ていうか、あんたはなんでいつも通りなのよ!」

「や、だって変わりようないし。てか、お前震えてんの?」

「わ、悪い! う、うっさいわよ! 次、あ、あんたの番よ」


 恐怖というものは大事な事だ。本能で人が怖がるという事は危険な状況だ。だから、人としては西園寺や……その奥で震えている竜宮の反応は正しい。

 ていうか、レアってなんだよ。まるでゲームみたいな――


 俺は言われるがままに測定器という代物の前に立つ。

 初老の男が淡々と作業を進める。


「御子柴翔、R、ベーススキル……なし」


 なるほど、俺のレアはRか。……確かクラスで三人しかいねえって奴だな。

 まあしゃーねー。

 俺の次に測定機に立った西園寺もRであった。


「西園寺沙也加、R、ベーススキル……なし」

「え? う、嘘でしょ! 私西園寺家の娘なのよ⁉」


 西園寺の測定が終わると、周りからため息がこぼれた。なんだこれ? 落胆というよりも、嘲笑のたぐいに似ている。

 西園寺は居心地が悪そうに俺と竜宮のところにやってくる。


「なんで私がRなのよ……、ていうか家に帰りたい……」

「沙也加、僕もRだよ。多分、Rが最低ランクだと思う。ほら、みんなを見て」


 他のクラスメイトたちは一喜一憂していた。

「しゃっ! SSRだぜ!」

「俺もSSRだ!」

「ちょっと、真澄ちゃんすごいよ! URだよ!」

「美琴さんもURだ!! 流石クラスで一番の美少女だぜ」

「神崎さんと本庄君もURだよ!! よくわからないけどすごい!」


 この瞬間クラスメイト間にあった空気に変化が起きたのだろう。

 学校をサボっていた俺にさえわかる程度の変化であった。


 ……一つ、不思議な事がある。

 頭の中で念じると、眼の前にパネルのようなものが開く。それには俺の既存の『才能』が事細かく記載されていた。

 それは『瞬間記憶』であったり『高等狙撃技術』、『高等格闘技術』、『高等魔術理論』であったり。


 これは測定されなかったのか?

 他の生徒たちの様子を見ると、このパネルの存在に気がついていないみたいだ。

 あの測定した初老の男もエリザベスもこれに気がついてねえ。




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