その男、現実世界最強につき〜〜異世界クラス転移、最低レアの俺達は手持ちの才能で生き残る
うさこ
日常生活は馴染めない
「はっ? 仕事をする必要ねえだと? てめえどういう事だっての」
「言葉の通りよ。もうあなたは自由。学生らしく好きに生きて頂戴」
「好きに生きろって……。俺は」
「ある程度のサポートはしてあげるわ」
「はぁ、マジかよ」
俺、
高校には一応在籍している。だが、仕事が忙しくて学校にはほとんど行ってねえ。ずっとこんな生活が続くと思っていた。
仕事先の上司である『マリ』の言う事を聞いて依頼を受けて金をもらって好きに生活していればよかった。
そんな生活に終わりを迎えた……。
「ちょうどいいじゃなの、あなたこれで普通の学校生活が送れるわよ」
「はっ⁉ 俺に普通の学校生活が送れると思ってんのかよ! 自慢じゃねえが仕事以外はさっぱりだぜ」
「……そうね、バカだしね」
「馬鹿じゃねえよ⁉ てめえが一般常識を教えてくれなかっただろ!」
「私だって学校生活なんて随分前だから知らないわよ! いいから学校行きなさい! 研究所も解体するからちゃんとアパート探しなさいよ」
マリは俺の育ての親みたいなものだ。……しゃーねえな、学校行くか。はぁ行きたくねえな。本当によくわかんねえんだよ、普通ってやつがさ。
***
というわけで不登校の俺は大人しく学校に通う事にした。一応ごく稀に出席していたが、それはテストの日であったり、必要な事がある時や気が向いた時だけだ。
普通なら留年するが、そこは金の力でどうにかなる。マリが根回ししているから大丈夫だった。
二年になってクラスメイトも変わって、ほとんど顔と名前が一致しねえ。全員同じ顔に見える……。
「くそ、マジでこれから毎日通うのかよ……」
マリは俺に命令した。学校に通えと。ならそれは俺にとって常識に変わる。
俺はそういう風に出来ている。
ていうか、マリも失業してこれからどうすんだろ? まああんだけ有能ならどっか就職先あんだろうな。
俺も貯金はあるから暫くはのんびり過ごすか。
久しぶりの教室を観察する。
念の為クラス名簿を確認して名前だけは全員覚えておいた。だが、誰が誰だかわからねえよ……。
ていうか、俺に誰も話しかけて来ねえな……。
これから毎日学校を通うとなると、ある程度知り合いは作ったほうが動きやすい。……いや、別に仕事じゃねえから何でもいいか。
一人なら一人でいい。
「ねえねえ、あの人って不登校の……」
「うん、ちょっと気味が悪いよね」
「絶対不良よ。あたしにはわかる。だって――」
「おい、お前話しかけて来いよ」
「えー、いや、嫌だよ。関わりたくないよ」
……すっげえ疎外感だ。超やりづれえな。ていうか、聞こえねえと思って好き勝手に喋りやがって。まあいいか。俺は学校生活について勉強しなきゃな。
知り合いの漫画好きから借りた漫画を読みながら時間を潰す。……ヤンキーってなんだ? こんな荒れ果てた学校が現実にあるのか?
内容がよく理解出来ない。俺は漫画を読みながらクラスの状況を把握する事にした。
このクラスには大きなグループというものが存在しない。強いて言うならば男子は『
女子は『
二人の強いカリスマ性により、まとまりのあるクラスとなっている。
俺が前に潜入した他の学校の教室とは大違いだ。二人が教室に入ってくると空気が変わる。すげえな、あれだけカリスマ性があれば教祖にだってなれるぜ。
ていうか、俺も生まれを間違っていなければこいつらみたいに普通の学校生活が送れていたんだろうな……。まあどうでもいいか。マリには一応感謝している。クソガキの俺の育てくれたんだからな。
「ちょっと御子柴! あんた学校来てるならなんで私に挨拶しないのよ!」
「んあ? ……西園寺……沙也加だよな」
「なんで微妙に不安そうに名前呼ぶのよ! バカ!」
「俺は馬鹿じゃねえよ! ていうか、お前とは関わりねえだろ⁉ 絡んでくるなっての」
「はっ、何っているのよ! あんたは私の言う事聞きなさいよ!」
……西園寺沙也加は俺が学校にたまに登校すると必ず絡んで来る。……一度だけ依頼で西園寺と関わったからだ。あの時は西園寺の記憶を消したはずだから俺の事は絶対覚えていないはずだ。
なのに、なんで絡んで来るんだよ!
「沙也加、御子柴君が困ってるじゃないか。おはよう、御子柴君。これからは普通に学校に通えるの?」
「ああ、一応そういう事にしたわ。まあよろしく頼むわ」
「へへ、嬉しいな。あとで一緒に御飯食べようね」
竜宮疾風、温和な表情で俺に話しかけてくる。これからの事を考えたら友好的にした方がいいわな。
「あ、あんたこれから学校に来るの。……そう、な、なら、わたしも昼休み――」
「ん? なんか揺れてね?」
床が揺れているように感じた。錯覚ではない。揺れが強くなる。クラスがざわめく。大きな光が教室を包みこんだ。
何も見えない、クラスメイトの悲鳴だけが聞こえてくる。
なんだ、この感覚は……。
これは、死にかけた時と似ている。向こう側に行く感覚だ――
よくわからねえけど、死ぬのか? ……少しだけマリの事が気にかかったが、どうでもいいか。
マリに取って俺はただの実験体、お互い感情なんてものはない。
クラスメイトが死んだとしても、俺にとって関わりのない人間だ。
俺が死んだとしても――誰も悲しむ人間なんていねえ。
俺は死んだら地獄に堕ちるのがふさわしいからな。
瞬間、眼の前が真っ暗になった。
***
状況が人を変える。
学校という檻に閉じ込められていた生徒たちは無自覚に優劣を付けてしまう。
それが人間というものだ。
あの妙な光に包まれて一週間後、この『異世界』で二年D組の序列は確実に変化した。
「あいつらまだ一層もクリア出来てねえんだってな」
「うわ、あんな所楽勝じゃん」
「学校にいた時は偉そうにしてたのにさ」
「低レアだから基礎能力値が低いから強くなれないでしょ」
「ていうか、今日の飯どうしよっか」
「とりまエルフの姉ちゃんの酒場行こうぜ!」
クラスメイト、いや、元クラスメイトたちが俺達を見下しながら歩き去っていく。
俺はなんの感情も沸かない。怒るのは筋違いだ。状況的にアイツラの言い分の方が正しいだろう。
「あはは……、御子柴君、今日も迷惑かけてごめんね。よいしょっと……」
「ん、構わねえよ。ほら、立てるか」
俺は竜宮の手を取って立ち上がらせる。
「はぁ……、今日もギリギリの生活ね。こんなんじゃいつまで経っても温かいお風呂に入れないわ……」
「水浴びれるだけいいだろ。てか、お前も体力ギリギリだろ? 手貸すか?」
「べ、別にいいわよ。……はぁ、なんかつかれたわ。スープ飲んで寝ましょ……」
俺の隣に立っている西園寺の顔に疲れが見える。そりゃ仕方ない。俺達は慣れない土地で慣れない生活を強いられていた。
しかも俺達三人はこの世界の最底辺のレッテルを貼られている。
これが俺達の新しい常識、そして、この異世界転移によってクラスメイトたちの立ち位置は全く違うものに変化したのであった。
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