第495話 【驚天動地】Light Party!



 おれの攻撃――さまざまな攻撃魔法や、弓矢による直接攻撃――だけでは……どうやら【魔王】に決定打を与えるには至らないらしい。


 並外れた総体力MHPとずば抜けた魔法防御MDEFを備え、更に自己修復さえやってのける。

 修復のリソースである魔力さえ尽きてしまえば、塵も積もればなんとやらでいつかは倒せるだろうけど……仮にも【魔王】と呼ばれる者にを期待するのは、さすがに酷な話だろう。



 一見すると『詰み』にも思える状況だが……まだ勝ち筋が消えたわけじゃない。

 今のおれ独りソロでは勝ち目が薄いというのなら、複数人パーティーで当たれば良いだけのことだ。





『よう相棒! まだ生きてるか!?』


「手こずっているようだな! 手を貸そう!」


「遅かったじゃないか!! わかめちゃん泣いちゃうとこだったぞ!!」


『いや……これでも精いっぱい急いだんだよ? ゴローおじいちゃんだって捨て置けないでしょ。それに』


斥候おれだって補助要員なのに『龍』二体仕留めたんだぞ? ……ラニは八体刻んでたけど」


「ごめんて!! あやまるからはやくたすけて!!」




 待ちに待ったのおたすけキャラの参戦に……いままで独りっきりで【魔王】と戦わざるを得なかったおれは今、とても心が軽くなったのを実感する。



 からだも軽い。こんなに安心できる気持ちで戦うなんて初めて。


 もう、なにも……何も怖くない。




 突如、おれたちの周囲の地面が盛大に爆ぜ……巨大な顎を開いた樹肉の大蛇が四体、逃げ道を塞ぐように躍り掛かる。


 ヒト独りを易々と呑み込んでしまえる程の大口を開け、赤黒く蠢く肉と鱗をざわめかせ、生理的嫌悪感を抱かせる名状し難い光景が……逃げ道を塞ぎながらおれたちに迫り。






「今『なんでもする』って言いましたよね?」


「言ってないけど何かしらのお礼はするから安心して」


「じゃあぼくと結婚して下さい。わかめさん」


「オトモダチから始めさせてください!!」


「つれないなぁー」




 おれたちを護るように渦を巻く水に触れるや否や……四頭の樹肉の大蛇は絶叫を上げつつ苦しそうにのたうち回り、瞬く間にかさかさした土褐色へとその組織を変化させていく。


 並外れた生命力を秘める『植生』の魔王にとって、おそらくはとびっきり有効な特効属性。

 水は水でもひと味違う。浸透圧的な作用によって『植物』の水分を強引に奪い取り、細胞を死滅させる水。


 それすなわち……おそらくは、とびっきり濃ゆい上に魔力で特性を強化された、『塩水』。




「よくやった。……おいで、ノア」


「…………あんなカッコよかったっけ?」


「わかる。強者感半端無いよね」


『魅せ方をよく解ってるよね。ノワも見習った方がいいよ?』


「「なによお!!」」



 攻防に活用できるであろう大小多数の塩水球と、その身に流水を纏い自在に宙を往く大鮫の近衛兵ノアくんを従え。

 『魔法使いおれ』と『斥候おれ』に続く勇者パーティー四人めのメンバー、心強い『水魔法使い』の助っ人『ミルク・イシェル』さんが、この深夜にもかかわらず駆けつけてくれたのだ。


 おれが時間稼ぎ(まぁ有効打が与えられなかっただけとも言える)を行っている間、八体もの『龍』を駆除し終えた上で助っ人ミルさんを呼びに行ってくれた相棒ラニには……感謝してもしきれない。




『……成る程? 此処まで優れた魔導師が紛れていたとは……この世界も、なかなかどうして侮れんものだ』


「…………はは。【魔王】ともあろう者に褒められようとは、恐悦至極というやつよな」


『ところで……私は今、大変な人手不足に陥って居ってな。……どうだね? 相応の報酬は約束しよう。我が軍門にくだるつもりは無いかね?』


れ者めが…………よくもまぁいけしゃあしゃあと。……の大切な友人が、どうやら世話になったようだな。語る舌など持たぬ、たっぷりと礼をさせて貰うとしようか!」


(あかん……かっこいい……)


(わかる……惚れちゃいそう……)


(本当チョロいなぁこのエルフ)


((なによお!!))




 それにしても、なんという強キャラ感だろうか。日頃からのロールプレイのなせる技なのだろうか。

 その容姿こそまるで無垢な少女のように可憐でありながら、悠然と宙を揺蕩い【魔王】と舌戦を繰り広げるその姿は、威風堂々たる『領主』の姿。


 水底の民を守り、よき隣人を守り、この世界の平和を守る……とても心強い同業者なかまの姿だ。




 無下にフラれた【魔王】から、様々な殺意を秘めた『植生』の魔の手が一斉に向けられる。


 獲物の血肉を啜り体内で急成長を遂げる【磔刑荊ベルソストゥロス】の弩実が。

 強烈な衝撃を繰り出す鞭の如きツタを持つ【笞鞭蔦ヴィペンデュラ】の若木が。

 死に至る毒を秘める、危険な花粉をばら撒く【昏冥花アスポデロス】の妖花が。


 その他にも多種多様、様々な殺傷能力を秘める『植生』の魔の手が、次々とおれたち四人のもとへ伸ばされるが……果たして一つも辿り着くことなく、ことごとくを打ち払われていく。



 前衛と補助と後衛火力と、専門の回復役ヒーラーこそ居ないもののバランスよく編成された『勇者』一味パーティーの手によって、圧倒的な耐久力と再生力を備えた【魔王】がじわりじわりと削られていく。


 やっぱ四人揃えて挑んだ方が圧倒的に楽だ。ソロ攻略とかマゾのやることだ。何の情報もないのにソロ挑むとか頭おかしいと思う(※言いすぎです)。



 ともあれ、やっと適正攻略メンバーを揃えたおれたちだったが……そうはいってもやはり【魔王】、様々な媒体において最後の強敵ラスボスとしてお馴染みの存在だ。

 形成が逆転し、じりじりと押され始め……そのまま黙ってやられてくれるような奴じゃない。


 この敵は。【魔王】メイルスは。

 今やおれの相棒となった、かつての『勇者』ニコラの世界を滅ぼすだけでは飽き足らず。




『…………『攻性体』の構築は……中々に疲れるので、ね。あまり遣りたくは無いのだが……そうも言って居られないようだ』


「「『「うそでしょ」』」」




 おれたちの暮らすこの世界をも滅ぼそうと画策する……危険きわまりない存在なのだ。




――――――――――――――――――――



【よろしくお願いします!】

【ここに来るのは初めてです。】

【気楽にやりましょう!】

【ドマ茶】


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