第494話 【驚天動地】『植生』の魔王



 使徒の身体を手に入れたことで、圧倒的な魔力量を備えるに至った【魔王】メイルス。

 本来は世界の境界を抉じ開ける大魔法のための魔力リソースだったようだが……このおれを唯一にして最大の障害であると認識し、その打破のために費やしたということだろうか。


 また魔力を貯め直すのだって大変だろうに……まったく、光栄なことだ。



 しかしながらこの【魔王】、おれのイメージにあったような、いわゆる†ダークパワー†的なものを操るのではなく……その力の根底を成すのは、やはり『植生』に連なるものであるらしい。


 そういえばいつだったか、ラニも言っていたような気がする。

 かつての『メイルス』は、いわゆる植物の魔物――トレントとかトリフィドとかエントとかドライアドとか――の一体ひとりだったらしく……後天的に膨大な魔力と知能を得たことで、【魔王】と呼ばれるほどに強大な存在へと変貌したのだ、と。


 よって、攻撃パターンも『植生』に関連深いものであることが予測できるし……おあつらえ向きとばかりに、はおれにとっても得意分野だ。



 まぁつまるところ、手の内は知れてるわけで。そりゃ負ける気がしませんが。








「っぐゥ、ッ!!?」


『おや……浅かったかな? 血肉を喰らい急成長を遂げる【磔刑荊ベルソストゥロス】の鏃種ゾクシュだったのだが』


「ただの服じゃありませんから……ッ、づぅ!?」


『……成る程? 打撃は多少有効のようだね。【笞鞭蔦ヴィペンデュラ】を殖やすとするか』


「ひっ!? ぐ、【防壁グランツァ追従アルス】【加速アルケート】!」


『逃がさんよ。……咲き狂え、【昏冥花アスフォデロス】』


「!!? 【暴風シュトルム】【焼却ヴェルプラング】ッ! ……次から、次へと!! 多彩すぎでしょう!?」


『…………ははっ、君の魔法程では無いさ。自己強化に具現化魔力の防壁に、風と炎の属性元素エレメント……確か、水や氷や土に……草木も操っていただろう? ……良いな。実に魅力的だ』


「…………っ、っ!?」




 だれですか、【魔王】の手の内は知れてるとか言ってドヤってた痛い子は。おれが取っ捕まえておしおきしりたたきしてやる。



 ……っとまぁ、ご覧いただいてわかるように……様々な属性の攻撃が立て続けに振るわれ、おれは必死の攻防を繰り広げているわけでして。


 鋭く尖ってご丁寧にまでつけられた弾丸種子を、まさに雨あられと打ち込まれたり。

 頑丈な服の上からいたいけな身体を打ち据える、クッソ硬い蔦を容赦なく振るわれたり。

 おれの本能が全力で警鐘を鳴らす程度にはヤバい代物であろう、明らかにエグい花粉をばら撒く花を咲かせたり……と。



 『植生』という括りの中にあっても非常にバラエティに富んだ、いちいち致死性の高い攻撃を繰り出してくる【魔王】メイルス。

 その攻撃を繰り出してくるのが、幼げで華奢で可憐な女の子ということもあって……見た目と危険度の乖離がまた、なんともいえない不気味さを醸し出してしまっている。



 オマケに――おれが無意識のうちに手を緩めてしまってるのかもしれないが――思っていた以上に、それこそ軽くふたまわりは守りが堅い。


 おれたちの世界にも、ときには『斧を折る』ほどに硬い木があるという。

 それに加えて、おれの知らない異世界の木の性質を備え、さらに強化魔法の類いを行使したとすれば……まぁみなまで言うまい。実際硬すぎて笑えてくる。


 頼みの綱の火魔法【焼却ヴェルプラング】でさえ――まぁ魔力を注ぎ【集束フォルコス】を掛ければまた別だろうが――木質部分へと直撃させたはずなのに、思っていたほど燃やすことは出来なかったのだ。

 ……まぁ、よくよく考えれば『生木ナマキ』って燃えないもんね。表面が軽くくすぶって煙が出た程度じゃ、ダメージは中枢組織まで届かないだろう。




 とはいえ、ここで諦める理由にはならない。

 【焼却ヴェルプラング】とて効果が無いわけじゃないし、他の攻撃魔法だって【魔王】の身体(の一部である樹状組織)に傷を付けているのだ。

 いうなれば、総体力MHPの値が大きすぎるだけ。ダメージはほんの僅かかもしれないが、諦めなければいつかは削りきれるはず。


 上等じゃないか。鬼畜フロムゲーの低レベル縛りとか、配信者われわれの業界じゃよく見る光景だ。おれはやったことないけど。

 偉大なる先駆者たちの歩んだ実績があるのだから……おれだって、やってやれないはずがない。





『……成る程。未だ闘志は挫けていないようだね』


「当然。わたしは絶対【魔王】ごときに負けたりしませんから」


『それは有り難い。私もこの身体と力を……存分に、心行くまで試してみたいと思っていたところでね』


「………………っ!? え、いや、その……ちょ、ッ!!?」




 膨大な総体力MHPを備える植生の魔王の、おれが魔法と弓を撃ちまくって必死に削った身体(の樹状組織)に……なにやら不吉な匂いのする魔力が巡り始める。


 樹皮のような凹凸とざらざらした質感を備えた、おれの攻撃で少なからずいたんでいだ


 脈動するよう表面が蠢き、傷んだ表皮がボロボロと崩れ落ち去ったには……刃傷も矢傷も炭化した痕も見られない、生命力を感じさせる樹皮が現れる。



 ……そう、それはまぎれもない『再生』。

 『植生』の性質を備えているのなら、当然あって然るべきであろう……非常に厄介な能力だ。




『……君はなかなか頑丈そうだ。是非とも最期まで……壊れずに躍り続けてくれたまえよ』


「…………っ、……マジですか」




 はは……さすがは【魔王】を名乗るだけある。

 世界ひとつを滅亡に追いやり、あの【勇者】ラニをもってして『厄介だ』と言わしめるだけのことはある。



 …………反則だろ、こんなの。


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