第483話 【恒常配信】夜も大さわぎ



 さてさて。


 長いようで短いようで、でも結局全部含めるとなかなかに長かった『林間学校』イベントでしたが……こうして無事終了にこぎ着けまして。

 当たり前と言えば当たり前なのだが、ここ数日われわれ『のわめでぃあ』は全員でおもてなし体勢だったわけでして。


 つまりは……自分達のチャンネル用の活動は、ほとんどできていなかったわけですね。



 動画の撮影も、スパチャへのお返事録音も、新しい企画会議も、霧衣きりえちゃんのお料理撮影も……なにひとつとして取りかかることが出来なかった。

 まぁ仕方ないもんね。月曜の昼から金曜の昼まで、ずーっと『にじキャラ』の皆さんとイチャコラしてたわけですし!



 まぁ、それも無事終わっ(てしまっ)たので……平常運転に戻していこうと思うわけです。

 なぜなら……そう、今日は九月二十五日の金曜日ですので。





ヘィリィこんにちわ! 親愛なる視聴者の皆さん! 魔法情報局『のわめでぃあ』、定例配信『生わかめ』のお時間でーすーよー!」


「こ、こんばんわっ! ……で、ございまする! しんこう、あすすしたんとうの……きりえ、で、ございまするっ!」


「あしすたんと、ね。まぁそんなたどたどしいながらも一生懸命がんばる霧衣きりえちゃんがまた可愛いんですけどね」


「わわわわうわうわう……」



『へいりぃ!!』『へいりぃきちゃ』『謎の美少女エルフ施設管理人ちゃんだ』『へいりぃ!』『【¥10,000】にじキャラキャンプ配信ありがとう』『ヘィリィ!!』『林間学校ありがとう!!!』『NCキャンプ配信から来ました』『イェーイわかめちゃん見てるゥー!?』『管理人さんお疲れ様』『宿から見てます』




 Ⅳ期生の方々が企画を終えて、おつかれさま会が催された金曜日の……その日の夜。

 おもてなしモードから自立営業モードへと切り替えるためにも、おれたちはいつも通り『生わかめ』の配信を開始した。


 やはりというか……今日までの『にじキャラ』さんの企画配信(ならびにおれたちのチャンネルを宣伝してくれていた視聴者さん)のおかげもあって、生わかめ史上初となる開幕同時接続者数を叩き出している。

 おれはプロ配信者としての表情と挙動を取り繕いながらも、その内心はただひたすらにビビり散らしていた。

 またアシスタントとして機材の操作を担当してくれているラニちゃんも、今日の配信が『ただごとではない』ということを感じ始めているようで、先ほどから笑みがひきつっている。




「本日は諸事情により、なつめちゃんと朽羅くちらちゃんはお休みさせていただいてますので、わたしと霧衣きりえちゃんとでお送りします」


「が、がんばりますっ!」


「がんばりすぎないようにね、霧衣きりえちゃんも疲れてるんだから。……ええとですね、まぁご存じの方も居られるでしょうけど……じつはちょーっと大きな案件がございまして。わたしのほうから明言は避けますが、良い経験をさせていただきました」



 我々のスタンスとしては、大っぴらに『にじキャラさん来ましたよ!!』と吹聴するつもりはない。

 彼ら彼女らの人気にすり寄り過ぎるのもよくないと思うし、裏方業務がメインだったので『配信者』としての実績にはならないと思ったからだ。


 ただ……まぁ、面と向かって言われたわけだが、おれたち『のわめでぃあ』が関与してるのはバレているわけで。

 わかるひとには何のことかわかっちゃうだろうけど……それくらいならいいだろう。



「というわけで無事一山越えましたので……こうして平常運転で! これからもがんばっていきますっ!」


「ま、ましゅっ!!」


「ア゛ッかわいい! …………えーと、というわけで……『のわめでぃあ』本日のお品書きは、こちらですっ! ドーン!」


「ぽーん!!」


「ヴッ!! ッ、ハァ……すき……」



『かわいい』『かわいい』『ぽーんかわいい……』『は??すきだが??』『これは限界不可避』『ましゅかわいい』『かわいい』『なにこれえ……しゅき……』『嫁ちゃんかわいい』





 ――――本日のお品書き。

 のんびりと雑談しながら雀心ジャンシン.net(視聴者さん参加型)やるよ。


 ……以上。



 まぁそもそもこの『生わかめ』だが、いろんなお知らせとか活動報告とかがメインということもあるのだが……つまり最近『のわめでぃあ』として活動できていなかった以上、特にご報告できることもないのであって。


 なので……そんな『なんでもない日』に出来ること、しかも年少組がダウンしている現状できることといえば……まぁ、ある程度は限られてきてしまうのだよ。




「…………えー、そんなわけで。だらだらと麻雀打っていこうと思いますので……よろしければお付き合いください。脱ぎませんが!」



『ウオオオオオオ!!』『ヨッシャ!すってんてんにしてやらぁ!!』『わかめ……無茶しやがって……』『永久保存版』『祝・パンツ解禁』『今日こそ脱がす』『ッシャァァァァァ!!!』『のわめでぃあ健全伝説の終焉』『わかめちゃんかわいそう……』『絶対ぇ脱がす』



「脱ぎませんが!! わたしのようないたいけな少女を脱がして喜びますか!? かわいそうじゃないんですか!!」




 おれの必死さの滲む訴え(の演技)は、想定していた通りに華麗なるスルーを決め込まれ、圧倒的な熱量を伴い『脱衣』の二文字を押し通そうとする。


 ……いやぁー、相変わらずの視聴者さんに苦笑が漏れそうになるけれど……その形はどうであれ、おれを好いてくれていることに変わりはない。

 おれが(多少)恥ずかしい思いをすることで、そんな彼らにほんの一時いっときの『わくわく』『どきどき』を提供できるのなら……おれたちのことを健気に宣伝してくれていた彼らへの『恩返し』となるのだろうか。




「……やってやろうじゃねぇかこのやろう! ただし『脱衣』とは言っても危ないところは見せませんからねなぜなら健全ですので! それと脱衣判定は一局ごとじゃなくて半荘戦いっかいごとでいいですね! 『四位になったら一枚脱ぐ』って形で! いいですね!? 返事は聞いてない!!」


「はわわわわわわうわうわう」



『後悔させてやろうな』『ずりぃwww』『汚いなエルフさすがエルフきたない』『言ったな?』『絶対ぇ脱がす……』『露骨に延命図りやがったなwww』『返事は聞いてないwww』『これがのわめでぃあのやり方かァ!!!』『まま……ぱんつ……』『【¥8,282】ぱんつ祈願』『言ったからには脱ぐんだよな??』



「ヒェッ」




 ま、まぁ……思ってた以上に本気でなぐられそうなテンションですが……とりあえずこちらの意見を押し通すこと成功したようだ。


 あとはなんとか戦いを引き伸ばして、配信終了の二十三時まで服を死守すれば良いだけだ。

 いうて半荘戦一回で三十分くらいは掛かるだろうし……連戦連敗でもしない限りは、生き残ることは可能だろう。


 プライベートルームを建てて、ルールを設定して、タブレットで参加する霧衣きりえちゃんを招待して……あと二人の参加者を募る形になる。

 そうとも、この卓を囲む四人のうち二人は、いわばワンチームなのだ。おれと霧衣きりえちゃんとの結束の前には、たとえだれがこようともかてるわけがないのだ。がはは。



 というわけで、募集を開始。口頭でパスワードを発表す……る前から入って来るとかどんな執念よ!!

 ま、まぁ……気を取り直してもう一名の参加者を募り、これでいよいよ対局開始だ。



 さぁ、おれの視聴者さんへの恩返し……という名目の話題作り配信に、せいぜい協力していただこうではないか!

 わっはっは!!




――――――――――――――――――――



ぜったいに視聴者さんに剥かれたりしないよ!


なぜなら『のわめでぃあ』は健全だからね!



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