第482話 【作戦終了】昼から大宴会




ながかった一週間もおわりまして



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 月曜のお昼に始まり、金曜のお昼まで……ド平日を余すところなく費やした『にじキャラ』さんの大型企画『実在仮想アンリアル林間学校』。

 その最終章であるⅣ期生【Sea's】の配信が恙無く終了し、これでめでたく大団円を迎えることができた。





「それでは皆様……長丁場お疲れさまでした! 乾杯!!」


「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」




 当然もうカメラは回っておらず、完全にプライベートなこの空間……旅館『落水荘』の大ホール『水月みなづきの間』にて、今回の催し物に携わった全員が思い思いに騒いでいた。

 それだけでなく……『にじキャラ』事務所から経営陣おえらいさん数名も(ラニちゃんに【門】を開いてもらって)駆け付け、直々に配信者キャスターやスタッフの皆さんを労ってくれている。

 というか何を隠そう、さっきの『乾杯』の音頭を取ったのは鈴木本部長さんだったりする。


 早々に自分たちのノルマを消化し、あとは温泉旅館満喫モードへと突入していたⅠ期生の皆さんだったが……最終日の全工程終了後のこのタイミングを見計らって、ひそかに『おつかれさま会』を画策してくれていたらしい。

 落水荘さんの厨房全面協力のもと、さまざまなお料理がビュッフェ形式で所狭しと並べられており、疑うまでもなく完全に『打ち上げ』の様相を呈している。



 そして……まぁ、そんな場ではあるのですが。

 われわれ『のわめでぃあ』所属の六名も、ちゃっかりご相伴に与らせていただいちゃったりしちゃってまして。




「わかめさま! わかめさま! おりょうりがたくさんでございまする! 初めて目にするお料理がたくさんでございまする!」


「すごいよノワみてみて!! グラタンっていうんだって!! これがねーまたトロッと濃厚で……ボク新しい扉開けちゃいそう!!」


「わかめどの、りんごじゅーすを持ってきたのだぞ。わかめどののぶんも持ってきたのだぞ。我輩と一緒に堪能するがよいぞ」


「ご、ごしゅじんどのぉー! 可愛らしい小生を数多の『すまほ』が狙っているでございまするーー! わあーーん!!」


「…………斯様に注目を浴びるのは……手前は、あまり慣れて居りませぬ故…………少々落ち着きませぬ」



 おれたち『のわめでぃあ』主要メンバーのみんなが、こうして盛大に歓待を受けることとなったわけでございまして。


 なお『おにわ部』所属のからす天狗三人娘、ダイユウさんとカショウさんとクボテさんだったが……『大勢のヒトの注目浴びるとかこわ』『下っ端がしゃしゃり出るものじゃないですので』『静かな山の中の方が好きだし』的な一身上の理由から、参加を見合わせる形となっていた。

 じつをいうと天繰てぐりさんも若干渋ってた。



 さてさて、この愉快な打ち上げの席ではございますが……このホールにいるのは全員、おれたちと浅からぬお付き合いをさせていただいている方々だ。

 なお配信者キャスターの方々に至っては『せっかくだから』と【変身キャスト】実行の上で楽しんでいるので、見ようによってはにじキャラオンリーコスプレパーティーに見えなくもない。まぁコスプレじゃなくて本人なんですけど。


 というわけで、『しらないひと』というのが大きかったんだろうな。

 最初のほうこそ先述のように、おれのまわりでキャッキャしていた子たちだけども……やがて配信者キャスターの方々に話し掛けられ、あるいは記念撮影をねだられ、まんざらでもない表情で交遊を深めている。ラニちゃんなんかも堂々と姿を晒して飛び回っている。……あっ、おれも写真とっとこ。




「こちら、宜しいですか? 若芽わかめさん」


「ン゛ッ!! ……っ、…………(ごくん)っ。ふみません、大丈夫でふ」


「ありがとうございます。……楽しんでいただけてますか?」


「ほれはもう。わたし食べること大好きですし。……あの子たちも、皆さんに可愛がってもらってますし」



 隅っこのほうの席で、誰に話しかけようか悶々としていたおれのところに現れたのは……なんと『にじキャラ』最高責任者であらせられる、鈴木本部長さん。

 Ⅰ期生発案のこの『おつかれさま会』の費用を、経費として会社から出してくれただけでなく……お忙しい中であるにもかかわらず労いに訪れてくれた、たいへん部下想いの方である。

 ……スタッフさんに帯同できなかったこと、めっちゃ残念そうだったもんな。やっぱ『にじキャラ』配信者のみんなのことが大好きなんだろう。



「鈴木本部長さんこそ、どうですか? 飲んでますか?」


「いやぁ、飲みたいのは山々なのですが……まだ仕事が残ってるので」


「これは独り言なんですけど、酔い醒ましの魔法が使える緑エルフのかわいい魔法使いがいるらしいですよ」


「…………ッ! …………いやぁ、かなり揺らぎましたが……遠慮しておきます。やはり実際に法を侵す度胸はありませんので」


「ふふふふ」



 どうやらこの『おつかれさま会』が終わったあとも、事務所へ戻ってお仕事をこなさなければならないのだという。たいへんだ。

 ……いや、そっか。金曜日だもんな。平日だもんな。金曜の昼間っからごちそう食べて酒飲んでるほうがどうかしてたわ。


 しかしながら、その『平日』であるにもかかわらず……同時接続者数をはじめとする各種数字は、それはそれは大変なことになっていたらしく。

 そのことを簡潔に報告してくれて……また会場提供に関するお礼を、改めて丁寧に述べてくださった。




「屋外での企画を経験した配信者キャスターの子らも、また配信をこなしてくれた技術スタッフも、みな貴重な経験を積むことが出来ました。配信による単純なプラスは勿論ですが……これら『経験』という収穫を得ることが出来たのは、ひとえに若芽さんたちのお陰です。本当に有難うございます」


「そ、そんな! おおげさですよ、そんな。……まぁでも…………お言葉は、ありがたく頂戴しておきます。あとそうですね……サイコロトラベル、楽しみにしてます。深夜バスマシマシで」


「承知しました。完全包囲で仕掛けます」



『ちょっと!?? 鈴木さん!!!?』


『みど諦めろ。諦めて自爆しろ』


『そだそだ。だか貢献しとけ。みどの悲鳴ウケが良いんだから』


『まぁ実際引いたら罵倒バトってやっけどな』


『わだじが振るの確定なの!!??』



「楽しみにしてますね!(にっこり)」


「お任せ下さい。企画担当とⅢ期のマネージャーにもバッチリ通しておきましょう」




 どこかで緑色の女の子の悲鳴が聞こえた気がするけど、きっと気のせいだろう。こんなおめでたい場に悲鳴なんか上がるはず無い。

 今回のキャンプを経て様々な可能性が広がった『実在仮想配信者アンリアルキャスター』の、たのしさ溢れる次なる企画のおはなしだぞ。みんな待ち遠しいにきまってるよ。待ち遠しいっていえ。



 その後は僭越ながら『お外に飛び出した実在仮想配信者アンリアルキャスター』の先輩として、配信や撮影に関しての要注意ポイントなんかを(えらそうにも)お話しさせていただいたり。

 また……おれたちがこれまでいろいろと配信して、拙いながらもアレコレ培ってきたノウハウなんかを(えらそうにも)共有させていただいたり。


 そしてそして……今後の『にじキャラ』さんが『お外飛び出し』型企画に挑戦する際なんかは、第三者的なアドバイザー的な有識者として、微力ながらご協力させていただくことをお約束させていただいたり。



 ……まぁ細かい契約内容とかは、またうちの初芽ちゃんマネージャーも交えてお話しさせていただくと思うんですが……いわゆる『マネジメント料』的なものをご用意していただけるとのことで。

 業界大手のトップから名指しでお仕事入るとか……これはもしかしておれ、結構な勝ち組なのではなかろうか。



 そんなことをお話ししていながら、気付けばもうお時間となっていたらしく……鈴木本部長は、それはそれはとても残念そうな顔で、お仕事へと戻る身支度を整え始めた。



「ラニちゃーん。ちょーっとお願い」


「ンホェ!? も、もっも。もごごめ」


「なんて?」


「…………すみません、ラニさん。お手間お掛けします」


「ンッ、……(ごっくん)……ぷへっ。なんのなんの。こちらこそウチのノワがいつもお世話になってます」


「おい」




 こうして、平日のお昼休みになかなかハードな大移動をねじ込んだ鈴木本部長さん、ならびに事務所勤めのスタッフさん何名かは……名残惜しそうに【門】に飲み込まれていき。


 おえらいさんのお話が終わり、フリーになったおれとラニちゃんのもとへ…………機を窺っていた配信者キャスターの皆さんが、大挙して押し寄せてきたのだった。




 わ、わたしって人気者なのでわーー!?



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