第477話 【第四夜目】細かすぎて加わらない



「ういちゃんういちゃーん。にんじんこんなもんでええー?」


「えっ!?!?? は!? ちょ、こまか…………あっ、(ッスゥーーー)……大丈夫……です。……じゃあうにちゃん、次じゃがいもの皮剥いてもらっていい? ゆっくりでいいよ?」


「おっけーやよー!」


「…………ういか殿」


「ミルちゃんごめん。うにちゃんには悪いんだけど……微塵切りにして貰っちゃって……いい?」


「心得た。タネに混ぜ込むのだな?」


「うん……そう。道振ちふりちゃんも、その方向でいい?」


「おっけー。……コッチのにんじんは無事だから。ちゃんと一口サイズだから」


「ごめん……ありがと」




 さてさて。まずはこちら、赤組のキッチンからお送りいたします。

 ちなみに食材をおさらいしておくと……シャウエッセ○・じゃがいも・牛豚合挽肉・にんじん・コンソメ・キャベツ・ホールトマト・マカロニ、そして卵。


 まずは厚手のポリ袋に牛豚合挽き肉を入れて強めに塩コショウを振り、そこに微塵切りにする羽目になったにんじん、そして支給品であるたまごを入れ……袋の上から道振ちふりさんの手によって、よーく練り混ぜられていく。


 その間にミルさんが沸かしていたお湯を二つの鍋に分け、片方では拡げて芯を少し削いだキャベツの葉を湯に潜らせ『しゃぶしゃぶ』する感じで、軽ーく熱を加えていく。

 もう片方のお湯には、幸いにして難を逃れたにんじんとシャウエ○センが、一口大にカットされて投入されていく。



「ういちゃーんおいも剥き終わったやよー!」


「うにちゃんありがと! じゃあつぎ、ミルちゃんたちとタネ巻いてって貰っていい?」


「お任せやよー!」



 細かく刻まれる前に救出したじゃがいもも、同様に一口大にカットして投入。そこへマカロニもざらざらと投げ込み、あとは塩コショウとコンソメを溶かし込んで味を整え、具材に火が通るよう煮込んでいけばいい。


 そして……ミルさんと道振ちふりさんが目を光らせる中、うにさんがお手伝いして出来上がった具材。

 それらは先程キャベツを『しゃぶしゃぶ』していた鍋(を空っぽにしたところ)へと並べられていき、ホールトマトをぶちまけた上からお隣の煮汁(コンソメ味)を注がれ、蓋をされ火に掛けられる。



 さてさて、一時はどうなることかと思ったけど……解答例であった『カレー』と『サラダ』をすっぱり諦め、ずばり『ポトフ』と『ロールキャベツ』へと進路変更を図った赤組。

 若干の不安要素であった一うにを見事に御しきり、あとは完成を待つばかりとなったのだった。





 かくして、もう一方のこちら。今度は白組のキッチンを覗いてみましょう。

 ちなみにこちらの食材は……にんじん・にんじん・和牛特撰カルビ・とうふ(もめん)・カレールウ(辛口)・レタス・うずらの卵・いかの塩辛、そして卵だ。



「とりあえず、もう和牛カルビはクロに任せっから……とにかく完璧に焼き上げてくれ。多くは求めねぇ」


「ぅん! まかせときー」


「ええなクロ、食うなよ? 絶対ぇつまみ食いすんなよ!?」


「…………………………もちろん?」


「アヤ君ごめん。やっぱ不安だわ」


「だろうねぇ!!」



 圧倒的に高級な食材なのは間違いないのだが、多分に扱いに困る和牛特撰カルビ。こちらはとりあえずくろさんに任せ、そのままフライパンで焼いていくようだ。


 またその隣ではカレー用であろう大鍋の底で、水気を切ったとうふ(もめん)の表面にカリっと焼き目をつけている模様。

 そして気になる大量のにんじんだが……その量を一対二くらいに分け、一のほうをサラダに、二のほうをカレーに利用するらしい。


 焼き色のついたおとうふ(もめん)を一旦取り出し、一口サイズにカット。にんじんの皮をむいて一口サイズに切り、まとめて大鍋へゴロゴロと投入。お水を入れて火にかけて、やわらかく火を通していく。

 あとはにんじんに火が通ったら、うずらの卵(ゆで)を具材として追加、さらに味の決め手であり最強ユニットであるカレールウ(辛口)を溶いて煮込めば……まぁ、ちょっと変化球だがカレーが出来上がることだろう。



 あとは残された食材……にんじん・レタス・いかの塩辛・卵を残すのみなのだが、どうやらこのままサラダを作るつもりらしい。


 まずは卵を茹で、にんじんはのように細長く刻んでいき、またレタスは分解ばらして水洗いして、食べやすいサイズにちぎって水に曝す。

 数分後、そろそろ茹で玉子が出来そう……というタイミングで、レタスの水気を切って大皿に移しておく。

 またついでに、細い針のようになったにんじんを軽く湯に通せば、柔らかくなるとともにより鮮やかな色へと変わるので、見た目にも華やかだ。


 あとは……厚手のポリ袋に殻を剥いた茹で玉子とマヨネーズを入れ、いかの塩辛と塩コショウを入れて潰しながらよーくにぎにぎして混ぜ混ぜ。

 出来上がった塩辛入りのタマゴサラダを、大皿に盛ったきざみレタスと細切りにんじんの上に盛り付けて……あらやだおいしそうやだぁ。






「「「「「「できたぁー!!」」」」」」



 食材の抽選に始まり、作戦会議を挟み、そして調理行程を経て……ついに二チームのお料理が出揃いました。

 一時はどうなることかと思いましたが、いわば『地雷』である食材を引かずに済んだことが幸いしてか、両チームともおいしそうな『料理』として完成にこぎ着けることができた。めでたい。


 あの食材ボードの選択肢は、事前に皆さんで設定したものだということなのだが……つまりは謎のにんじん推しも、なかなかシビアな模範解答も、ひっそり紛れ込んだ謎のメロンパンも、種を撒いたのは皆さん本人なのだが。

 いや……確かにまぁ、サイコロ振るときには非常に盛り上がりましたよ、特にメロンパン。でも本当に引いちゃったらどうするつもりだったんですか。さすがの霧衣きりえちゃん先生とてメロンパンを使った料理とかしらないとおもう。




「えーっと……それではまぁ、あとはこれから実食して採点していくわけなんですが……ご覧の通り、我々は全員が勝負の舞台に立っているわけで」


(んん!? …………あれ、着信?)


(どしたのノワ)


(いや、音声着信のバイブが。誰だろファーー!?)


(え、な、何? 誰?)


「お疲れ様ですお世話になってますどうしたんですか(小声)」


(ファーーーーーー!?)


「……はい。…………はい。できましたねお料理。みなさん結構なお手前………………えっ!? ちょ、えっと…………それ、えっ!? あの……アッ、……………あっ、……はい。…………そういうこと、でしたら…………えぇ、わかりました。大丈夫です。……はい。お疲れ様です(小声)」


(えっ? な、何? スズキさんなんだって?)


(えっーと、ね…………)


「……ということで! 特別審査員さんを呼んでみようと思います!」



 妙にはっきりと耳に届く、乗上のりがみ彩門あやとさんの宣言を受けて。

 Ⅳ期生の皆さん八名の視線が、カメラスタッフの後ろの藪の中で身を潜めていたおれ(たち)へと注がれる。




「特別審査員である……『謎の施設管理人さん』でェす!!」


(……ってわけで、いってくるね)


(えっ?)


(だ、大丈夫。カメラには映んないらしいから。声だけ。ふじやんみたいな感じ)


(はい???)


(あのねー鈴木本部長さんね、おれに話すの忘れてたみたいで。めっちゃ謝られたし……断りづらくって)


(ファーー!?!?)




 えー、はい。あくまで顔も名前も出さない『なぞの施設管理人さん』というスタンスにはなるのですが……はい。


 わたくし木乃若芽きのわかめ……いささか急では御座いましたが、審査員の大役、仰せつかりまして御座いまする。




 こ、この恩は……高くつくんだからねっ!


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