第478話 【第四夜目】けっかはっぴょー!
恩返しの気持ちにほんのちょっとの打算を織り混ぜ、審査員としての役回りを請け負った、『なぞの美少女エルフ管理人さん』ことわたくし
とはいえ、おれが下手に目立って注目をかっさらうわけにはいかない。主役はあくまで【
方針としてだが、なによりもカメラに映らないことが至上命題だ。ここんところは鈴木本部長はじめ『にじキャラ』のみなさんも理解してくれているというので、無理強いされることもないだろう。
なのでつまりは……カメラではお料理を映しつつ、料理人の皆様に工夫した点などなどを喋っていただき、その間にカメラの死角でわたくし
場を同じくし、採点のためにお料理を味見させていただくが、声のみの出演。
おれたちにとってわかりやすいイメージとしては……某北国ローカル局の超人気番組の、よく喋るおヒゲの
「……アッ、すほい。おいひ」
「…………お肉が挽き肉になっちゃったことと、あとルウがコンソメになっちゃったので……カレーはキッパリ諦めて、コンソメで出来る料理に絞りました」
「んぢゅる……はふ、あふ」
「…………コンソメ味そのままだとポトフとダブるので、ホールトマトでトマト煮ふうに。見た目と味の差別化は出来たかなぁ、と。卵は挽肉のつなぎに使わせていただきました」
「はふ、はふ。……アッ、おいもおいひ」
「…………ポトフのほうも、○ャウエッセンのおかげでいいダシが出たと思います。カレーとサラダからは遠ざかりましたが、いい感じに纏まったんじゃないかなぁと」
「ふぁい。……おいひいえひゅ」
いちおうお仕事とはいえ……おいしい料理をごちそうになったおれの意識は既にいい感じに出来上がっており、有り体にいえばとてもアホそうな顔を晒していたのだろう。
【Sea's】の皆さんはそんなポンコツなおれの姿を見て、なんとも複雑そうな表情を浮かべていた。
……いけない、これはいけない。
心を強く持て
正気に戻ったおれは、キリッと真面目な表情でひとつうなずき……続いて白組のお料理へと手を伸ばした。
「んふ、っ、んぢゅるっ、……あっ、あっ、はふ、はぐっ」
「……えー…………我々の食材ですが、まず和牛カルビがですね。こいつをカレーに入れて煮込むのは台無しになっちゃいそうだったので、開き直ってシンプルに焼きましてですね」
「あっ、うま……やあらか…………んふっ」
「…………カレーは肉抜きの野菜カレーになっちゃいましたが……代わりに和牛カルビ焼肉をですね、ライス部分にトッピングとして載せる形にしました。焼き肉丼的な」
「はふ、はふ……ア゛ッ! はーっ、はーーっ、うまっ……から゛、ッ」
「…………えっと…………あとは、ニンジンがめっちゃ多かったので、一部をサラダに回しました。見た目も鮮やかになったと思いますし……タマゴサラダにイカの塩辛混ぜてあるので、面白い風味になったかと。……好みが分かれるかもしれませんが」
「んぅっ……んふ、っ、……濃厚……おいひ」
…………うん、わかってる。
まわりからの視線がより一層複雑な感情を秘めはじめてるの、おれにはよーーくわかってる。
でもね……でもね、仕方ないんだよ。おいしいの。すごく。
これに甲乙つけなきゃならないなんて……どっちのほうがおいしいかを評価しなきゃいけないなんて、それはとても酷なことだと思う。なぜならどっちもそれぞれ趣向を凝らし、それぞれとてもおいしく仕上げているのだから。
「んぅーーーー…………ッ!」
「えっと……大丈夫? のわ、ッ…………審査員ちゃん」
「……!! (こくこく)」
「ヴッ!! …………じゃあ、そろそろ……結果発表のほうを、お願いしても良いでしょうか?」
「(こくん)(もぐもぐ)」
堂々巡りに突入しそうになる思考をなんとか纏め、心苦しいが両チームの間に優越をつけ、結果発表の大役に備える。
そうとも……この儀式を終えないことには、彼らが晩御飯を食べられない。せっかくの料理がおれのせいで冷えていってしまうなんて、そんな悲劇はゆるされない。
おいしいごはんは、みんなで仲良く……温かいうちに食べる方がいいに決まってるのだ。
「正直、とても悩みました。どちらもおいしかったですし、工夫もすばらしかったのですが…………」
「「「「「「「…………」」」」」」」
「…………方向転換の思いきりの良さと、食材の活かし方。すばらしかったです。……よって、赤チーム!」
「「「「わぁーーーー!!」」」」
おれが出した結論は……サラダ用として用意したキャベツを煮込み料理に転用する機転と、そのまま焼いたり茹でたりするだろうと思っていた卵をうまく『繋ぎ』に回した思いきりの良さ、同じコンソメスープ由来ながらもちゃんと別の味付けとして完成させた技量などを鑑みて……赤組。
もちろん白組も、サラダの見映えや味付け、肉をあえて焼いて別口で合わせるやり方など目を見張るものがあったのだが……赤組の創意工夫の方が勝っていたと、個人的には感じたのだ。
……決して、からくちが苦手なわけではない。決して。おれバー○ントカレーのからくちとか余裕だし。
かくして、惜敗した白組所属でありリーダーの
その後はみんなでお料理をよそって、それぞれのチームの料理を八当分して仲良く分け合い……賑やかなイベントの最終夜を飾る、賑やかで楽しげな夕餉の席が幕を開けた。
(どうしてこうなった)
(もう開き直っちゃっていいと想うよー?)
……特別審査員であったおれが撤収するのを待たず、また物理的に二人がかりで撤収を阻止しながら。
つまりは……おれを盛大に巻き込んだまま。
な、なにをするマァーーー!!
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