第476話 【第四夜目】ビストロわかめ沢





お見舞いするぞッ!!



――――――――――――――――――――




(…………っというわけで、ここからは解説の白谷さんも交えてお送りいたします。……早速ですが白谷さん。今後の試合展開に関しまして、率直にどう思われますか?)


(そうですねー、幸いにして単品で全てを台無しにする食材は回避できたので、今後どうやってリカバリーしていくかが見所でしょう。各チームの『料理つよつよ勢』の活躍に注目です)


(ありがとうございます。ちなみに白谷さん的には、どちらのチームに魅力を感じますか? こう……食材的に)


(うーーん……難しいところですね。やはり全体的に『たまご』みが足りないので、ここはひとつ運営側からのアプローチにも期待したいところです)



 なるほど……ありがとうございます。

 それではここで、全八回の食材抽選を終えた両陣営の食材スターティングメンバーを確認してみましょう。


 まずは赤組。シャウエッセ○・じゃがいも・牛豚合挽肉・にんじん・コンソメ・キャベツ・ホールトマト・マカロニ……以上の八点。

 ボード四枚目でにんじんを回収し、たまねぎこそ無いものの割と正統派マトモなカレーに王手を掛けたかと思いきや……二順目第一投となるボード五枚目にて、われらが村崎むらさきうにさんがついにやってくださいました!

 二分の一、五十パーセントの確率を外し、カレールウを入手すること叶わず……もはやカレーの目は完全に潰えた模様。

 しかしその一方でキャベツとマカロニはゲットできたので、フリー調味料のマヨネーズや塩コショウとうまくあわせれば、サラダのほうは無難に仕上げられそうだ。


 対する白組の食材デッキ。にんじん・にんじん・和牛特撰カルビ・とうふ(もめん)・カレールウ(辛口)・レタス・うずらの卵・いかの塩辛……以上八点。

 にんじんを二枚重ねされたり、おとうふが入っていたり、お肉が煮込み料理には向かなさそうだったりと迷走しがちだが……それでもカレールウ(辛口)を手に入れられたことは大きい。これさえあれば何が入っていようともカレーになる、最強の武器なのだから。

 ただその一方で……レタスは良いとして、他の食材でどうサラダを用意するかがポイントになるだろう。そもそもサラダになるのだろうか。『うずらの卵を潰してマヨネーズで和えてタマゴサラダに』とかいうお声もチラッと聞こえてきたので……やはりこのあたりで、運営からの介入を考えるべきかもしれない。




(介入しちゃうか。いちパック持ってって分けてもらうくらいで良いかな?)


(いんじゃないかな。たまごって便利だし、焼くだけでも一品できるでしょ?)


(あって困んないよね。よし持ってこう。『たまご』みが増えるよ!)


(やったねノワちゃん!)



 ……というわけで。

 チームメンバーどうしで顔突き合わせて作戦会議の真っ最中ではあるが……ここで『おたすけ天使』の登場だ。


 休憩小屋外の調理台を囲んで会議中のみなさんのもとへ、カランコロンと硬質で雅な下駄の足音が近づいていく。

 聞きなれない足音の接近に顔を上げた【Sea'sシーズ】の皆さんが目にしたのは……籐のカゴを大事そうに抱えた、とてもかわいい白髪和服美少女の姿。




「みなさま、ごぶさたしております。たいへんお疲れさまに御座いまする」


「ああー! きりえっちゃん!!」


「りえっちゃんやーん! まいど!!」


「こんにちは、きりえさん。……えっと、どうしたんですか?」


「はいっ。みなさま、ご機嫌うるわしう御座いまする。わか、っ……わ、わぅぅ…………うんえい様より、食材と……わたくしめから、お茶の差し入れに御座いまする」


「「「「「「おぉーー!」」」」」」




 初日の『おにぎり差し入れ事件』、および開き直って登場させていただいた『肝試し』の一件により、その容姿と性格の良さと言動の可愛らしさからたいへん高評価をいただいているらしい霧衣きりえちゃん。

 彼女を今ひとたび投入し、たまご(M玉・十個入り)をお届けしてもらい、また『皆さんでなかよく使ってくださいませ』と言伝てを頼んでおく。


 これさえあれば……マヨネーズ(フリー調味料)でタマゴサラダを作ることも簡単だし、ゆでてスライスしてカレーのトッピングにしたりもできるし、具材を混ぜて焼けばとりあえず一品作れるし、いろいろと応用の幅は広がることだろう。



「それでは、わたくしめはこれにて。失礼致しま」


「きりえっちゃん待って! 意見聞かせて!」


「わぅぅ!?」


「あっ、んにはんずるい! りえっちゃんうちらにも知恵貸してほしいねんけど!」


「わ、わうぅぅぅ!?」



(あー…………どうする? ノワ)


(うーーーん……まぁ、会議くらいなら許可する?)


(そだね。お話し合いだけ。……じゃあキリちゃんに伝えてくるよ。コッソリね)


(ありがとう~~)




 ……というわけで。

 今や和食だけでなく、洋食の知識も身に付けたわれらがお料理担当(※中華やスパイス料理はまだお勉強中らしい)の知恵を借りつつ、【Sea'sシーズ】の八名は作戦を練っていく。

 果たして彼らは、カレーとサラダを作れるのか。いやカレーとサラダに限らずとも、無事お料理を完成させることは出来るのだろうか。


 なおこの相談の場は、当然のように『にじキャラ』さんのチャンネルでリアルタイム配信中なので……つまりは今まさにリアルタイムで、霧衣きりえちゃんのファンが増えていっているということだな。なぜなら霧衣きりえちゃんはかわいいので。



(ノワも程よいところで自己アピールしとかないと……知名度キリちゃんに越されちゃうかもよ?)


(んグゥー!? そ、それわやばい…………でも霧衣きりえちゃんにだったら負けてもいいかなって思っ)


(キリちゃんが悲しい顔するからやめなさい)


(アッ…………ッスゥー…………)




 おれよりも霧衣きりえちゃんが人気になることに関しては、おれは何も不満は無いのだけど……でも確かに、もしそうなると霧衣きりえちゃんのほうが『しょんぼり』してしまうことだろう。

 あの子は……おれなんかにはもったいないくらい、何かにつけておれのことを立ててくれる『とてもいい子』なのだ。


 やさしいあの子のことだ、もし何か数字で現れちゃうもの……たとえばSNSつぶやいたー(※霧衣きりえちゃんはやっていない)のフォロワー数とか、ファンスタ(※おれもやっていない)の『いいね』数とか、そういうのでおれよりも高い評価を頂いたときには。

 あの子は何も悪くないのに、『申し訳御座いませぬ』『お仕えする立場に在りながら分不相応な評価を』なーんて感じでしょんぼりしてしまうのは、想像に難くない。あの子はそういう子だ。



 ……なので。

 今回こうして、霧衣きりえちゃんの人気が跳ね上がる見込みが得られたのならば。

 単純に……彼女の『ご主人さま』であるおれが、もっともーっと大人気になればいいだけのことだ。


 そうすれば、霧衣きりえちゃんもモチロンおれも、いっぱい人々に知ってもらえて万々歳なわけだ。



 そのための布石は、抜かりない。おれだってここ数日、単なる伊達や酔狂で草むらにしゃがみこんで覗き見し続けているわけじゃないのだ。


 もちろん、いち視聴者ファンとして特等席で眺めたいという下心が『無い』と言ったら嘘になる。

 しかしながらそれ以上に……プロ中のプロであり業界トップの演者さんたちによるエンターテイメント、そしてそれを成功に導く縁の下の力持ちな方々の働きっぷりを、間近で文字通り『見学』させていただいているのだ。



 そのまま企画をパクるのでは、単なる二番煎じになってしまうけれど……おれたちが企画を考えるときの参考にさせていただくくらいなら、おそらく可能だろう。


 またこの配信は、いつものおれたちの配信なんかとは桁違いの視聴者さんが見に来てくれている。

 なので『どうすればウケるのか』『視聴者さんは何を求めているのか』などといったとても有用なデータも、かなりの信憑性とともに手に入れることができるのだ。


 つまりは……この『実在仮想アンリアル林間学校』そのものが、おれにとってのキャリアアップ研修だったんだよ!



(な、なんだってーーーー!!?)


(はい。ラニちゃんが順調に知識を深めてくれてるようで、おれはとてもうれしいです)


(キリちゃんだってがんばってるんだもんね。みんなヒビセーチョーだよ)


(えらいぞ~~~~)




 そう……ここ数日は『おもてなし』に奔走していたおれたちだけれど、結局のところはわれらが『のわめでぃあ』の更なる飛躍のため。


 おれたちと『にじキャラ』さん双方にとって、非常に実りある催し物にするため。



とりあえずは……楽しんでいこうじゃないか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る