第475話 【第四夜目】運命の選択



 拾い集めた八本の枝のうち四本を、片側の端だけナイフで皮を削り取る。

 そうして印を付けた部分を、印の無い四本と一緒に握り込んで隠すことで……即席の組分けクジが出来上がる。


 端の削れた組と、削れてない組。四名対四名にズバッと組分けを行うことができる上、しかも使い終わったら燃料にもなる。ハイテクだ(ハイテクか?)。




「なんか勝った気がしてきたわぁ」


「それ完全にフラグじゃないで…………ではないのか?」


「でも道振ちふりん居るなら心強いよねぇ」


「いやいやいや、ういちゃんのほうが心強いでしょ」



 まずは一組目、暫定赤組。

 パンキッシュゲーマーガール『村崎むらさきうに』さん、水底領主男の娘『ミルク・イシェル』さん、アクティブアウトドアガール『洟灘濱いなだはま道振ちふり』さん、大正浪漫文芸インドア少女ガール文郷もんごうういか』さん。

 若干いちうにを除き、家事や料理が得意そうな子が揃った実力派チームだが……なんというか、何かやらかしそうな子がひとうにいるので、そこだけが不安だ。




「待て待て待て! マズいてこれ! 料理上手みんなあっち行ってもーてるやんけ!」


「し……失礼な! こっちにもちゃんと女の子二人居るだろうに!」


「ミズいいか、正直に答えろ。お前そんな料理自信あるか? そして何より……クロが料理得意だと思うか?」


「………………えっとぉ……」


「……? んにゅ?」



 一方こちら二チーム目、暫定白組。

 フィジカル面に自信ニキ『甲葉こうばこがね』さん、声がいい見た目美少年美少女『花笠はながさ海月みづき』さん、貧乏クジ引きまくる系リーダー『乗上のりがみ彩門あやと』さん、そして空前絶後のおうた女王若女将『玄間くろまくろ』さん。

 こちらもなんだかんだで有力選手が揃っている模様。【Sea'sシーズ】の男性陣は全体的にハイスペックなので、どんな活躍を見せてくれるのかが楽しみだ。あと若干不安ないちくろの動きにも注目したいところだ。




「……まぁなんだかんだ良い感じに分かれたんちゃう?」


「そだな。あと食材ランダムだし……どうなるかわからんぞー?」


「ニンジンだらけのカレーとかなったらどうしよ……」


「いやそもそもカレールウ取れなかったら悲劇よ!」


「うち牛肉食べたぁい。すき焼き食べたぁい」




 赤組白組ともにこころの準備が整ったようなので、いよいよ試合開始となる。

 まずは抽選ボード八枚を持ち出し、使用する食材の抽選だ。ぶっちゃけ料理のていを保てるかどうか、すべてがこの瞬間に掛かっている。


 ……というわけで、注目の第一投。赤組からは村崎むらさきうにさん、白組からは乗上のりがみ彩門あやとさんがスタンバイ。気になるボードの内容は……上から『にんじん』『だいこん』『シャウ○ッセン』『にんじん』『にんじん』『にんじん』となっている。

 恐らくはカレーの材料の一部であろう、第一の食材ボード。四五六番の執拗な『にんじん』推しがちょっと気になるが、一番のハズレだとしても『だいこん』なので、まぁ傷は浅いだろう。にんじんどもめ。




「頼むぞうにちゃん!! にんじんを! にんじんさんを!!」


「村崎やらかせ! やらかせ! だいこん引けだいこん!!」


「うっせぇ! ウェイこそだいこん引きやがれ!!」


「うち牛肉がええなぁー」



 なにがでるかな。なにがでるかな。

 両陣営の応援と配信画面のコメントが熱を帯びる中、ついに放たれた第一投。



 果たして結果は……赤組うにさんが三、白組あやとさんが六。




「まーまーまーまー。ほら、価格でいえば一番高いし?」


「ものは良いようだの……」


「いや、あの……うにちゃん」


「私らカレー作ろうとしてんだよなぁ!」



 カレーの材料ということを考えると、若干疑問は残るが……シャウエ○センを手にいれて何故かドヤ顔のうにさんと。



「まぁ確率三分の二だし。普通は取れるよね。日頃の行いかな?」


「ヒューッ! さすがリーダー苦労人!」


「さっすがパシられリーダー!」


「マヨラー!」


「褒められてる気がしねぇなぁ!? さっきからァ!!」



 こちらは順当にカレーへ向けて駒を進めたにもかかわらず、チームメイト(と配信画面のコメント)から散々な言葉を投げつけられる彩門あやとさん。

 実際その貢献はなかなかなのだが……なんだろう、いつか報われてほしい。そう思わざるをえないキャラクターだ。




 というわけでその調子で、どんどん食材をピックアップしていこう。

 残りの食材ボードはぜんぶで七枚、そして各チームメンバーは四名なので、必然的にみんな二回ずつサイコロを振ることになる。にげられないぞ。


 ちなみにだが……サイコロに選ばれなかった食材も当然出てくるわけで、つまりは結構な量の食材が余るわけだが、そのあたりの処分は我々『のわめでぃあ』が引き受けさせていただくことになっている。

 ラニちゃんがいれば賞味期限も気にならないし、最近レパートリーが増えてきたお料理担当霧衣きりえちゃんの手にかかれば、きっとおいしく料理してくれることだろう。




「次はぼくで…………んんっ。……次は余の番だな。大船に乗ったつもりでいると良い」


「今『ぼく』って言うたよな? ミル」


「言い直しても無かったことには出来ませんよ?」


「水底の領主なのに船に乗ってて良いんですかァー」


「ぐぬぬ……!!」



「……じゃあ、僕が行こうか。このまま波に乗っていこう。海月くらげだけに」


「よっしゃミズ頼むで! じゃがいもや! じゃがいもさんやで!」


「いいな絶対にんじん引くなよ。絶対だぞ。倍にんじんとかいらんからなマジで」


「うち……牛肉…………」



 今後のお料理の方向性を左右する、大切な二投目。サイコロを握ったのは……赤組がミルさん、白組が海月みづきさんだ。

 気になるその選択肢は、上から『じゃがいも』『じゃがいも』『さつまいも』『さといも』『にんじん』『にんじん』となっている。

 ……うん、またしても謎のにんじん推し。しかもその確率は三分の一を占めており、模範解答であるじゃがいもと同率一位である。


 幸い、というべきか……さつまいもやさといもを引いても、カレーとして成立させることは出来るだろう。むしろにんじんを引いたとしても、そこまで深刻な事態にはならない。


 …………が。

 じゃがいもが入っておらず、代わりににんじんが山ほど投入されたカレーともなれば。

 さすがに【Sea'sシーズ】の皆さんの中に『にんじんキライ!』なんて言う子は居ないだろうけど……だとしても、そこはかとなく残念なことになる……かもしれない。





「あっ!? おぉーー!!」


「んほぉー! やりおったやんミルぅぅ!!」


「ナイスゥ!!!」



「あぁ!? そんなぁ!!」


「う、うわぁーーまじかーー!!」


「やりやがったなこのロリコン!!」



 注目の一投。赤組ミルさんの出目は二、対する白組みづきさんの出目は……六。

 それぞれ狙い通りのじゃがいもと……ある意味で狙い通りかもしれない、にんじん(二倍量)である。





 この結果を受けて赤組は調子を取り戻し、白組は焦りを滲ませ……そのままの流れで迎えた三投目。今回はどうやら『お肉の部』ということらしい。

 選択肢は『豚バラブロック』『豚ロース薄切り』『牛ロース薄切り』『和牛特撰カルビ』『牛豚合挽き肉』『メロンパン』。命運を担う投手は……赤組ういかさんと、白組くろさん。



 その場の誰もが『メロンパン以外』を熱望した結果……まぁ、想うは招くとでも言うべきだろうか。


 軌道修正を図れそうだった赤組は、五番の牛豚合挽き肉。

 ダブルにんじんをお見舞いされた白組は……なんと四番、和牛特撰カルビ。



 見えていた地雷の回避には、見事に成功したはずの一同は……しかしながら、微妙に『これじゃない』お肉を手に入れてしまったことで、とても複雑な表情を浮かべていた。




 なお、そんな八人の中でただ一人。


 当初から牛肉を切望していた玄間くろまくろさんだけは……狙い通りの獲物を引き当て、満面の笑顔ではしゃいでいた。



 かわいいが。




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