第469話 【二日目昼】引継ぎメンテなんす



 見所も事件も名言も撮れ高も、いろいろと盛りだくさんだった『実在仮想アンリアル林間学校』第一部は、早いもので終了のときを迎え。

 正装に着替え直した勇者エルヴィオさんによって、クロージングのお言葉が告げられ。



「ゥお疲れ様でしたァーーー!!!」


「「「「「お疲れ様でした!!」」」」」



 Ⅰ期生八名による第一陣は……こうして無事、配信終了を迎えることができた。



 現在時刻は、午前の十一時。

 配信の中で後片付けと撤収も済ませてくれたので、この後は三時間程度の休憩ならびに施設メンテナンスを挟んで、第二陣であるⅢ期生【MagiColorSマジキャラ】の皆さんをお迎えにお伺いすることになる。

 第二陣だけど、Ⅲ期生だ。これは厳正なる抽選くじびきの結果なので、仕方がない。お間違えの無いように。



 というわけで、ひと仕事を終えたⅠ期生の皆さんは、そのときに『にじキャラ』さんの事務所へお送りする手筈になっていた…………筈なのだが。




「あっ、お構い無く。オレらここで良いんで。ありがとね」


「えっ?」


「近くにホラ、落水荘さんあるだろ? 俺様達が『なかゲ部』の凶禍きょうか合宿で世話んなったトコな。そこ三泊取ってあるんだわ」


「…………あっ、」


「せっかくの温泉に入らないで帰るって、それはそれで残念だし、ねぇ?」


「それに……オレらは肩の荷が降りたわけだし。完全に視聴者の側に立って、みんなの配信見てみたいし」


「な…………なるほどぉー?」




 なるほどなるほど……まぁ確かに、理にかなっていると言えなくもない気がしなくもない。


 ここから滝音谷たきねだに温泉街までは徒歩で行ける距離だし、せっかく温泉街の近くまで来たなら温泉を堪能していきたいところだろう。

 しかも昨晩は設備が充分とはいえないキャンプ場で一夜を過ごしていたので、身体を清めることができなかったのだ。焚き火やBBQのにおいも着いちゃってるだろうし、きれいさっぱりしたいのは当然だ。


 そしてそして、せっかくきれいさっぱり温泉を満喫したのなら……そのまま気持ちのいい畳のお部屋でゴロンしたいというのは、すべての日本人に備わる基本的な欲求なのだ(※一概にそうとは限りません)。



 梅雨の頃にミルさんをそそのかして無茶したお陰で、温泉街のシンボルである誉滝ほまれたきは、その雄々しい姿と水音を惜しげもなく振る舞ってくれている。

 紅葉が始まりつつある秋口の温泉街ともなれば、それはそれはリラックスできることだろう。




「……まぁ、そんなわけで。オレらは落水荘さんに移動して、温泉入ってノンビリして、あとは優雅に人気配信者キャスターのキャンプ配信でも堪能しようかなって」


「あそこWi-Fi飛んでるもんな。至れり尽くせりだわ」


「もし私たちに手伝えることがあったら、なんでもREINちょうだいね! 肝試しとか!」


「そう、肝試し! そんな楽しそうなことしてたなんて我輩聞いてないんだけど!」


「ウィルくんりんごジュース飲んで熟睡しとったからなぁ……」


「わたしも参加できなかった……くやしいー!」


「セラちゃんは見た感じおこさまだから、夜更かしは……ほら、ね?」


「『ね?』じゃないが!!!」


「わがはい……きもだめし……」


(邪龍かわいいかよ)





 ……こうして、ひと仕事を終えて『いい旅気分』になっているプロ配信者キャスター集団ご一行さまは。

 しょんぼり顔の邪龍のなかのひとと天使のなかのひとを宥めながら、たのしいたのしい二次会温泉旅行へ向けて、みんな仲良く旅立っていった。


 まぁ…………『肝試しとか』かぁ。

 もしⅢ期生の皆さんがご所望なら、そのときは相談してみようかしら。




 まぁともあれ、今は直近に迫ったタスクをこなさなければな。

 おれたち運営サイドがやらなきゃいけないことは……そんなに多くはないが、大切なことばかりだ。


 キャンプ場休憩小屋の清掃・整備や、水洗トイレの機構点検や、トイレ用雨水タンクおよび調理場シンク用上水タンクのチェック、場合によっては給水。

 管理棟おうちに続く砂利道に問題がないか再チェックしたり、出っ張ってる藪を切り払って歩きやすくしたり。

 あとは……引き続き業務をこなしているスタッフの皆さんにも、不都合がないかを確認しておいたり。




「御館様。補充分の薪割り、完了致しました」


「登り易そうな木も幾つか見繕いましたよー。まぁ人間さんが登れるかは解りませんけど」


「意味ないじゃん阿呆姉ぇ」


「はははは……ありがとうございます。こちらお礼のハー○ンダッツです」


「「「わーい」」」




「わかめさま! おつかい完了いたしまして御座いまする!」


「わかめどの、わかめどの。我輩ちゃんと『にんじん』と『じゃがいも』を探し当てたのだぞ」


「ごしゅじんどのー! 愛らしい朽羅クチラめが戻りまして御座いまする!」


「ン゛ン゛ッ!! …………ありがとね、みんな。ご褒美のかきぴー(梅しそ味)だよ」


「「「わーい」」」




「ノワただいま! デンチ回収してきたよー!」


「おかえりラニ。金鶏きんけいさん何か言ってた?」


「いいや、特には。ステラちゃんも大人しくしてるらしいし。見張りのネコチャンシンシたちと一緒にキャンプ配信見てたって」


「おぉー、まじか。じゃあ尚のこと気合い入れないとなぁ。……はいこれ、お駄賃のたまごぼーろだよ」


「わーい」




「……御館様。……会場近辺の清掃、恙無つつがなく完了致しました」


「ありがとうございます。……すみません、小間使いみたいな雑用させてしまって……」


「……いえ、問題御座いません。……清掃は保守点検業務の基本に御座いますゆえ


「うぅぅ……ほんと助かります。こちら心ばかりではありますが、南国の泡盛です」


「ほぅ、これは。……有り難く頂戴致します」


「……………………」


「…………? ……何か?」


「…………いえ……何でもないです」




 そんなこんなで、『のわめでぃあ』の総力を挙げてメンテナンスを済ませていき……なんと、およそ一時間そこらで受け入れ準備は整った。手前味噌だが、みんなかなり手際がよかったと思う。



 ときをほぼ同じくして、管理棟おうちにお届け物が到着する。

 保温用のスチロール箱から取り出されたほかほかのは、のすぐそこの滝音谷たきねだに温泉街の食事処『あまごや』さんお手製の、仕出し弁当が十四人分である。


 原付バイクを駆って届けに来てくれた店主の息子さんいわく、『緑髪の女の子に紹介された』という八人組のお客さんも来てくれていたとのことで……お弁当と併せてお礼を言われまして。


 いやいやいや、こちらこそありがとうですし。おいしいお弁当を届けてくれて、おかげで我々は調理と片付けの時間を業務に充てることが出来るわけで。

 お代をお支払いして、夜の分のお弁当を注文して、お礼を言って息子さんと別れ……『のわめでぃあ』のみんなとスタッフさんとで、おいしいお弁当を堪能する。



 あと三十分もしたら、第二陣をお迎えしに『にじキャラ』さん事務所まで飛んでかなきゃいけないのだ。

 まったく。いそがしくて、いそがしすぎて……とても楽しくなってきちゃうじゃないか。




「配信スタートは……十四時だっけ?」


「そうそう。なので遅くとも十三時半には現場入りしてもらいたいし、ってなると『にじキャラ』さん事務所での説明時間とかも考えて……逆算して、十三時ちょっと前くらい? あっ、たまごやき。食べる?」


「たべるたべる! じゃあゴハン食べて、ちょっと休んで……四十五分くらいに出ればいい?」


「んー、そうだね。金剛さんにも伝えとかないと」



 Ⅰ期生マネージャーである金剛さんは、おれと一緒に『にじキャラ』さん事務所へと帰還する予定となっている。

 配信者キャスターの皆さん同様にひと仕事を終えた金剛マネージャーさんと入れ違いで、今度はⅢ期生のマネージャーである伊倉さんがスタッフ陣に合流する形となるので……行きは一名、帰りは六名をお送りするわけだな。



 そんなわけで、つぎのお客様は『にじキャラ』Ⅲ期生【MagiColorSマジキャラ】の皆さん……フリフリガーリーで可愛らしい、日曜あさ八時半チックな五人組だ。


 たのしいたのしい四泊五日の、第二泊目……はりきっていってみよう!


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