第461話 【企画初日】施設利用の手引き
えー……月日が経つのは早いもので。
現在はですね、少しずつ涼しくなりつつある九月も下旬の……某月曜日の朝ですね。
愛智県東部の岩波市を拠点とするわれわれ『のわめでぃあ』でございますが……本日は諸用により、東京都は渋谷区の某所へとお邪魔しておりましてですね。
「えー、それでは……
「「「「「おはよーございます!」」」」」
「お、おおぅ…………はい、みなさん元気いっぱいですね。とてもよいお返事です」
最近すっかり顔を覚えられてしまった、株式会社NWキャスト内『にじキャラ』さん事務所、その会議室。
そこへ集められたのは……Ⅰ期生の演者さんが八名と、大小さまざまな機材を携えた
総勢十四名……たいへんいい笑顔の、いい歳した男女の集団である。
何が始まろうとしているのか……なんて、今さらご説明するまでもないだろう。
紆余曲折を経て、どうにかこうにか充分な準備が整ったと自負している『わかめ沢キャンプ場(通称)』での、大規模同窓会コラボ配信……一泊二日が四連続で合計四泊五日にも及ぶ超おたのしみウィークが、いよいよ始まろうとしているのだ。
「えー、それでは僕のほうから。改めて今回のイベントについて説明しますね」
「アッ、おねがいします」
今回
……尤も『にじキャラ』のみなさんは重々承知の上だろうので、つまりはおれに対しての確認の意味も籠められているのだろう。『我々はこういう説明をしました』ってことだな。
「まず……今回は一部の例外を除き、常時『新世代演出技術』の使用を前提として配信を行って頂きます。皆さんには『実在
「はい! 誠心誠意準備させていただきました! ……えーっと、キャンプ場のまわりにも充分な広さの山林がありますし、巡回警備スタッフもこちらで手配してあるので……部外者にパパラッチされる心配は無いと思います」
「ありがとうございます。カメラは合計三台、うち一台は
今回の大規模同窓会コラボの、ひとつの特徴といえる試み……それこそ、この長時間に渡る『ぶっ通し配信』作戦である。
キャラクターを演じて演目をこなすというよりかは、ありのままを視聴者の皆さんに見てもらい、場を共有してもらうことを主眼に置いたこの戦法。
芸能人や有名
とはいえ、さすがに常時見られっぱなしを意識しなければならないとなると、場合によっては体力の問題もあるだろう。
いつもより大きな身体を操らなければならない『邪龍』のウィルムさんや、浮遊魔法の制御に集中しなければならない『天使』のセラフさんなんかは、特に注意が必要だ。
休憩小屋の中をディレクタールーム兼セーフゾーンとして活用してもらったり、いざとなったらおうちに退避してもらったり、極力
まぁ……そのあたりは
みなさんが楽しく過ごせるよう、手取り足取りいろいろとフォローさせていただこうではないか。むふふ。
その後も鈴木本部長の説明は続き、どちらかというと技術的な説明に移っていった。
なんでも、カメラの音声や映像は休憩小屋内の特設ディレクターブースに送られ、スタッフさんの手による調整を経て全世界へと公開される形となるという。
ちなみに、やはり気になるネット環境だが……われらが
件の超ロング延長コードを引き込む際に『どうせならば』と、バリバリ業務用の光ファイバーケーブルを担いできてくれた。
更に、土魔法の使い手であるおれが居るわけなので……『せっかくならば』とPF管を地中埋設し、その中に電源ケーブルと光ファイバーケーブルを通し、おうちから小屋まで引き込んでしまおうということになりまして。
つまりは、元は水遊びの更衣室として建てられた休憩小屋だったが……今となっては水洗トイレあり・電源あり・ネットワークコンセントありの、つよつよ仕事環境として生まれ変わったわけだな。
まぁ、数日前には『多少の不便さが非日常感を演出して~』とか言っていた気もするが……御客様満足度のためならば、自分のこだわりなんて投げ捨てて見せますとも。
「……という形になります。つまりは配信が『休憩中』となっているとき以外は、常時皆さんの姿は全世界に晒されているものと考えて下さい」
「ちょ……晒され、って…………まぁそうなりますか。一応小屋の中とか、おうちとかはセーフゾーンとして休めるようにしてありますので、必要に応じて使ってください」
「ありがとうございます。……加えて、今回はあくまで『にじキャラ』としてのコラボ企画です。酷なようですが、今回『のわめでぃあ』の皆さんは施設管理者として、極力裏方に徹していただきます。……つまりは、配信中の接触禁止です」
「「「「「「ええーーーー!!」」」」」」
「いや、『ええー』じゃないですって。そういう話だったじゃないですか。何でそんな残念そうなんですか」
「じ、じゃあじゃあ! その『休憩中』とか……カメラが回ってないとことかじゃったら……」
「まぁ……施設管理者への問い合わせなんかもあるでしょうし、こっそりとであれば良いでしょう」
「やったぁ!!」「ちょっと!??」
にぎやかなオリエンテーションは順調に進み、おれの口からも一通りの注意事項や『困ったときは何でも相談してくださいね』と言葉を添えさせていただき。
これにて……第一陣であるⅠ期生の皆さんの準備が、いよいよ整ったわけだ。
「僕が付いてけないの、正直本当悔しいんですけど……でもその分は配信見て楽しませて貰うので、そのつもりで臨んで下さい。……では若芽さん、後のことはお願いします」
「おねがいされます!」
(まぁ働くのはボクなんだけどね!)
(ごめんて)
窓のブラインドをしっかりとチェックして、部外者の目がないことを確認し、ラニに頼んで【門】を開いてもらう。
高価な機材を抱えての、かなり大所帯の移動となるが……ラニちゃんのおかげで、目的地まであっという間に到着できるのだ。すごいぞ。いつもすまないねぇ。
(なんのなんの。ボクはボクでいつもノワに吸わせてもらってるし)
(どこを!?!!?)
(………………魔力のこと……なんだけど)
(…………………………し、しってたし)
(あ、もしかしてノワ、ボクに吸ってほしかったとか? おっぱ)
(さあ気合いれていこー!!!)
(誤魔化し方が露骨ゥー!!!)
団体さんを送り届け、改めてとても残念そうな顔してる鈴木本部長にご挨拶し……最後におれたちも【門】へと飛び込む。
ぐんにゃりした異空間を出た先は、山中特有のひんやりした空気に包まれた……われらが拠点『のわめ荘(通称)』の正面玄関前だ。
ここから会場である『わかめ沢キャンプ場(暫定)』までは、徒歩でおよそ五分ほどになる。
……さて、それでは。
われわれ『のわめでぃあ』一同、はりきって『おもてなし』させていただきましょうか!
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