第460話 【最終確認】今度こそ準備万端



 先日の商談の際に『にじキャラ』さんへと提案させていただいた設備拡張だったが……ちゃんと想定通りの動作をしてくれた水洗トイレの完成をもって、これにて無事に公約実現と相成った。


 つまりは、上水シンク(ポリタンク式)と炊事場スペース(調理台とかまどと薪置き場)……そして水洗トイレ(雨水利用)の住環境向上セットである。



 さすがに、一流どころのキャンプ場には遠く及ばないが……これならばまぁ、お客さんをお招きしても(さほど)問題ないレベルだろう。

 『にじキャラ』の配信者さんたちをお招きして、部外者の目を気にすることなく【変身キャスト】を行ってもらい、その姿のままキャンプに興じてもらい……そしておれはそれを特等席から後方主催者顔で腕組みしつつ堪能できるという、まさに神企画である。

 キャンプでキャッキャ戯れる推しをタダで堪能できる上にお金もらえるとか、得しかないじゃん。完全勝利かよ。バグかな?



 


「……ときに、御館様。少々気になることが御座いまして」


「なんでしょうか天繰てぐりさん? おむかえ準備を完璧に整えた『わかめ沢キャンプ場(暫定)』に気になるところですか?」


「……えぇ、まぁ。……差し出がましいとは存じますが…………電源は、如何程に?」



 ふっふっふ、電源ですか。よくぞ聞いてくださいました。

 確かにこちらの休憩小屋、水道や電気といったライフラインは引いてきておりませんとも。


 しかしですね、いやー技術の進歩ってすばらしいですよね。っというのも、モバイルバッテリーなんかとは文字通り桁違いの巨大容量をもつ充電式可搬電源バッテリーをですね、こちらご用意しておりましてですね。

 この子がいれば、夜間の照明機器やスマホの充電や、さらにはノートパソコンを持ち込んでの作業だって大丈ブイのスグレモノなわけですよ。ふふ、便利ぃ。



「…………成る程、承知致しました。……配信用のカメラやパソコンの電源も、そちらから取る形でしょうか?」


「ですです。充電しなくても二~三日くらいは持つ計算なので………………ッ!!?」


「…………お気付き頂けましたか、御館様。同時参加人数と、使用電子機器の総数と、総消費電力……そして何よりも、総稼働日数。……手前は仔細を存じませぬが、長時間の撮影および配信ともなりますと……蓄電池バッテリーのみでは、少々不安が残るかと」


「  。 、!  ?! 、」




 ヤバイヤバイヤバイ。そうじゃんなに余裕ぶってんの。足りるわけないじゃん大型企画やぞばかばかばかおれのバカ!!


 確かに……確かに、あの蓄電池バッテリーくんは優秀な子だ。満充填しておけば三日くらいは小屋にカンヅメになってても賄えるくらい容量はある。

 でも……でもそれは、おれ一人・カメラ一台・ノートパソコン一台の場合だ。


 今回の配信は一泊二日の日程を四連続、合計五日間の予定だ。

 Ⅰ期生やⅣ期生といったユニットごとに一泊二日してもらい、一番目の団体さんユニットのチェックアウト後に、掃除やお水の補充などの小休憩を挟んで二番目の団体さんユニットがチェックイン、同様に一泊二日してチェックアウトした日にまた休憩メンテを挟んで三番目がチェックイン……という流れになるわけで。

 つまりは……けっこうな容量をもつ(=満充填までけっこうな時間がかかる)蓄電池を、充電しにいく時間がないわけで。


 それに、消費電力に関してもだ。少なくとも人数ぶんのスマホ充電と、日没後も活動できる明るい照明機器と、二台以上であろうカメラと、パワータイプであろうPC。

 ……おれ一人のときと比べ、消費電力の差なんて……考えるまでもないだろう。



 つまりは……やばい。

 どれくらいやばいのかというと……もれそうなくらい。





「…………まだ期日も御座いますし……手前にお任せ頂けますでしょうか? 御館様」


「ふぁい!?」


「……本職の電気工事士には及びませぬが……御屋敷から延長電線を引く程度であれば、可能かと」


「でんきひけるの!? すごい!!」


「……計画としてはあくまで『非常に長い延長タップ』に過ぎませぬ。……御屋敷の外部電源にプラグを挿し、地中に埋め込みつつ電線を這わせ、或いは木々の枝に掛けて小屋まで持って来ること自体は……恐らく可能かと」


「やって!! てぐりさんおねがいします!! それやって!!」


「……畏まりました。……其では暫しお時間を頂戴致します」


「うん!!!」




 おれの浅すぎた考えにより、危うく神企画が残念なことになるところだったが……そんな窮地を救ってくれたのは、われらが『おにわ部』頭領、ジャパニーズクールテングクラフターメイドガールこと天繰てぐり師匠。

 圧倒的強キャラである彼女は、ひとつ会釈をしてヒュババッと掻き消え……おそらくは早速『超ロング延長コード作戦』に取りかかってくれた。まじ神。








「…………なんてことがあってね……やっぱおれって、所々でポンコツなんだよなぁって」


「ご安心くださいませ、若芽様。たとえ若芽様が『とことろろでぽんこつなん』であろうとも、霧衣きりえめがお手伝い致しますゆえ」


「き、きりえちゃん……!! ありがどうね!!」


「んっ、恐縮にございます。……えへへ」




 キャンプ場への電気引き込み工事をプロおにわ部の皆さんにお願いして、おれは邪魔になってしまわないようにおうちへと撤退……引き続き別件の打ち合わせへと取りかかる。


 打ち合わせといっても、参加者はおれと霧衣きりえちゃんの二人だけ。

 ラニはすてらちゃん絡みで囘珠まわたまさんのところだし、朽羅くちらちゃんとなつめにゃんはあたたかな窓際で仲良くおひるね中である。くそかわいいが。写真とっとこ。




「お夜食ですと……やはり『からあげ』や『だしまき』など、食しやすい献立のほうが喜ばれましょうか?」


「そこまで気を使わなくても大丈夫だと思うよ。昼夜はあまごやさんにお弁当頼むし、夜中にほんと小腹を満たすためにチョコッとあれば良いみたいから」


「左様にございますか。……では、やはりおにぎりと……付け合わせに数点お惣菜を、あとは温かい汁物をご用意致しましょうか? ……あっ、しかし夜分ともなりますと汁物が冷めてしまいます……」


「おっけーわかった任せてスープウォーマー買ってくるね! ……霧衣きりえちゃんごめんだけど、日にちごとで必要な食材書き出しといてもらっていい?」


「かしこまりましてございまする。……ふふっ。大祭の支度のようで、わたくしも楽しみにございまする!」




 天使のように愛らしい霧衣きりえちゃんの慈愛のほほえみを浴びて、おれの身体のわるいところが一瞬で浄化されていくのを感じる。これはすごいぞ。



 近々お迎えするお客様たちに、安心してこのほほえみを堪能してもらうためにも……あと一息、最後まで気を抜かずに準備しなくては!


 もう『うっかり』はしないぞ。おりこうなわかめちゃんに任せとけって!



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