第458話 【戦後処理】限界を越えて
この世界の侵略を目論む『魔王』の配下、【愛欲】の使徒。
かの『魔王』に従い、おれたちの知らない計画を進めるため……主に対外折衝や商談への同行、ならびに実働派遣と魔力の溜め込みを主任務としていた、彼女。
唯一差し伸べられた手に
彼女は……今。
「……っ、だめ……もうだめぇ、っ!!」
「大丈夫? 身体を楽に……力抜いて。ほら、深呼吸」
「ふぐぅぅぅぅ……っ! はーっ、はぁーーっ」
「すごいね……これ全部
幼げな
三大欲求に纏わる
「……ふぅ、……ふぅ、……ふぅ」
「苦しそうだね…………がんばって、じき楽になるから」
「ひとごと、だからって……! そもそも、あんたが無理矢理、っ!」
「だ、だって…………いっしょに楽しみたかったし」
「……っ、…………ズルいわよ、それ」
自ら進んで、しかし限界以上のモノを受け入れさせられ……彼女は息も絶え絶えといった様相で、おれのことを睨み付ける。
しかしながら……顔を赤らめ、涙を滲ませた表情で睨み付けられても……かわいらしいだけなんだよなぁ。
「さて、聞くまでもないだろうけど一応聞いとくね。……まだイケる?」
「イケるわけ無いでしょこの鬼畜エルフ!! 限界だって言ってるじゃないマジいい加減にしなさいよ!! 人畜無害で総受けな顔してるクセに!!」
「ホァー!? そ、そそッ、総受けは関係ないでしょ!! ……っていうかべつに総受けじゃないですし!? 局長ですし!!?」
「アンタ以外は総受けを望んでんのよ!! 観念してヒンヒン泣いてなさいよ! 可愛いんだから!!」
「か、かわ、ッ!!? …………エヘヘェー」
「…………そういうトコよ、本当。あーもう大声だしたらまたダメになってきた……あたしマジ無理だから、あとあんたが責任もって全部食べなさいよ」
「食事か―――――――い!!!!」
「「ワァ――――――!!!?!?」」
けたたましい音とともに扉を開け放って突っ込んできたのは、
思念を繋いでの相談も報告もないから何やってんだろうかと思ったら……おれたちが限界を越えてごはんを詰め込んでヒッヒッフーしている様子を、扉の外で聞き耳立てていたらしい。
まぁ……そりゃね、現在の身体はふたりとも小さな女の子だもんね。
牛丼とハンバーグを詰め込んだ時点で既に限界、ジャンボ焼き鳥としゃぶしゃぶ鍋セットはまだ手付かずで残っているのだが……誰ですかね、後先考えずに言われたもの全部買ってきたおばかさんは。どこのエルフですか。
「つくしちゃんだったら、これくらいペロッてたいらげちゃうから……あたしも感覚麻痺してたわ」
「…………そう、その『つくしちゃん』たちのことなんだけど……」
「あふぅー…………まぁ、しょーがないわよね。……アンタの手、握っちゃったんだもん」
「……お願い。おれたちも……全力を尽くすから」
この取調室の鏡の向こう側には、春日井室長はじめ多数の対策室関係者が詰めているのだが……態度を軟化させた
「……ま、あたしはシズちゃんと違って……全部を教えてもらったわけじゃないんだけど」
知った上で……自分の行為が『魔王』一味への明確な反逆であると理解した上で。
【愛欲の使徒】
ひとつは、各々の欲求を満たすことで『魔力』を可能な限り溜め込み続けること。
【食欲】のつくしちゃんだったらひたすらに『食べる』ことを繰り返し、【睡眠欲】のシズちゃんだったら『眠る』ことそのものがそれに該当し。
そして【愛欲】の
(エッチなことしたんですか)
(ラニいま大事なお話の最中だから)
(エッチなことしたんですね)
(おいだまれぷに○な)
……ともかく。
それぞれの方法で『魔力』を溜め込んでいくことが、彼女ら【使徒】の基本行動原理。
だからこそ以前、緑地公園で勇者ラニとぶつかったときに……魔力回復の
そして……
それはやはりというか、おれたちが現場で想像した通りというか。
「……要するに、最終的にはこの世界を魔力で満たして…………つまりはよくある剣と魔法の『異世界ファンタジー』にしたい、ってこと?」
「ノワノワ、あくまでこの世界が染められるだけだから『異世界』じゃないよ」
「あと『剣』も無いわね。売ってるトコも実戦で使ってるのも……アンタら除いて見たこと無いし。『剣と魔法』ってよりは……銃とか爆弾とか、あとバールのようなものとか金属バットじゃない?」
「……………『銃と爆弾とバールと金属バットの地球ファンタジー』にしたいってこと!!?(半ギレ)」
「いや違うし……」「なにキレてんのさ」
「きぃーーっ!!!(ぼすんぼすん)」
ともあれ!!(おこ)
つまりは先日、
これこそが、現在『魔王』が取ろうとしている行動なのだろう。
であれば、やはり残された他の『魔力溜まり』……レウケポプラの栽培プラントが、今後『魔王』に襲撃されるということなのだろうか。
しかし、実際に『苗』の系列である『葉』や『獣』であるならばともかく……
毛髪を媒体とするラニの探知にしても、現状手の内にあるのは
……となると、現状即座に取れる選択肢は。
人員を割いてもらって、警備を強化してもらう。……これしかない。
幸いなことに、特定害獣の被害を憂いた民間企業から協力の申し出があったらしい。
『含光精油』の精製を一手に受け持つ『ヒノモト建設』の協力会社で、主にプロ用のスポーツ用品を手掛ける化学繊維メーカーが重い腰を上げてくれたようだ。
専門家が造ってくれる防具に、
「……まぁ、そうそう無いとは思うけどね。『魔力溜まり』への襲撃」
「「えっ?」」
「なんかね、『魔力』ってそもそも触れられない存在っていうか、普通には干渉できないらしくって。……あたしが直接『爆発しろ!』ってやらなきゃ、魔力を吹き飛ばすことって出来ないみたい」
「………………もうやらないでね?」
「…………はぁ? やんないわよ。あんたに嫌われたくないし」
「
「ちょ、っ…………何言ってんのよ……」
頬を朱に染め、まんざらでもなさそうな表情で視線をそらしながらも、口元を緩めて足をぷらぷらさせる美少女。
どうやら『魔王』の侵略計画における、重要な役割を占めていたらしい……
この子が心を開いてくれて……敵のままじゃなくって、本当によかった。
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