第441話 【納涼計画】更なる撮れ高を



 みんなで仲良く水着になってプールと沢を堪能して、小屋入り口の大屋根の下でバーベキューを堪能して、食後は休憩小屋の造りつけベンチに『ごろん』と転がってお昼寝をして……そしておれはみんなの無防備な姿をバッチリカメラに収めまして。


 そのあとは小屋の裏手の平坦な砂地に狙いを定め、持ち込んだテントをひろげて設営を進めていく。

 ……というのも、せっかくなので今日はこのままキャンプと洒落込もうかと考えたためだ。



「きゃんぷ……に、御座いますか? 小生これまで寝所の外にて眠ることこそ多々在れど、そこまで心地のよいものではなかったと記憶して御座いまするが……」


「ほええ? 朽羅くちらちゃん野営経験あるの?」


「野営と申しますか……荒祭アラマツリ様に『一晩頭を冷やせ』と沙汰を下されたまでに御座いますれば」


「あぁー…………」


「…………な、なんでございましょうや? その……『可哀想なもの』を見るような目付きは?」




 霧衣きりえちゃんとなつめちゃんはまだお昼寝の真っ最中だが……朽羅くちらちゃんは耳敏くも、裏手でごそごそしているおれたちの様子に『おもしろそうなこと』を嗅ぎとったようだ。有望だな。


 何を隠そう(隠しはしないけど)おれたちは現在、ここをキャンプ地とするために活動中なのだ。今回はキャンプ経験の無い朽羅くちらちゃんもいるので、コテージ代わりの休憩小屋が利用できる今回は導入編にもってこいだろう。

 わが『のわめでぃあ』に所属する以上は、全国あちこちへと遠出するスケジュールも充分に考えられる。そしてその際は――もちろんホテルや旅館を堪能することもあるが――そこそこの割合で車中ハイベース泊か、もしくはテントを広げて即興キャンプとなることが予測される。


 なので……彼女には是非とも、野営の楽しさを味わっていただきたいのだ。



「とりあえず……実際に夜寝てもらうとこは、また別として。テント立てるから、ちょっと見ててね」


「て、てんとたて……? この布の塊が、いったいどういう……」


「ほいじゃあモ……初芽ちゃんこっちポール通すぜホーーイ」


「ヘーーイこっちもポール通すぜホーーイ」


「ヘーーイオッケーィほいじゃあアップするぜぇーヨッコイショ、っとぉ」


「ヨーシヨシヨシヨシ……おっけー入ったっす。ヘーィバッチリっすね」


「ウェーーイ朽羅くちらちゃん見てるゥー?」


「   ?  ??  、 ?」


「アッおくちあんぐりだよ、かわいいね」


「かわいいね」




 二本のロングポールの張力で立ち上げる、簡単な構造のテントではあるが……しかしそれでも一分そこらで立ち上げられたのだから、おれたちの手際もなかなかのものだろう。

 そしてこうして……ほんのわずかな時間と手間で、布張りとはいえ小屋のようなスペースが姿を表したのだ。きっと色々とびっくりしたあまり、思考処理が停止してしまっているにちがいない。かわいいね。



「ラニちゃんラニちゃん、寝袋おねがい」


「ほいほいよー。テントにふたつ? んで、小屋のなかにみっつ?」


「かんぺき。あとであげるね」


「エッヘヘェー! あっ、あとこれ、ギンギンマット」


「そうそうこれこれ。ありがとね」


「いやー……設営はかどりまくりっすね」



 モリアキ初芽ちゃんの手際とラニの能力により、驚異のハイペースでテントの設営が進んでいく。

 おれがテント内部にギンギラマットと寝袋とランタンとその他もろもろを運び込んでいる間に、初芽ちゃんはテキパキとペグを打ち込んでテントをしっかり固定していく。


 このへんの砂地部分は長い杭でも打ち込めるように、造成の段階で深さ三十センチくらいまでは大きな石を取り除いてある。

 スッて入っていってガッチリホールドしてくれるんだから、ペグ打ちもけっこう楽しいはずだ。百本だって打てちゃうな。



 そんなこんなで、おれとモリアキ初芽ちゃんの寝床となるテントの設営は、至極あっさりと完了した。

 相変わらずおくちあんぐりしたままの朽羅くちらちゃんが設営の完了したテントの中を興味深げに観察してるのを、おれたちは後方保護者顔でニヨニヨしながら眺めていると……突如後方にただものではない気配を感じとった。




「……御館様。少々宜しいでしょうか」


「ほへ? どうしました天繰さん……と、みなさん?」




 掛けられた声に振り向くと……そこには全身ぴっちりウェットスーツ姿の大天狗ガール天繰てぐりさんと、その背後には中大小とバラエティ豊かなサイズの実りをそれぞれ旧スクに包んだ、烏天狗の三姉妹。

 見ると彼女たちは、それぞれ一抱えはある発泡スチロールの箱を抱え、あるいは肩に担いで佇んでいる。



「……勝手かとは思いましたが……お嬢様方に娯楽を供しようと、不肖天繰テグリ一計を講じまして」


「ほう娯楽。娯楽ですか。ちょっと詳しく聞かせていただけますか?」


「……えぇ。……此方、手前の知人より調達致しました……虹鱒ニジマス岩魚イワナ、そして雨魚アマゴに御座います」


「おぉーー!?」



 聞けば天繰てぐりさんの知人(以前姿を真似ていた山賊のようなおじさん)だが、なんでもキャンプ場を経営しているらしく……その場内アクティビティのひとつとして、川魚の掴み取りを提供しているらしい。

 今回おれたちがここで一夜を明かすということで……水遊びに新たな刺激を加えるため、また夕食のメニューにバリエーションを持たせるために、あの渓流プールに放流する用の川魚を調達してきてくれたのだ。


 一般的な掴み取り用の生け簀に比べ、水深は確かに深いけれど……取水口と排水口を網で封鎖したこの渓流プールは、川魚を放す生け簀として充分に活用できるだろう。

 晩ごはん用のおにくもまだたくさん残っているけども……せっかくなのでみんなに掴み取りに挑戦してもらって、取れたての塩焼きなんかもまた楽しそうだ。

 偏見かもしれないけど、なつめちゃんはとても喜んでくれそうな気がする。



 というわけで、気を利かせてくれた天狗ガールズにゴーサインを出す。

 スチロール箱の蓋が開けられ、川魚が水とともに生け簀もといプールへと飛び込んでいく。



 これで仕込みは万全、あとはあの子たちが起きてくるのを待つだけだ。

 掴み取りは水位が上がれば上がるほど、その難易度も跳ね上がっていくのだろうけど……神使であるあの子たちは元々身体能力のポテンシャルが高いので、これくらいがいいハンデになるだろう。

 普通の掴み取りだと……たぶん、無双しちゃうと思うんだよな。



「んふふ。……ほら朽羅くちらちゃん、みなさんにお礼言って。お魚持ってきてくれたんだよ」


「んっ、あっ…………あ……ありがとう、に御座いまする」


「「「いえいえ」」」



 照れたように顔を赤らめ、うつむいてしまった朽羅くちらちゃん。

 こうしてしおらしくしていてくれれば、見た目もあって愛らしい子なんだけどなぁ。



 ……というわけで。

 われら『のわめでぃあ』渓流キャンプのつどいは、もうちょっとだけ続くんだよ。



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