第434話 【業界相談】わたしの狙いは



「突然ですが……若芽さん」


「はいなんでしょう大田さん」


「ええと、ですね……少々御伺いしたいことが御座いまして」


「んふふふ、いいですよ。わたしと大田さんとの仲ですし」


「アッ!!! …………恐縮です」


「おーさすが。一瞬で落ち着いて見せたっすね……」


「やっぱさすがだよな大田さん」




 世間では小中学校がいよいよ夏休みに突入した、七月後半のある日。

 配信者専門広告代理店『ウィザーズアライアンス』社のやり手営業マンにしておれ若芽ちゃんおよび『のわめでぃあ』の担当者にして、ほかでもないおれの親愛なる視聴者さんの一人(しかもかなり古参)である大田さんからの要請を受け……おれは先方の事務所へ、打ち合わせのためお邪魔していた。


 本日の同行者は、例によって姿を隠しながらフロアじゅうを偵察飛行しているラニちゃんと……なんとびっくり、初芽お姉ちゃんだ。



 ……そう、『のわめでぃあ』マネージャーの烏森かすもりあきらさんではなく。

 木乃きの初芽はつめちゃんなのである。




「それでですね、なんと申しますか…………そちらの、『初芽ちゃん』のような……つまりは例の次世代演出プログラムなのですが……」


「ははーん……業界への普及、ってとこですか? わたしたちと『にじキャラ』さん以外への情報公開について」


「…………えぇ、まぁ……そうですね」


「ふっふっふ……安心してください。は順調ですよ」


「……と、申しますと? あっ、いえ……すみません、守秘義務等色々あるでしょうし」


「大丈夫ですよ、わたしが一番偉いので」


「………………はい?」




 呼び出された主な目的である、われわれ『のわめでぃあ』がお力添えさせて頂いている案件の打ち合わせ(およびおれと大田さんとの仲の良さアピール)は順調に進み……現在はフリードリンクを頂きながらの小休憩中である。


 傍らの初芽ちゃん(実物)を見るのは大田さんも初めてだろうけど、ガワはこんなんでも中身はマネージャーの烏森かすもりさんだ。

 話し始めれば慣れたもので、以前のように問題なくコミュニケーションと商談とを進められるようになっていった。



 そんな中、『そういえば』といった感じで切り出された、次世代演出……あぁもういいか。実体化プログラムのお話。

 これまでは我々『のわめでぃあ』および『にじキャラ』さんたちの専売特許として、界隈で反則チート的なポテンシャルの高さと無双っぷりを見せつけてきたわけだけど……幾つかの理由に基づき、じつは近いうちにノウハウを一般公開しようと考えているのだ。


 その公開の形式こそ……まぁ簡単にいうと、仮想配信者ユアキャス専用の機材レンタル会社。

 そしてなにを隠そうこのおれわかめちゃんこそが、そこの代表取締役社長(ただし名ばかり)というわけなのだ。





「大田さんなら言っちゃっても良いと思うんで言っちゃいますけど、例のアレ……っていうか初芽ちゃんのコレって、専用の機材が必要なんですよね」


「…………何度か耳にした『デバイス』とやらでしょうか?」


「そうです。早い話が変身アイテムでして。そしてつまりはこの『デバイス』さえ手元にあれば、所属関係なく『次世代演出プログラム』を行使することは可能なわけですね。もちろん個人勢であっても」


「なるほど……その『デバイス』を『貸し出し』という形で提供……貸与することで、多くの仮想配信者ユアキャスが『実体化』を披露することが出来る……と?」


「そういうことですね。……じつはこのたび、本格的に機材を専門的に製造できる体制が整いそうでして。どうせなら会社いっこ立ち上げちゃって、製造部門と営業部門でそれぞれ動かしちゃって……仮想配信者ユアキャスのお手伝いしちゃおっかなって」




 ここでいう『体制』とは……ずばり先日神々見かがみさんへお伺いしたときにヨミさまがお約束してくれた『そのテのことに精通した人員』の合流によるものだ。

 彼らは我々(というかラニちゃん)が製作した魔法道具の複製品を造ることと、新しい魔法道具の開発やら試作やらが主な業務となるわけだが……せっかく神秘魔法に理解がある人員が得られるのなら、もっと規模を拡大して手広くやってしまえば良いではないか。……というのが、某神様からの助言である。

 なおこの助言ちょっかいを巡って、神様どうしで水面下の縄張りバトルが繰り広げられたとかなんとか。……おれはなにも知らない。



 ともあれ、確かにおれの主目的である『負の感情を少しでも減らす』『来週を楽しみに日々を過ごさせる』『この世界・この国を元気づける』等々を果たすためには、協力者は一人でも多いほうがいい。

 『にじキャラ』演者タレントの皆さんが『実体化』したときのような盛り上がりが続くのならば、それはおれたちにとっても都合が良いのだ。


 というわけで現在、主力業務として案を練っているのは、ずばり改良型変身デバイス(と蓄魔筒バッテリー)のレンタル業務だ。

 顧客をリスト化して管理し、【書込インストール】の手筈から取扱い方法に至るまでのレクチャーを行い、一回いくらかで貸し出しを行う。

 東京のどこか、それなりに利便性の高い場所に窓口を構える予定なので、お客様である配信者キャスターもしくは関係者の方にはその都度取りに来てもらう形にはなるだろうけど……優良顧客には長期定額プランとかお届けサービスとかも視野に入れて考えているところだ。



 ちなみに、この改良型。【変身】行使の際のデータは口述式のパスワードで管理しており、【書込】を行った本人でしか読み込めないようにアップデートされている。

 起動呪文パスワードを正しく発声しないと【変身】できないので、変身用のセリフの管理は各自できっちり行っていただきたいものだ。


 またラニちゃんの【門】および【蔵】魔法の発動触媒も組み込んでいるので、その気になればいつでも手元へ召喚することができてしまうのだという。

 もしも利用規約に反するお客様が居られたとしても、デバイス自体は速やかに回収することができるので問題ない。その後は然るべき機関に通報、即座に社会的制裁を加えてもらう予定だ。

 モタマさまには警視庁にお勤めの引退神使の方を紹介して頂いたので、ちゃんと手筈は整っている。コネってすばらしい。




「…………というわけで。わたし社長になるんですよ。ふふん」


「ちっぽけな零細ですし、経営のほとんどは神々見かがみさんにお任せしちゃってるんで……そこまでドヤれないと思うんすけどね」


「うるさいなぁ! わたしに逆らう気ですか!? 社長ですよわたしは! 局長にして社長ですよ!!」


「ハイハイそうですね。早く社名決めましょうね。従業員さん困っちゃうんで」


「きーーっ!!」




 ともあれ、ここにきてこちらの大田さんとのコネがまた活きてくるわけだ。

 こちらの『ウィザーズアライアンス』社、当たり前だが主な取引先は日本全国の配信者キャスターさんたちであり、その中には一定数の個人勢仮想配信者アンリアルキャスターも含まれている。

 なので……そんな大田さん(およびその同僚の方々)が担当する仮想配信者ユアキャスの方に、『こんな事業やってる会社ありますよ』『よかったら話聞いてみませんか』とかってな感じで、おれたちのデバイスレンタルサービスを宣伝してもらう。


 場合によっては、何らかの形でキックバックを検討しても良いかもしれない。

 実体化仮想配信者アンリアルキャスターなら新しい案件分野も開拓できるだろうし、大田さんとこと業務提携的な感じでな。



 配信者キャスターさんにとっては、新しい演出プログラムによって可能性を拡げることが出来。


 その視聴者さんにとっては、この世界に受肉した推しの新たな活躍を享受することが出来。


 大田さんならびに『ウィザーズアライアンス』社としては、広告主に対してよりバリエーション豊かな配信者キャスターを提案することが出来。


 そしておれたちは…………まぁ、配信者キャスターさんたちにとってそんなに大きな負担とならない程度に、おこづかいをいただくことが出来る。



 ……まぁ、最後のやつはべつに無くてもいいかもしれないが……とにかくこれならば、誰にとっても嬉しい結果になると思うんですよ。

 なによりも、おれが見てみたい。現実の世界に活躍の幅を拡げた仮想配信者ユアキャスの、そのを……時間の許す限り見てみたい。そしてあわよくばパクげっふんげふん。




「……では、件の『会社』が事業開始した暁には……ご協力をお約束させて頂きます」


「……!! ありがとうございます!!」


「いえいえ。……先程の事業協力に関しても、恐らくはお力添え出来るかと思います。私も話をに回してみますので、仔細をまたお送り頂いても?」


「まじですか! 任せてくださいありがとうございますがんばります!! 都心の一等地に事務所構えてやりますよ!!」


「ちゃんと予算内に納めなさいよ。超過分はわかめちゃんのお小遣いから出させますんで」


「そんなあ!?」




 大田さんが力を貸してくれるのは、それはとっても心強いし……恐らくはこのフロアでおれたちのことを注視している方々も、何割かは力になってくれることだろう。

 一人でも多くの人に、少しでもたくさんの『たのしい』をお届けするため……おれにできることなら、何にでも挑戦していかないとな!





――――――――――――――――――――――――





(いま何でもって言ったよね?)


(んわビックリしたぁ!? なあにラニ、何かいい考えでもあるの?)


(それがね、あるんだよこれが。とっておきのいい作戦が)


(えっマジで!? とっておき!? オッケー詳しい話聞かせてくれたまえよラニちゃん!)


(ふっふっふ、いいですとも! 視聴者さんから歓喜の雄叫び間違いなしよ! それこそずばり…………)




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