第430話 【神前会談】野兎神使の笑顔
「こちらが
「やっぱ壮観だよなぁ……森の中にぽっかり空いた空間と広い空と」
「屋根がまたご立派っすよね。これ二十年に一度建て替えるんでしたっけ?」
「これはこれは! 旦那様は博識で居られまする! ……えぇ、えぇ。それ即ち式年遷宮の大祭に御座いますれば! 内宮外宮ともに二十年に一度、社殿は勿論御装束から御神宝に至るまで全てを新たに造り直し、大御神たりまする
「本殿だけじゃねえの!? 全部!?」
「左様に御座いまする。此方の本殿に留まらず、周囲を囲む御垣から鳥居から、宝殿、外幣殿、御饌殿、果ては先程皆様がお渡り頂いた
「そんな大規模な建て替えなら、費用だってバカんなんないっすよね……なんでまたそんな頻繁に?」
「えぇ、確かに仰有られます通りにて。円貨にして凡そ六百億とも云われておりますれば、遷宮に懸ける我等の熱意も推して知るべしと云えましょうや。……して、遷宮の理由に御座いまするが……それ即ち御宮の建方に依るものにて御座いまする」
「「たてかた」」
「えぇ、えぇ。
「「なるほどーー」」
アラマツリさんの身も蓋もない物言い(※ただし自業自得の事実)に、てっきりガッカリしてメソメソしてウォウウォウしてしまってるかと思われた
……ので、どうせならばと彼女に改めて案内を頼んでみたところ……意外や意外、本職の観光ガイドばりの丁寧な解説を交えながら、こうしておれたちを案内してくれたのだ。
そもそも
せっかく来たのなら堪能しないと損だし、堪能するなら現地に精通したガイドさんはとても心強い。
確かに、
「やっぱ詳しいね、
「ぅ、ぁ……っ、…………誤魔化しは、効きませぬか。お客人の『眼』の前には」
「おれじゃなくても、気付くよ。……説明のとき、とっても嬉しそうで……とっても誇らしげな顔してるもん」
「…………それは、それは」
ヨミさまから下った辞令によって、これまで慣れ親しみ好いてきた
その心境はおそらく、
彼女が寂しさを感じないよう、しばらくは積極的に
せっかくなら観光動画も撮影してしまいたいし……神宮境内は勿論として、ここ
だから……おれたちがあしげく通っても、なにもおかしくないわけだな。うん。
「ノワノワ、よさげなおトイレあったよ。ここでシちゃう?」
「なにやら不穏なニュアンスを感じましたが一切無視させていただきますね。……うん、本殿にも近いし、さっきの詰所にも近いし……裏なら人もほとんど来なさそうだし。……ここにしよっか。ラニお願い」
「ぅエッヘヘ~。公衆トイレの裏でなんてまーたスキモノなんだから~ノワってばも~」
「おしゃぶりの刑って新しく考えたんだけど」
「さて、パパっと済ませちゃおうね」
ガイドの途中で突然公衆トイレの裏手に回ってゴソゴソし始めたおれたちに、可愛らしく小首をかしげ疑問符を浮かべている
これでヨミさまやアラマツリさんにいつでも会いに来れるし、『魔王』対策の相談も気軽に行えるだろうし……それに、観光するにあたっても便利だからね。
べつに
「……ふぇ…………飛んで、これる、と? ……い、一瞬で!? 何処からでも!?」
「ラニに【門】を開いてもらう必要はあるけどね。一方通行ではあるけど……おれん
「な…………っ!?」
「だから……ね。面倒な辞令だろうけど……前向きに捉えてくれると嬉しいかな、って」
「め、ッ…………面倒、などと……」
【天幻】の勇者たるラニお得意の
おれの
筋骨粒々のがっしりとした体躯に神職用の袴を纏ったその姿は、ここ
「………………
「っ! ……
おーっとぉ、これは我々撤退しておくべきですね。おれのオトメチックレーダーにビンビン来てますよ。
まぁおれはオトメじゃないんだけど、オトメチックな気配を感じるレーダーってことね。おれはおとこなので。
(……いちおボクが見てるよ)
(ありがとラニ、たのんだ)
背中をピーンと伸ばして硬直してしまった
あとは、あのお二人がゆっくりじっくりお話しすべきことだ。
ラニも空気は読んでくれてるようだし……余計なちょっかいは出さないだろう。
そうして……時間にしておよそ十分か二十分か、そのあたりだろうか。
駐車場へ向けて歩を進めるおれたち四人の後ろから、ぱたぱたと草履の足音が聞こえてくる。
(ラニ? 何事もなかった?)
(うん。めっちゃ『てぇてぇ』だったよ)
「おきゃ、っ……若芽どのー! お待たせ致して御座いまするー!」
おれに向けて投げ掛けられた、元気はつらつな声に振り向くと……そこには小柄な身体を巫女服に包み、
どうやら……アラマツリさんはばっちり彼女を元気づけてくれたようだ。
今やなんの憂いも無くなった小さな神使は、年相応に可愛らしい笑顔を浮かべている。
……こうして見てる分には、単純に可愛らしいんだけど。
「……じゃあ、いこっか?
「えぇ、えぇ! この
「あ? なんて? も
「ッンんひゅぅぅ……!!」
なんとも名状しがたい恍惚とした表情を浮かべ、それはそれは幸せそうに身悶えしてみせる、野兎の少女。
そんな彼女を白い目で見つつ、『渡さぬ』とでも言いたげな顔でおれの腕にしがみついてくる錆猫の少女。
可愛らしい妹分と、生意気ながらどこか放っておけない妹分を、慈愛に満ちた眼差しで見守る白狗の少女。
とても華やかで愛らしく
ここにピンチヒッターであるミルさんも加え、魔法道具の製造・配備体勢も着々と整いつつあるわけで。
われわれ『正義の魔法使い』ご一行の反撃は、ここから始まる……のかもしれないな!
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