第427話 【神前会談】今日はひと味ちがうぞ



 湯上がり。お泊まり。はだける浴衣。ほてった肌の美少女が三人。なにも起きないはずが無…………いわけないだろいい加減にしろ! なにもおきねえわ!!


 健全な『のわめでぃあ』はきわめて健全なので、それはそれはもうとてもほほえましい一晩でしたとも。

 ええ、なにもやましいところはございませんとも!



 そりゃあ、まぁ……当初こそ『わたくし、とこを共にさせて戴いても宜しいでございましょうか!』なんて求められちゃったりもしちゃったけど……結局いつものように霧衣きりえちゃんとなつめちゃんが二人で抱き合いながら、スヤスヤと幸せそうな寝顔でお休みになっていたわけなのですよ。まぁおれのすぐ隣でなんですけどね。わし危うく尊死するところぞ。【鎮静】魔法の熟練度めっちゃ上がったわ。

 ……どうやら『おれわかめさまが一緒の空間で眠ってくれる』という事実だけでも、彼女たちは充分に安心してくれたようだ。おとこ冥利に尽きますな!





「やっぱてぇえぇ……撮っとこ…………」


『んお? 先輩お早うございます。そっちみんな起きてます?』


「アッ、モリアキおまえばっかおまえ」


「…………くぅーん…………んぅ、っ……おはよう、ございます……わかめさま」


『アッ!!!』


「ン゛ン゛ッ! ……おはよう、きりえちゃん」



 花が綻ぶように可憐な笑みを浮かべる……おれの、その…………たいせつな女の子。

 どうやら素肌に直で浴衣を着ているようで、起き抜けのちょっとはだけた胸元からきれいなお山が見えそうで見えない。

 そんな無防備な姿で、それでも安心しきった表情を浮かべて微笑んでくれる霧衣きりえちゃん……ヴン、やっぱ嫁にするならこんな子だな!


 霧衣きりえちゃんは無事起床を済ませたが、残る二人はまだおやすみ中である。

 朝風呂でも浴びてさっぱりして、優雅に朝ごはんと洒落込みたいところだが……今日は(話が通じるようになった)ヨミさまのところへお伺いする予定が入っている。



 急遽飛び込んだ宿なので、残念ながらごはんはついていない。

 そのため道中、外で朝食を摂る必要があるので、残念だがあまりのんびりしてはいられない……のだが。




「まったく……寝る子で『ねこ』とはよく言ったもので」


「んふふっ。……なつめさま、すやすやで御座いまする」


『せんぱーい? オレ見ちゃマズいっすかー?』


「残念ですが三人ほどおっぱい見えちゃってるので……」


『ウゥーーーン残念』


「だろうな色々とざんねんだろうな、でもこればっかりはな、われわれ健全な組織だからな」


『アッ、ハイ』




 コッソリ楽しむ用の写真はバッチリいっぱい撮ったので、名残惜しいけどそろそろ『ねぼすけ組』を起こすことにしよう。

 丸まって眠る胸元から大平原が顔を覗かせるなつめちゃんと、何から何まで丸見えになっちゃってるラニちゃん……逆に未発達すぎていっそ健全なんじゃねぇかって錯覚しそうになるけど、さすがにそれは気のせいなので頭をぶんぶん振って正気を取り戻す。


 そうとも、おれは今日の予定をつつがなく消化していくためにも……この天使のような寝子ねこちゃんたちを起こさなければならないのだ。



なつめちゃーん? ラニちゃーん? おきてー、あさだよぉー」


「…………んにぅぅぅぅぅー」


「んんぅ――――――っ…………」


「うぅ、がわいいよぉぉぉ……でも今日予定あるから。ごめんだけど……起きてー、ふたりともおきてー」


「……んぅ…………わかめ、どの……いっしょ、ねゅぅ……」


「うん、そうだね。いっしょに寝よっか」


『ちょちょちょちょちょちょい!? 予定はどうしたんすか先輩!? 早く支度して朝メシ探し行かないと』


「うるせぇだまれ!! おれはしあわせな二度寝にひたるんだ!! なつめちゃんといっしょにねゆんだ!!」


「わかめさま、神様をお待たせするのは……えっと、だめでございます。……特に夜泉ヨミ様は……その、気むずかしい方とお聞きしておりますゆえ」


「んぐぅ――――――!!」


「……んにぅ…………もんだい、にゃい。……わがはい、ちゃんと起きれるゅむ……」


「ヴッ!! いい子!!!」




 未だぽやぽやしているようだが、ちゃんと自らの意思で『起きる』と宣言してくれたなつめちゃん。

 浴衣はもはや、かろうじて帯で留められている程度の壊滅具合だ。上半身はほぼ全てを余すところなく解き放ってしまっているし、おんなのこ座りしている下半身には……可愛らしいねこさん柄のお下着さまがお目見えしてしまっている。


 ……昨晩のおれだったら、恐らくみっともなく取り乱していただろう。

 しかし今日のおれはひと味違う。美少女に囲まれ一夜を過ごしたことにより、美少女耐性がほんのちょっとだけ上がっているのだ。だからこのお下着さまも心からありがたく頂戴致しますご馳走様です!!!



 ともあれ、ねこちゃんパンツは置いといて。

 寝起きの様子をほほえましく見守ってくれていた、だいすきな霧衣きりえおねえちゃんに手伝ってもらいながら……なつめちゃんはくしゃくしゃになってしまった浴衣を脱ぎ去り、通販で調達したお洋服を着付けていく。

 いやはや、この義姉妹まじてぇてぇよ。あとなつめちゃんおパンツさまありがとう。すまんなモリアキ、おれので我慢してくれ。


 ……ラニは、もう……しらん。タオル茶巾絞りにして持ってくか。







「ありがとうございました。お気を付けて行ってらっしゃいませ」


「お世話になりましたー!」



 無事に身支度を済ませて、現在時刻はおよそ八時。

 急な問い合わせにもかかわらず、一晩癒しのひとときを提供してくれた宿をチェックアウトし……おれたちはいま再びの神々見かがみ神宮へと向かうべく、ハイベース号へと乗り込もうとしていた。


 宿の玄関を出て、駐車場に到着し、まぁ何かの間違いだろうと一人納得してそのまま運転席へと潜り込み、




「ぅえっ!? ちょっ、おっ、おっ、おっ……お待ちくださいませ! ちょっと!? お待ちくださいませお客人!!」


「はいじゃあみんな乗ってー出発するよー朝パックいくよー」


「「イェーイ!」」「「いぇーい?」」


「ちょっと!? お客人どの!!?」




 宿の駐車場で出待ちしていたのは、この町中ではさすがに浮きまくっている赤と白の巫女装束。

 きちっと着付けられた袷の上には、その装束に到底相応しくない……どこか見覚えのある首輪を嵌め。


 以前はこちらを値踏みするように細められていた目もとを、今となってはぱっちりと見開き。

 そこに『困惑』と『焦燥』をめいっぱい湛えた、可愛らしい野兎の少女が……あわあわしながらすがり付いてきた。



 は? かわいいが?(半ギレ)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る