第424話 【急遽一泊】理性耐久試験



「ほへぇ……じゃ、結局神々見カガミの神様とはお話できたんすね?」


「うん。……なんていうか、独特の感性をもった神様だったよ……」


「そだね……なんか、めっちゃ上位存在って感じの立ち振舞いだったし……あ、でも色々と支援はしてくれるって。細かいことはまた明日教えてくれるらしいけど……」


「に。嫁を寄越すと言うて居ったな」


「「よめ!!??」」


「いやいやいやいやそこ食いつかないで!!」




 神々見かがみさんにお邪魔したあと、モリアキと霧衣きりえちゃんが待つ宿に戻ってきて……やっと肩の荷が下りたおれたち。

 一応が片付いたときに『もうちょい掛かりそうだから晩メシ適当に済ませといて』とREINメッセージは送っておいたのだが……ばんごはんをおれたちのぶんまで調達してきてくれた彼らの気配りには、本当に頭が上がらない。


 緑色Mの字マークのハンバーガーセットをおいしくいただきながら、おれたちは数時間前よりも幾分ほんわかした空気の中で情報共有を図っていた。

 ……あっ、これは霧衣きりえちゃんが好きっていってたばーがーだな。おいしいよね、フィッシュフライバンズ。




「先輩ヨメってどういうことっすか!? 貰うんすか!?」


「もらわねえよ!! 落ち着け!!」


「わかめさま! お嫁さんをお迎えでございますか!? 霧衣きりえめはご満足いただけなかったでございましたか!?」


「そんなことないって! 霧衣きりえちゃんはやさしいし可愛いし気立てもいいしあったかいしいいにおいするしいい子だし、おれにとって大切な子だから……!!」


「……っ! わ、わかめさまぁ!!」


「おほォー!!」


「あらあら、おアツいこと」


「くぅーん……」



 感極まって抱きついてくる霧衣きりえちゃんは、やっぱりほんわかいいにおいがする。

 頭を撫でるおれの手に、気持ち良さそうに鼻を鳴らす彼女の姿……普段はとっても控えめなだけに、こうして甘えてくるときとのギャップがまた非常にいじらしく、かわいらしい。

 彼女の存在は、公私にわたっておれの大きな助けとなっているのだ。彼女をお迎えして良かったと心から思っているし、大満足に決まっている。

 彼女の意思で去るならまだしも、おれが彼女を手放すことなんてありえない。


 ただ……なまじ霧衣きりえちゃんが美少女レベルの高すぎる子であるがために、元々別の意味で使だったDTにとっては、軽率なおはだのふれあいは刺激が強すぎるので可能な限り避けていたのだが……そのことがこうして、彼女に不安を抱かせてしまう原因だったのだろう。

 ……彼女の不安を取り除いてあげるためにも、もっと積極的にスキンシップを試みるべきなのかもしれないな。


 っと、まぁそれは一時置いといて。




「えっと、話戻すけど……すてらちゃんは奪還されちゃったけど……どういうわけか『魔法使い』の正体を伏せられてる現状、むしろ助かったのかもしれない」


「……しかし、シズちゃん? の行動が謎っすね。確かに『魔法使い』の撲滅だけが目的なら…………えっと、考えたくは無いっすけど……」


「『魔法使い』の正体を仲間内で共有して、総力戦で押し切ればいい。……でも、シズちゃんはをしていない」


「確認なんすけど、シズちゃんには正体バレしてるんすよね? 『魔法使い』さんの」


「うん。一月に東京行ったとき……個人的に呼び出し食らったし」


「あぁー……あのときっすか」



 バーガーを食べ終え、ポテトを一本ずつ摘まみ……おれのすぐ傍で『じっ』と視線を注いでいた霧衣きりえちゃんのお口に軽い気持ちでポテトを運び、目を輝かせ嬉しそうについばむ彼女に致死量の『かわいい』をお見舞いされ危うく死にそうになりつつも、おれは緑M字のバーガーセットを食べ終える。

 好物のオレンジジュースでおくちのなかをさっぱりさせつつ、初めてのはんばーがーに目を輝かせながらも悪戦苦闘しているなつめちゃんを観察してTPてぇてぇポイントを摂取する。


 あー、おくちまわりがテリヤキソースでべったりだよ。あーあー、霧衣きりえおねえちゃんが紙ナプキンでおくち拭きにいってあげたよ。あーあーあー、かわいい。あー、やばいかわいい、すきだが。

 TPてぇてぇポイントがオーバーフローして最可愛さいカワに見える。耐性のあるはずのおれでもあたまがしあわせになって死ぬ。



「……先輩、大丈夫っすか? めっちゃダメそうな顔してますよ?」


「あハァー……やっぱり?」


「カワイイからねぇ二人とも。なかよし絡みめっちゃてぇてぇ……ニャンニャンしないかな、ねこちゃんだけに」


「おいこら戦犯」


「じゃあまあ、みんな仲良く一部屋で良いっすね?」


「えっ!!?!?」


「きりえちゃんも先輩と離れたくないでしょうし、一緒のお部屋でオヤスミしたいっすよね?」


「はいっ!!!」「えっ!!??」


「にっ。……我輩も、姉上と家主殿といっしょでかまわぬ。絵師殿は殿方ゆえ、別室がよかろう」


「アッ!?!?? エット!!?!」


「というわけで。お二人も期待してるみたいですし……ヨロシクお願いしますね」


「アッ!!!! はい!!!!」




 左腕に霧衣きりえちゃん、右腕になつめちゃん、おまけに胸元にはラニちゃん。

 三者三様、ぶっちゃけおれ好みのファンタジー美少女三人の笑顔に囲まれて……退路を断たれたおれは、彼女たちの笑顔を守る決心を心に決めたのだった。


 非常に濃密な一晩が決定した瞬間だった。




……………………………………





「わかめさまっ、わかめさまっ」


「ヴッ!!!」


「にぅ。……やぬし…………わ、わかめ、どの?」


「アッ!!!!」


(アァーーてぇてェーー!!)


(ちくしょうこれ卑怯だよ!! おれも眺めてぇ!!)



 おれにだけ感知できる状態のラニちゃんが、この尊さ溢れる光景にあてられてきりもみ回転しながら飛んでったが……おれだって可能ならばおふとんの上でごろんごろん転がり悶えまわりたいくらいだ。


 ふだんの大人しく清楚で控えめな立ち振舞いはを潜め、弾んだ声色で身体をすり寄せボディタッチをねだってくる、完全に『甘え』モードに変貌してしまった霧衣きりえちゃん。

 そんな『あねうえ』の幸せそうな様子を目の当たりにし、嬉しいことに憎からず思っていてくれた『家主』であるおれの手を握り、あねうえに倣って名前で読んでくれたなつめちゃん。



 そんな『かわいい』が過ぎる二人(と飛んでっちゃった一人)とともにやって来たのは……今日一日の疲れを癒す『とっておき』の場所。

 ……まぁ、果たしておれの心が休まるかは、試してみる必要があるのだが。



 それずばり、このお宿のお風呂……温泉大浴場。


 そしてもちろん……女性用なのだ。





――――――――――――――――――――






けんぜん(予告)




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