第416話 【夜襲会戦】ドキドキの開幕戦



 囘珠宮まわたまのみや内でも比較的上位に位置する、上級神使である錆猫のなつめちゃん……小さくても頼りになる彼女をして『見事』と称する程の【隔世カクリヨ】結界。


 その術者との邂逅を目指し結界内へと突入したおれたちが遭遇したのは、神々見かがみ神宮にて案内役を勤めてくれた(?)クソg…………もとい野兎の神使である朽羅クチラちゃんだった、わけ、なの、だが。



 ……数時間前に相対したときに受けた、アラマツリさんに折檻されて泣き叫んでいたときの印象が尾を引いており……ぶっちゃけ『そんなばかな』という感想のほうが強い。


 まぁ……だからといって、やることは何も変わらないのだが。




『来るよノワ。援護を』


「おっけ。【氷槍アイザーフ】【並列パリル三十二条トリツヴィク】……てぇッ!!」


『――我は紡ぐメイプライグス……【加速アルケート】』


「えっ、お…………お客人……?」


「大丈夫だよ朽羅くちらちゃん。わたしが守るから」


「――――っ!! ……は、はいっ」




 おれの奇襲から体勢を立て直し、正面から突っ込んでくる六頭の『獣』。……幸いというべきだろうか、『獣』それぞれに連携しようとする素振りは見られない。

 おれが放った三十二の氷槍に容易く進路を歪められ、ともすると何本かをその身に受けながら、『獣』は全くバラバラなタイミングで進攻を試みる。


 赤黒い触手が絡み合ったような名状しがたい体組織をもつ、生理的嫌悪感を催す四本脚の異形の生物……いや、魔物マモノ


 それを迎え撃つのは……右腕に補繕の痕こそ見られるものの、見るからに上質な造りの全身鎧を身に纏い、剣と盾をそれぞれ構え堂々と佇む『異世界の勇者』だ。



 あの白昼夢の『評価試験』にて、おっかなびっくりヤケクソ気味に撃退したおれとは異なり……人類に仇為す異形の存在を駆逐し続けてきた百戦錬磨の『勇者』の手に掛かれば、他愛の無いものなのだろう。





≪――窶ヲ窶ヲ鄒主袖縺昴≧縺ェ縲?、後□??シ≫


≪――繧ャ繧。繧。繧「繧「繧「??!!≫


≪――辟。讒倥↓雜ウ謗サ縺≫


≪――雋エ讒倥?蜉帙r隕九○繧≫


『……ハッ! 言葉さえ持たない『生物モドき』の分際で!』



 向かってくる『獣』にこちらから飛び掛かり、鼻先(?)を盾でブン殴って勢いを完全に殺す。

 脳(あるのかわからないが)を強かに揺らされ硬直した『獣』の身体に、股下から脳天まで剣閃が走る。


 二つに分断され倒れ行く『獣だったもの』を蹴飛ばし、次いで飛び掛かる『獣』の口内へと叩き込む。

 口部への刺激を受け反射的に顎を閉じたそいつの無防備な頭部へ向けて、光を纏った刺突が突き刺さり、盛大にぜる。


 続いて飛び掛かってきた『獣』の顎を盾で往なし、下段を左へと振り抜いた剣が『獣』の後肢を斬り飛ばす。

 直後剣閃を翻し、今度は左下から右上へと胴体を分断。勢いそのままくるりと踊るように一回転し、そのぶんの勢いを乗せた斬撃が頭部を真横に斬り抜ける。




 おれたちを矮小な捕食対象と認識し、考えなく飛び込んできた『獣』の半数が、百戦錬磨の勇者の手によってあっけなく十秒足らずで命(あるのかわからないが)を散らす。

 バラバラに分割され、トドメに【氷槍】を突き立てられても身じろぎしないとあっては……さすがにもう動くことは無いだろう。


 こうして群れの半数を駆除することに成功したわけだが……このままあと三体を駆除して終わり、となれば万々歳。

 しかし悲しいかな、今日一日で手にいれた情報を加味してよーく考えてみると……残念ながら、もっと厄介なことになりそうだという予想が立てられてしまう。




「……なつめちゃん、隠れて」


『――――然らば、我輩は森へ。身を潜めるは我らが本懐よ』


「ごめんね」


『問題にゃいとも』



 おれの直感に従い、【隠蔽】の外套のフードを目深に被り直し、駄目押しでおれ自身も【情報隠蔽】と【陽炎】の魔法を纏っておく。

 理由はわからないが現状得ているアドバンテージ、それをわざわざ無駄にするのも馬鹿らしい。『正義の魔法使い』の正体が割れていないのなら、その利点を活用させていただくとしよう。


 なにせ……今回の襲撃の陣頭指揮官サマが、増援と共に間もなく現れるハズなのだから。





「【鉄串どもペネトレイター】【射ちまくれフルブラスト】【実行エンター】!!」


「ッ、【防壁グランツァフォルティオ】!!」


「ぴゃああああ!!!?」




 『獣』をもう二体斬り倒していた勇者とは、真逆の方向……この【隔世カクリヨ】結界展開の要(だと思う)である朽羅クチラちゃんを狙って放たれた、明確に殺意を感じさせる攻撃。

 ごくごくふつうの、それこそ量販店ド◯キ百均ダ◯ソーなんかでは、この季節もあって安価で大量に調達できるであろう……バーベキュー用の鉄串。


 それらが。六本入りが十袋、計六十本が。

 まるで意思を持ち、そして『何者か』の指示に従うかのように、物理法則に反する『混沌』の法によって宙を舞う。



 おれの展開した【防壁】に阻まれ、硬質でけたたましい音を立てながら、鉄串は自身が耐えきれぬ衝撃によって折れひしゃげ、その大半が使い物にならなくなる。

 その様子を認識し、そして魔法使いおれを認識し……それら鉄串をけしかけた張本人の可愛らしい顔が、憎々しげに染まっていく。





「……ッ!! 最悪だわ。『魔法使い』だけじゃなく『勇者サマ』も来てるだなんて!!」


『やぁやぁステラちゃん。久しぶりだね。元気だった?』


「気安く話し掛けないでよ! 全くもう…………腹立つったらありゃしない!! 【鉄串よペネトレイター】【迸れファイア】【実行エンター】!!」


『はっはっは。相変わらず情熱的だね、ステラちゃん。ほらご覧? 。ボクってば愛されてるだろ』


「えっ? あっ…………そ……そう、だね。……いや、えっと……そう?」



 第一波の『獣』を駆除し終え、こちらへと戻ってきた『勇者サマ』。

 敵意と共に放たれた鉄串をいとも容易く弾き飛ばしながら、余裕綽々とおちょくるようなセリフを吐いてみせる。


 敵の陣頭指揮官に対して精神攻撃を仕掛けながら……おれこと『正義の魔法使い』こと『ジャスティス・アンノウン』を、さも初めて会うかのように印象づけていく。



「ムッカつく……!! 気安く名前呼ばないでってば!!」


『ごめんねステラちゃん。謝るから。めんごめんご。ほらアンノウンも。ステラちゃんに謝ったげて。ステラちゃんに。ね、ステラちゃん。可愛い名前だねステラちゃん。どしたの真っ赤になってプルプルしちゃって。可愛いねステラちゃん。赤ら顔もエッチで可愛いよステラちゃん』


「ちょ、ちょっと……そのへんで」


「……ッッ!! ッとうにアッタマ来た!! もう許さねぇブチ殺す! 『魔法使い』の仲間なら遠慮いらねぇ! 二人まとめて消し飛んじまえ!! 【キミに決めたサモン・サーヴァント】! 【全軍出撃ゴアヘッド】【実行エンター】!!」


「『ちょっ』」




 完全にガチギレバーサークモードと化した、陣頭指揮官……魔王メイルス配下【愛欲リヴィディネム】の使徒、佐久馬さくますてらちゃん。


 当初の目的として『重要拠点を嗅ぎ付けた『魔法使い』の排除』があったのだろう彼女は……忌々しい怨敵である『勇者サマ』に名を呼ばれ煽られ続け、もはや理性のタガが消し飛んでしまったらしく。





 預けられた兵力……そのを、一気に解き放ってみせた。




「……おい勇者」


『…………えへっ☆』




 さっきは『勇者ラニ』が蹴散らしてみせた『獣』が、ぱっと見で倍以上。


 幸いにも宙を舞う『鳥』の姿は見られないが、一方で最悪なことに『龍』の巨体が……なんと、三つ。



 最上位種『龍』が…………三体。





「後悔したってもう遅ぇ……どうせ遅かれ早かれんきゃなんない相手だ。今ここで『魔法使い』共々ブチ殺してやるよ! 『勇者』!!」


「絶対に『勇者』のせいじゃんコレ!! いっつもやり過ぎなんだって!!」


『いやいやいや元々『魔法使い』狙われてたし!? ボクは悪くないし!!』


「そんな言い訳がおれに通じると思うなよ! 帰ったらお仕置きだかんな覚えとけよ本当マジ!」


『ジョートーだよ! キミにだったらボクはナニされたって全然オッケー!』


「サカってんじゃ無ぇぞクソホモが!! 【死ぬ気で殺せキルゼムオール】【実行エンター】!!」


「『ちょっ』」




 謎多き『正義の魔法使い』と、その愉快な仲間たちの戦い……朽羅クチラちゃん防衛戦とでもいうべき一戦が、こうして(ハードモードで)幕を開けた。




 ちくしょうめ。帰ったら魔力素材搾取してやるからな。



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