第413話 【応援要請】神々見の案内人



 鶴城つるぎさんや囘珠まわたまさんのように、神様の居られる場所というものは、えてして広大な緑地を擁していることが多い。

 長きを生きた大樹や草木の営みには、邪気を払い澄んだ神力を漲らされる作用があるとかなんとかで……まぁ要するに、あの神社特有のとても落ち着く空気は、神様にとっても色々と都合が良いのだと。





「はぇーー…………すっごい」


「ふっふっふ、そうでしょうそうでしょう! まぁそれも当然のこと、なにせ神々見かがみ本宗ほんそうの神域結界に御座いますれば! 緒張おわり江都えどの弱小辺境格下結界など比べるまでも」


((ギロッ))


「ヒィッ!? た、た、戯れに! ほんの戯れに御座いますれば! 小生とて本心より申し上げたものでは御座いませぬゆえ! 決して、決して! 本心に御座いませぬゆえ!!」


「…………いい性格してるっすね」


「そだね……今までに会った神使の中でいちばん軽いわ」



 いつになく明確な敵意を垣間見せた『緒張おわり江都えどの弱小辺境格下結界』に所縁のあるなかよし姉妹に睨まれ、あっという間に掌を返し平謝りをして見せる……この社の案内人。

 調子が良いというか言動が軽いというか……糸のように細められたその目からはいまいち『感情』を推し測りづらいが、おれたちはただただ後に続くしかない。



 確かに、街中に位置するがゆえ敷地を拡げられない鶴城つるぎさんや、面積こそあれど相殿あいどのの立場であり公共施設も多い囘珠まわたまさんとは根本的に異なり……ここの神域は広大な山林敷地その全てが、神域を形成する『霊場』として機能しているわけで。

 人々の営みの喧騒から離れ、自然のもたらす神力に満たされたこの神域結界は……誇張ではなく、たしかに最も『見事』なものだった。


 どれくらいスゴいかというと……初めて鶴城つるぎさんの結界内に侵入はいたときにビックリ仰天していたラニちゃんが、現在は完全にお口あんぐりビックリ顔で等身大フィギュアになっちゃってる(※現在進行形)くらいには、だ。



 初夏の長い日も陰りを見せ始め、森が神秘的な暮明くらがりに沈みゆく中……古めかしくも荘厳な木造の橋を渡り、おれたちは一人の少女に先導されながら、『神々見かがみ神宮』敷地内の【隔世カクリヨ】を進んでいく。




………………………………………





 それは先日……おれたちが松逆まつざか市のバイオマテリアルセンター視察へ向かうことが決まり、春日井さんと日程や段取りの調整を行っていたときのこと。

 おれのスマホが突如【リョウエイさん(鶴城神宮)】からの着信を告げ、滅多に無い相手からの音声着信に盛大に取り乱しながら応答したところ……なんとびっくり通話先の声は某笑い声の特徴的なうるさい神様だった。



『聞いたぞ長耳の。近々神々見ガガミの許へ向かうのであろ。成らば都合良い、百霊モタマのとき同様ワレも連れて行くが善い』


「えっ!? あっ、その、えっと……確かに三恵みえ県ではあるのですけど、神々見かがみ市ではなく松逆まつざか市でして……」


呵々カカ! 其所ソコまで往けば然程さほどの変わりは在るまい! ものの一ッ翔びで神々見ガガミ迄届こうが』


「いえあのその……さすがにわたしたちは、ひとっ飛びでは行けないかなぁと。……それに、大丈夫なんですか? 前回のもリョウエイさんに怒られたって聞きましたが……」


ッッ!! なァに心配在るまい! あの小名スクナめに『写身ウツシミ』を預ければ龍影リョウエイめも手は出せま……(何だ龍影リョウエイやかましい。…………はぁ? 貴様このワレに指図とは良い身分…………は? え、ちょ、待て。待て龍影リョウエイ。何だソレは。ワレんな代物モノらぬぞ。えっ、ちょっ、待っ…………わ、解った! 解っ、わかったと! ……ええい待たぬか! 布都フツノが解ったと云うてろうに!!)』


「「「…………………………」」」



 スマホから漏れ出る騒々しいにぎやかな神様のお声に、おれとラニと春日井さんが神妙な表情を浮かべる中……『待て』だとか『聞いとらん』だとか『ずるい』だとかいうお声が、遠くのほうで聞こえる気がする。

 やがて……どうやら通話口の向こうでは、何がとは言わないが片がついたのだろうか。先程までよりいやに大人しくなっしょんぼりした声色で、フツノさまがお言葉を紡ぐ。



『…………ハァ…………まァ良い。ワレから夜泉ヨミめに伝えてこう。其所ソコまで脚を運ぶのなら、ついでにでも訪ねてみるが良い。……性根は捻繰ひねくれて居るが、一応は神よ。顔を繋いで於いて損は在るまい』


「えっと…………ありがとう、ございます。フツノさま」


『ハァ…………神々見ガガミから戻り落ち着いたら、また霧衣キリエを連れはなしでも納めに来るが良い。茶と菓子程度なら出そう。真柄マガラがな』


「……わかりました。きっと、そう遠くないうちにお伺いします」


『……呵々カカ! (……ほれ、返すぞ龍影リョウエイ。全く……何時いつからんなに生意気にった。一体何処ドコ何者ダレの入れ知恵……は? 金鶏キンケイ? 囘珠マワタマの? あンの小娘が余計な真似マネ)』


「あっ切れちゃった」


「あー、切っちゃった?」


「切りましたな。……まぁ確かに、アレはあまり他人には聞かせたく無いでしょう」





………………………………………




 …………などという、フツノさまの親しみやすさポイントが爆上がりするイベントがありまして。

 まぁ、そこまでお膳立てしていただいたのなら、お顔を出さなきゃさすがに失礼だろうと思いまして。

 そうして神々見かがみさんのご都合をお伺いさせていただいたところ、ちょうど工場見学の日の夕方なら大丈夫だということで。


 おれたちはバイオマテリアルセンター(の近くのコンビニ)駐車場での緊急会議の後ちょっとばかり車を走らせ……『お神見かみさん』の愛称で親しまれる『神々見かがみ神宮』へと足を運んだわけだ。




「いやはや……しかしながら、我が神々見カガミへの参拝を後回しとは。新参のあきつ柱と云えば聞こえは宜しいが、長耳の化生の分際で随分とまぁお高く留まって居られる」


「帰ろっか」


「そっすね」


「いやいやいやいや! ほんの戯れに御座いまする! 信頼がゆえの軽口に御座いまする! 断じて! えぇ、断じて本意には御座いませぬゆえ! 平に御容赦を!」


「だって……さぁ。ぶっちゃけ気分悪いし。フツノさまには悪いけど、ここまで性格悪いとは思わなかったし」


「ンン!! わ、解り申した! 小生の不徳の致すところなれば! 此度はほんの、ほんの可愛らしい出来心に御座いまする! 今後は断じて! 断じて御客様の御気分を害す所作は慎んでご覧にいれますゆえ!!」


「最初っからちゃんとやってくれりゃぁ良かったんだよ。……な? そうだろ? こちとらちゃーんと『紹介状』貰っとるんやぞ? 自分で言いたか無いけど、おれられっきとした『お客様』やぞ?」


「は、はい……えぇ、まこと仰有おっしゃる通りに御座いまする……」


「あんまこういうの良く無いんだろうけど……キミ容姿に救われたね? 仮にキミがおっさんだったらおれ即フツノさまにチクってたからね? 本来ならアウトだからね? そこんとこ解ってる?」


「はい…………しかと肝に銘じさせて頂きまする……」


「キミ名前は? ん? 名前なんてぇの?」


「…………朽羅クチラ、に……御座いまする……」


「名前覚えたからね?」


「………………は、ぃ……」





 調子に乗りたい盛りのお年頃なのかは知らないが……糸のように細められていた目には悲壮と焦燥の感情に加え、潤んだ瞳に涙さえ滲ませ。


 黒糖色の髪を短く揃えたふわふわの頭に……何故か感情に合わせて『ぴょこぴょこ』と自在に動く、大きく扁平な二房の毛束を備え。




「まったく。……なつめちゃんはこんなにも落ち着いた良い子だというのに」


「……家主殿よ、我輩とてさすがにコレと比べられるは我慢にゃ……ならぬ」


「そうだね、なつめちゃんは良い子だもんね」


「うむ。そうであろ。…………んふー」




 なつめちゃんと似たり寄ったりな小柄な身体を巫女装束に包んだ、野兎の神使『朽羅クチラ』ちゃん。


 おれたちの案内人である(はずの)イタズラ子兎は……おれの半ギレながらのクレームにより、こうしてようやく大人しくなったのだった。

 理解わかりゃいいんだよ。



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