第412話 【現場視察】時すでに時間切れ



 まず、世界侵略性外来植物『レウケポプラ』とは……この世界の構造パラメータを根底から改編するために『魔王』メイルスが生み出した、植物の体裁を備えた侵略者である……らしい。



 特定条件下で加圧抽出することで高濃度の液状魔力素材である『含光精油』を生成し、また抽出後のかすを圧縮成形することで『燃料ペレット』として活用できるという。


 前者は『ゾンビ』対策におけるコーティング材として多用途に活用できる上、後者のペレットは従来の火力発電設備にて、石炭燃料の代替品としてほぼそのまま転用が可能。

 化石燃料を消費しない持続可能エネルギーとして、なんと既に一部で供用が開始されている他……燃焼段階で発生した二酸化炭素は『レウケポプラ』の光合成によって、なんとびっくり百パーセントが吸収されるのだという。


 ……まぁ、このへんが魔素イーサを生成するためのリソースなのだろうな。二酸化炭素を魔化学変化させて魔素イーサをホニャホニャしてるのだろう。



 ともかくこの『レウケポプラ』……環境変化に強く、栽培も容易。

 この世界ではまだ需要の少ない『含光精油』部分を抜きにして考えるだけでも……発電の際に二酸化炭素を発生させないどころか、逆に発電栽培すればするほど二酸化炭素の削減に貢献できてしまうという、資源に乏しい我が国においては夢のような素材なのだ。



 そして広報担当中村さんの話によると、『レウケポプラ』栽培プラントは……関東・東海・近畿エリアに、既に五ヶ所が稼働中なのだという。

 それはつまり……異世界レベルで高濃度の魔素イーサが満ちて(しまって)いる地域が、ここ含め五ヶ所もあるということに他ならない。






 工場見学を終えて、それらの情報を得意気に話してくれた中村さんに別れを告げ……おれたち『正義の魔法使い(二人羽織り)』は再び春日井さんに送ってもらい、もとのコンビニ駐車場へと戻ってきた。

 とりあえずラニたちと意見のすり合わせを行いたかったので、お世話になった春日井さんに一旦の別れを告げる。おれたちの見識は後程、レポートにまとめて提出させていただく形だ。


 そうして急遽開かれた会議の場。そとからの視線や盗み聞きを心配しなくて済むこの環境ハイベースは、本当に助かる。




「ヒノモト建設が音頭を取って、企業間で共同出資して進めてた事業みたい……すげーよこれ、参画企業リスト。日本有数の大企業ばっかじゃん」


「そりゃーまぁ乗っちゃいますよね。クリーンな持続可能エネルギー源とか、特に日本は喉から手が出る程欲してるでしょうし。……あー、LEDと水耕栽培で全天候型なんすね。……いや、すげーっすよ。これだけで日本の電力問題解決じゃないっすか」


「しかし…………いや、この世界の人々には魔素イーサを感じ取ることが出来ないとはいえ……こうも容易く……」


「っ!? ……山本、五郎…………そうだ、この人! 鶴城つるぎさん前でり合った!」


「ヤマモト、ゴロー……あ、あったっすよ。えーなになに……ヒノモト建設の、前会長? 末期癌から奇跡の復活……経営に復帰…………」


「…………なるほど? メイルスがヤマモトなにがしに巣食った時点で……こうなることは予測出来たってことか……ッ!」


「ら、ラニ……おちついて……」




 おれ(たち)が持ち帰った情報、ならびに現在地の環境を材料として……これまでは何処か引っ掛かりを覚えていた『魔王』メイルスの目的が、いよいよ全て明らかになった。

 そしてそれは同時に……おれたちがその企みを潰すことは不可能だということを、まざまざと見せつけられるものでもあったわけだ。


 無理もないだろう……なにせ、メリットが大きすぎる。オマケに発言力の高い名だたる大企業が、ことごとく『魔王』に(自覚無いまま)くみしているのだ。

 この先未来永劫に渡って、電力供給の懸念が払拭されるかと思っていた矢先……仮にフツノさまやモタマさまのお名前をお借りしたとしても、言うに事欠いて『魔素イーサが増えちゃうから!』なんていうワケの解らない理由で止められるはずがない。


 悲しいことに……この現代日本においては、神様よりも大企業の声のほうが大きいのだ。




 こうして、おれたちはまんまと『魔王』に一杯食わされたわけだが……だからといって悲観してばかりは居られない。


 確かに、この世界の『異世界ファンタジー化』を完全に防ぐことには、遺憾ながら失敗したかもしれない。

 しかしながら――ラニが元居た『異世界』がそうだったように――魔素イーサが大気中に満ちていても、人々が営みを続けることは……決して不可能ではない。




「そりゃあまあ、大気中の魔素イーサが増えたなら……『魔王』にとっては動きやすくなるんだろうけど。……でもそれって、おれたちにとっても言えることじゃない?」


「…………まぁ、それは……確かに」


「オカルトが幅を利かせられるようになるってぇなら、むしろ望むところだよ。おれたちにはこうして『正体不明の魔法使い』できる準備が整ってんだもん」


「…………そうだね。魔素イーサ由来の現象は……まぁ、色々と起こるだろうけど……それだって捉えようによっては、ボクらの行動を隠してくれるってことだ」


「そうだよ。……オカ板とか、テレビとか週刊紙が騒がしくなるだろうけど……でも、まだ全然『滅び』じゃない。打つ手無しだった前とは違って、この世界には『苗』の『保持者』を元に戻すことができる正義の魔法使いおれたちが居るんだから。……絶対に、『魔王』の好きにはさせない」


「………………ノワ……」




 そりゃあもちろん、われわれは所詮平和ボケした日本人だ。ラニの居た世界の、ラニと肩を並べて戦ったパーティーメンバーよりかは……まぁ、頼りないかもしれないけれど。

 こちらには、ラニが有用性を見出だしてくれた力が……『保持者』の命を奪わずに『苗』を除去する手段があるのだ。


 そこに、百戦錬磨の『異世界の勇者』の知恵が加われば……勝算は、決して低くはない。




「やってやろうぜ、相棒。優位に立ったつもりの『魔王』に、一泡吹かせてやろうじゃないか」


「……全く。キミがボクの縁者で……本当に良かったよ」


「エッヘヘヘェー」




 魔力が満ち始めたこの世界は……恐らく、いろんなところで変化が生じていくだろう。


 それはおれたちにとって、枷となるものもあるかもしれないが……追い風となる変化も、多分に期待できるはずだ。




 というわけで。

 工場見学を終え、必要な情報と判断材料も手に入ったので。


 そのあたりの話をしに、然るべきところへ向かおうじゃないか。



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