第408話 【戦力拡充】正体見極め作戦
定例配信およびほか週数回の配信を(極力)欠かさず行い、局長としての活動と存在のアピールをしっかり行いつつ。
自分および所属メンバーの撮影した映像(りょうり部・おにわ部・おてて部・げーむ部……などなど)の編集依頼を発注し、また納品された動画をチェックし、完成品をタイミングを見計らいながら定期的に投稿しつつ。
配信の際に寄せられる暖かな声と支援……『すぱちゃ』に対するお礼のお言葉も、細かな時間を見つけてはハンディレコーダーで録っては送り録っては贈りを繰り返しつつ。
そして……世間を騒がせる
日々の肉体的・精神的な疲労を……かわいいかわいい同居人たちに、あの手この手で癒してもらいつつ。
活気を取り戻しつつある温泉街、その一等地にたたずむ温泉旅館を、何度かお忍びで堪能させていただきつつ。
そんなめくるめく激動の日々が続き、早いものでもう七月。気温も湿度も高くなってきたし、そろそろプール日和かもしれない。
しかし今日のところは、プールにうつつを抜かすわけにはいかない。
おれたちにとっていろんな意味で大切な……久しぶりの『遠征(≒遠足)』の日なのだ。
「春日井さんとは現地で良いんすよね?」
「うんそう。なんかねー工場の近くにコンビニがあって、そこの駐車場で十四時に待ち合わせって」
「十四時ならまあ……昼メシ食っても余裕ありそうっすね」
「そうエヘッだよね。えへへッ」
「先輩ヨダレ……いや、まぁわかりますけど……」
昨日のうちに給油も済ませたし、ハイベース号の準備も万端。水タンクも消耗品もふわふわ毛布も抜かりない。
そうこうしているうちに、
しっかり戸締まりを確認してくれた
「それじゃ……ごめんだけど、ノワ」
「ん。安全運転でいくから……寝てていいよ、ラニ」
「うんー…………」
壁面収納の一部に備え付けられた、ラニちゃん専用の『おやすみボックス』――周囲にふわふわタオルを敷き詰めた、ラニちゃんの体型に近づけたサイズの専用ベッド――に潜り込み……小さくて勤勉な魔法研究者は、やがて健やかな寝息を立て始める。
無駄な広さのないこの『おやすみボックス』であれば、走行中の揺れや加減速で大きく揺さぶられることもない。
彼女はここ数日……魔法道具用の魔法構築を間に合わせるべく、朝から晩を経て深夜まで働きづめだったのだ。
勤勉過ぎる彼女の尽力で、驚異といえるハイペースで『防御装備』と『視覚装備』の
本当に……移動中の時間だけでも、ゆっくり休んでほしい。
「じゃあま、出発しましょ。時間遅くなってお昼が食えなかったら、おれは一生後悔する」
「そこまでっすか。……まぁわからんでもないっすけど」
「わたくしも! おにく! たのしみでございまする!」
「我輩もである。最上位の肉なのだろう? 安心せえ、御代はちゃあんと身体で払うゆえ」
「「ぶふーーーーっ」」
ピンク色に染まりそうになる思考を振りきって、おれは運転に専念する。
本日の目的地は、
そして第一の目標は……とってもとっても楽しみな、お昼ごはん。
そうとも、日本三大和牛と名高い
優勝まちがいなしですよこれは!!
…………………………
っというわけで、敷地内から別荘地内道路、そして県道へ。
これまでも何度かアピールさせて頂いているように、おれたちが拠点を据えている岩波市の滝音谷フォールタウンは『
都市部からは結構距離があるので、買い物なんかで普段使いするには、さすがにちょっと向かない。
移動の時間と高速料金を考えると『とても便利』とは言いがたいが……しかしそうはいっても、ほぼダイレクトで高速道路に乗れるのだ。
今日のように、最初から遠出することが決まっているのであれば、下道の交差点や信号に悩まされずに済むこの環境は非常にありがたい。
というわけで、第二東越基幹高速(下り)に乗って、西方向へ。
山間のトンネルと橋架のオンパレードを抜け、車はやがて愛智県の市街地エリアへ。しかし中心地である浪越市方面には向かわず、浪越南ジャンクションを西進。今回はそのまま海方向を目指す。
浪越港を跨ぐように架けられた巨大な橋……片側三車線の高速道路、
浪越市港区の重工業地帯を眼下に望むこの高速道路は、中日本エリアの工業と物流を支える大動脈だ。この真下に広がる巨大な港湾エリア各所の埠頭から、工業製品や原材料が連日連夜上げ下ろしされている。
……それらあまりにも大掛かりな、見渡す限り広がる鋼鉄仕掛けの景色を……窓に張り付きながら眺めている二人。
おてては窓に『ぴたっ』と張り付け、おめめは真ん丸に見開き、三角形のおみみを『ぴーん』と伸ばし、おしりから生えるしっぽは縦横無尽に暴れまわり……これまで見たことが無かったであろう日本の景色に、どうやらびっくりしてくれたようだ。
「先輩……」
「ご、ごめんて。もう余所見しないから」
「本当頼んます。まわり大型トレーラーばっかですし、メッチャ怖いんすよ」
「ッス……マジスマセン…………」
……運転中、とくに高速道路走行中の『よそ見』は、絶対にだめだぞ。
おれはエルフだからなんとかなった。エルフじゃなかったらあぶなかった。
…………………………
「……よし。みんなー休憩だよー」
「はーい」「は、はいっ」「うむ?」
そんな重工業地帯、浪越港を越えて……越えている途中で県境を跨ぎ
おうちを出発してから、合計およそ三時間。目的地までおよそ三分の二程度を走破したおれたちは、小休憩のため
途中の
さすがに長時間座りっぱなしは身体にもよくないし、エルフのおれでも集中しっ放しは身体によくない。咄嗟の判断力も低下してしまうので、やはり適度な休憩が望ましい。ジャフさんも言ってた。
それに、いちおうわれらがハイベース号には(いつぞやおれがドア大解放したままお世話になったように)おトイレが備わっているのだが……下世話な言い方になるわけですが、一回ずつ専用凝固剤を使って密封処置を施すのには……まぁ、ランニングコストがですね。少々とはいえ掛かるわけでして。
なので車内トイレは最後の最後の命綱として、普段はやはりサービスエリアなんかでお手洗いをお借りするのが望ましいわけです。
「じゃあー……十時には出たい……かな? それまでに各自戻ってくるように」
「了解っす。オレは単独行動させて貰いますが……」
「……わ、わたくしは…………できれば、若芽様と……」
「我輩も家主殿と、ねえさまと一緒に動こうぞ」
「ン゛ンッ!!
ふっふっふ……こうして人々にお見舞いするのは、いつぶりになるだろうか。
遠出のときのおなじみ、『おれたちの存在そのものが広告』作戦。
ふははは、悶えろ。竦め。
この子らの尊さをSNSにアップしながら○んでゆけ。
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