第409話 【遠征撮影】日本三大WAGYU
動画撮影の大部分を
実際
……まぁ、その半分くらいはディレクター陣に弄ばれるおれの悲鳴が目当てだというが……それでも、求められていることには変わり無い。
というわけで、貴重な『わかめちゃん』
つまりなのでこれは決して、決してわたくしの私利私欲によるものではなくてですね、ひとえにわれらが『のわめでぃあ』の発展に寄与するものであってつまりは必要経費なわけででしてですね。
「いや御託は別にいいっすから。わかってますから。大丈夫っすから。早いとこ撮るもん撮って店入りましょ」
「し、しょうがないなあ! そこまでいうなら入ってあげようじゃないの!」
「いや、えっと…………ソッスネ……」
「えへっ。えへへっ」
待ちに待ったお昼どき。上機嫌なおれたちが到着したのは、
どこからどう見ても高級感を漂わせまくる、間違ってもおれのような平民が軽いノリで近づくことなど出来そうもない、控え目に言って『名店』。おれも春日井さんからの紹介でもなければ、ランチの選択肢にすら上がることは無かっただろう。
せっかくの高級店ならば、ぜひとも動画に収めさせていただきたい。なので予約のときダメもとで交渉してみたのだが……なんとあっさりオッケーが出た。
完全個室だから問題ないんだって。……おぉ、高級店。
ぴしっと整ったスーツ姿の店員さんに案内され、個室のひとつへと通される。
全体的に和風の雰囲気のお店ながら、席はテーブルと椅子の洋風な感じだ。おじさんには長時間の正座は少々堪えるので……これは助かった。
四人席ながらテーブルそのものはかなり余裕があり、窮屈さを感じさせない。テーブルの上には既に小さなコンロが一人ひとつずつ置かれ、これから運ばれてくるあれやこれやの期待が高まっていくのが実感できる。
大きな窓からは中庭を伺うことができ、室内ながらとても解放感を与えてくれる。それでありながら真ん中らへんの高さは曇りガラスになっていて、他の個室のお客さんと目が合うことも無いだろう。
窓から光が入ることを期待して……出入り口側におれと
今回はモリアキが撮影担当のスタイルになるので、対角線からおれたちを狙えるように、いちばん離れてる席に配置した形だな。モリアキの隣が嫌だってわけでは決してないぞ。
なおラニちゃんはモリアキのすぐ横で姿を消している。……店員さんには、見られるわけにはいかないのだ。
こうして、万全の体制で待ち構えていたおれたちのもとへ……ついに
すき焼き専用の平たい鉄鍋と牛脂、大きな徳利に入れられた香り高い割下、葱や椎茸や春菊やえのき茸等のお野菜と、焼き目のついたお豆腐。
そしてなによりも……鮮やかな肉の色に白く細かなサシが入った、見た目からして綺麗で美味しそうな
「「「うわぁーーーー…………」」」
歓声を上げられるおれたち三人は、まるで子供のように歓声を上げ……そして歓声を上げられない二人は、ものすごい顔で声を我慢しつつ目を輝かせ。
モリアキが回しているカメラの前、そしておれたちのすぐ目の前で、手慣れた店員さんの手によってすき焼きが仕上げられていく。
コンロに火をつけ鍋を熱して牛脂を溶かし、まずはネギを焼いていく。
お部屋にネギのいい香りが立ってきたら、本日の主役である
おれが牛肉との別れを惜しんでいる間にも、薄切りでサシの入りまくったお肉にはどんどんと火が通っていき……
そうしてトドメのように、徳利から割下が鍋へと回し入れられ……しょうゆとみりんと出汁のいい香りが加わり、嗅覚に超絶大ダメージを与えていく。
あとは、残されたお野菜やお豆腐やしらたきが彩りよく植えられていき……感極まって涙さえ浮かべているおれたちの目の前へ、おひつからよそわれた白ごはんとお味噌汁と、忘れちゃいけない生卵が配膳され……。
「それでは、何かございましたらお呼び下さい。ごゆっくりどうぞ」
「…………ふぁぁーい」
きれいなお辞儀を残して店員さんが退室し、個室にはおれたち五人とおよそ考えうる限り最強な『すき焼き』だけが残され。
「いただきます!!」
「「いただきます!!!」」
肉食系ガールズはお上品にがっつき始め、初手から
お目目を『くわっ』と見開き、お耳も『ぴーん』と伸ばされ、頬をほんのりと上気させたまま、おくちはゆっくりと咀嚼を始める。完全にトロけてますねこれはね。
かわいいけもみみ美少女の可愛い言動に幸せを感じながら……卵を溶き終わったおれもいよいよもって、くつくつと煮えるすき焼きに箸を伸ばす。
カメラを回しているので、あまりお下品になることの無いように。しかしながらしっかりと、おれは日本屈指のお味を堪能させていただくのだった。
「いや……マジやばいっすね、これは」
「ギューニクとたまご……このタレがまた……おいひい、おいひいよぉぉ」
「やばすぎんよな……とにもかくにも肉がヤバい。割下だけじゃなくて、まずもって肉の脂が甘いんだろうな。おまけにエグいほど柔らかい……」
完全に語彙力が消失し、小学生並みの感想しか出てこなくなってしまっている我々だったが……とりあえずお味のほどは疑うまでもなく大満足だ。
わうにゃう姉妹も二人なかよく『とろん』とした表情で、お口いっぱい幸せいっぱいの様子だ。うーんえっちです。
それにしても……さすが日本が誇る三大和牛のひとつ。聞きしに勝る結構なお手前で。
ヤバいくらいおいしそうなお肉とお料理も、滅多に来れないだろうお店とお部屋の雰囲気も、そして美味しさのあまり恍惚顔になっちゃってる二人の可愛いお顔も、何から何までバッチリ収めることができた。
お一人あたり……五桁円を支払った甲斐があるというものだ。
ただ合計金額もギリギリ五桁に収まったぞ。よかったね。わあい。……大田さん
「ご馳走さまでした。ものスッゴく美味しかったです」
「ありがとうございます。またお越し下さいませ」
「また来たいです~~」
おなかも満たし、映像も押さえ、お会計も済ませ、意気揚々と『神楽舞』さんを後にするおれたち。
しかし、やはり県警のおえらいさんがお勧めするほどの名店……客層もやはりそういう、会社社長とか役員とか、いわゆる上流階級の方々が多いのだろう。
駐車場にもお高そうなセダンとか、見るからに高級車が並んでおり……われらのハイベース号の浮きっぷりが、なんかここまで来ると清々しいな。
「――――、――――りが――! すっごい――――たぁ!」
「はっはっは。――――て――、―――楽しんで貰えたなら、――――も嬉しいよ」
おれたちの後を追うように、お店の玄関から出てきた二人組……まさに会社役員といった風体のおじさまと、腕に絡み付く年若い女の子。
……ちょっと見ちゃいけない光景を見てしまった気もするが、たぶん気のせいだろう。◯◯活なわけないよな。きっと親子だ。仲睦まじいなぁ。
「もー嬉しいー! ありがと専務さん! 今夜は楽しみにしててね、お礼にいーっぱい
――――はいアウトぉ!!!
いったいどこの誰ですか、白昼堂々◯◯活に精を出しちゃってる悪い子ちゃんは。全くもってけしからん!!
特に深い意味もなく、むしろ自然な流れで声のする方へと、若干の興味と共に目を向ける我々。
無垢な表情の二人と、羨ましそうにしている一人と……途端に顔を引きつらせる、
(…………ラニ、緊急脱出準備)
(落ち着いてノワ。近くに一般人も居る。
(それでも……いざってときは三人をお願い)
(……わかった)
ミニスカートとオーバーニーソックス、おへそがチラチラ覗くシャツと、薄手の長袖アウターウェア。腕を絡めて『専務さん』に控え目な胸を押し付けるその目付きは、見た目の年齢とはそぐわぬ程に淫靡なもの。
ライトブラウンの艶やかな髪を靡かせ、不自然なほどに可愛らしく愛嬌を振り撒く……歳の頃は十代の中程に見える、彼女。
おれと、姿を隠したままのラニは……そんな彼女の名前を、そしてその本性を知っている。
……
おれたちと敵対関係にある『魔王』メイルスの娘にして……【
この世界の存亡を左右する、重要参考人である彼女の目が。
おれたちの姿を、捉えた。
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