第407話 【戦力拡充】光る!鳴る!喋る!



 ラニとセイセツさんたちが【変身】デバイスを造り上げたときにも思ったことなのだが……魔法の道具はもしかすると、現代の家電製品に近いのかもしれない。


 電力の代わりに魔力を動力源として、蓄電池の代わりに【蓄魔筒バッテリー】を挿入し、呪文スペルコードをスイッチの代わりとして作動し、要求された動作を動力源が供給される限り行うもの。

 その道具の機能を決定する呪文スペルコードさえ用意することが出来るならば、その応用の幅は無限大……それこそ『できない』ことが『できる』ようになる可能性は、無いわけじゃない。




 たとえば……人間として当たり前の動作さえ困難になる程に小柄な身体となってしまった少女を、【蓄魔筒バッテリー】の魔力で【浮遊】させる魔法道具。


 たとえば……投射のための機器を一切必要とせず、物体を決して燃焼させることなく『燃焼しているような幻影』を纏わせる、【演出】のための魔法道具。



 そんな摩訶不思議な、それでいて『痒いところに手が届く』便利な魔法道具を作れるというのなら。

 それこそ……この現状を打破するための、斬新かつ革命的な魔法道具を作ることも、充分に可能なのではないだろうか。




「ボクの本懐は魔法研究だからね。イメージを形にしてくれる技術者……優秀な技工士にも、心当たりができた。……やってみせるさ」


「……手前、で御座いますか? ……白谷様のお眼鏡に叶うかは疑問に御座いますが」


「ぶっちゃけ、圧倒的。それこそボクの顔馴染みの…………顔馴染みだった技工士と、たぶん同じかそれ以上の技術力だよ。テグリちゃん」


「……恐縮に御座います」





 あれこれと試行錯誤するための技術者も抱き込めたし、動力源に関しても……幸か不幸か目処が立った。

 ヒノモト建設化学技術部が抽出に成功した『含光製油』……これを【魔王】一派が齎した理由こそ不明だが、これそのものは極めて上質な魔力素材であることは確かなのだ。



 現在、主として世間を賑わしている行動体、『葉』……まぁ、ブラックゾンビ。それ自体は現状の装備で、現在の警察官による対応でなんとかなっているが……このままでは済まないということを、おれは知っている。


 あの『葉』と同様の体組織を持ち、しかしながら到底似つかぬほどの運動能力と狂暴・凶悪さを付与した上位種……『獣』。

 そして更に高い運動能力と、なによりも飛行能力、それでいて『葉』以上の攻撃能力を備えている上位種その二……『鳥』。

 終いには……その巨体と飛行能力と火力と耐久性と、おれでさえ始末するのに並々ならぬ苦労を強いられる羽目になった、忌々しい最上位種……『龍』。


 出し惜しみをされているのか、それとも出せない理由があるのか……幸いなことにこれまで姿を見せなかったそれら手札を、まだ【魔王】は伏せたままだという事実。

 その事実がある限り、決して安心することはできない。


 いちおうおまわりさんには『いつもとは違うヤツが出たらすぐに呼んでください!』とは伝えてあるが……『龍』が都市部に出現と同時に口腔砲ブレスをぶっぱなす、なんていう最悪の事態が起こらない保証は……残念ながらどこにも無いのだ。




 そういうことなので、色々と備えておくに越したことはない。

 ラニと軽く意見のすり合わせを行ったところ、やはり『現場で対処に当たるおまわりさんの強化装備を考えるべきだろう』との認識を共有するに至った。


 というわけで……優先順位一、二、三。とりあえず三つほど『できれば作りたい』魔法道具が思い浮かんだので、備忘録もかねて記しておこうと思う。




 まず優先順位第一位。おまわりさんたちの命を守るための『防御装備』だ。


 現状おまわりさんたちには、『ゴカゴアールEX』で強化されたシールドやヘルメットやボディアーマー等を装備して貰っている。

 動きの緩慢な『ゾンビ』が相手であればそれでも充分かもしれないが、それらを装備していても防具で保護できない部分は普通に無防備だし、もしこの先『獣』の牙や『鳥』の足爪が振るわれるようなことになれば……お世辞にも防御力は『充分』とは言いがたい。


 なので、要求するスペックは単純にそれらの完全上位互換。イメージとしては『着込む』防具ではなく、【防壁】を生じさせる魔法道具である。

 小っちゃい天使配信者キャスターセラフさんの専用デバイス……それを創るために、みんなであれこれ悩んだ甲斐があった。

 基本的な設計はほぼそのまま流用できるし、あとは【蓄魔筒バッテリー】の挿入数を増やしたり、登録呪文を【浮遊】から【防壁】に置き換えたりと、ちまちました小改修を施せば良いだけだ。


 生産ライン……というか、作り手である木材加工や鍛冶彫金の職人さんは、鶴城つるぎさんが囲っていてくれているはずだ。

 どれくらいの規模で生産できるかはわからないが……やっぱり、可能な限りの量を確保していきたい。



 続きまして……優先順位第二位。魔力由来の物質を知覚出来るようにするための、視覚装置。


 こちらはいうなれば、魔法道具版の赤外線ゴーグルのようなもの。おれたちの扱うような【魔力探知】とまではいかずとも、の魔力の流れや反応をゴーグル型のディスプレイに投影し、魔力由来の現象――つまりは【魔法】――や、その兆候を知覚させることを目的とする。


 もちろん、完全に手探り状態での製造となる。難易度は正直かなり高いだろうが……しかし実戦投入がなされた際には、その恩恵は計り知れない。

 ユニットさえ完成させてしまえば、あとは実装する魔法条文スペルコードに【熱量】【生体反応】等バリエーションを持たせ(あるいは同時実装してしまい、更に切り替え機能を持たせ)ることで、【魔力】を探知する以外にもマルチに利用できる、汎用性の高いデバイスとして成立させることが出来るだろう。


 そして何よりも……の魔力現象、つまりは『苗』の存在を知覚することが出来るようになるのだ。



 それを踏まえて……優先順位第三位。魔力由来の構造物に干渉するための手袋グローブ、ないしは手甲ガントレット

 これの提案理由は、単純にして明快。前述の魔力探知ゴーグルによって視認した『苗』を……おれたちの介入を必要とせずとも、直接除去できるようにするためだ。


 ただこれに関しては、さっきのゴーグルよりも難易度が高い。

 というのも、おれやミルさんやラニちゃんが『苗』を取り除こうとしている際には……なんというか、直感的に【わざわいを取り除こうとする】系の魔法を行使しているようなのだ。


 奇しくもあの『種』によって生じた変化によって近似点を備え、そして『それを取り除かなければならない』という意思のもとで生じた、無意識の干渉魔法……それが『おれたちのみが『苗』に干渉することができる』理由らしい。しらんけど。




「三つ目に関しては、まず『『苗』に触れる』ための魔法を作るところから始めなきゃならない。巧妙に位相をズラした存在である『苗』に、こちらの……周波数? を合わせてあげる感じのイメージで。ほんの一瞬、一部位だけズラすだけなら……たぶん、そんな負荷も掛からない」


「位相をズラす、って…………そんな大それた魔法、本当に完成できるの?」


「…………実をいうと、もう材料は揃ってるんだよね。……ねっ、ナツメちゃん」


「えっ?」


「……んに?」


「あっ(察し)」


「??? …………な、何? 何だ??」




 ……そうだ。なつめちゃんたち一部の神使が行使できる【隔世カクリヨ】の術、あれこそまさに『任意の者の位相をズラす』魔ほ…………術、に他ならない。

 これまでは『魔力を持つ者』全てを対象に行使されていたを、『手首から先のみ』『掴む瞬間だけ』に限定する。これならば【蓄魔筒バッテリー】の魔力でも賄える(可能性がある)し、装備品の形にしてしまえば誰にでも扱えるようになる(かもしれない)のだ。


 困ったときの神頼み、とはよくいったもので……この【隔世カクリヨ】の術を理解できれば、なるほど確かに『苗』対策も一層の飛躍を見せてくれるかもしれない。


 それはとても喜ばしいこと……なのだが。




「…………無理しないでね、ラニ」


「なにを今さら。……ここで踏ん張らなきゃ、ボクが惨めに落ち延びた意味が無い」


「だとしても。…………無理しないで」


「………………はっ。『おまいう』ってやつだよ、ノワ」


「んええ!?」




 少しずつ、しかし着実に、幻想ファンタジーによって浸食されつつある……この世界。


 混沌の手勢を防ぎきれるか、押しきられるか。ここがひとつの分水嶺だと、理解してはいるのだが。




 休む間もなく働かなきゃいけないんだろうけど、命と身体を守るためにも休まなきゃいけない。

 どっちもやらなきゃいけないのが……『正義の魔法使い』一味のつらいところだな!!(つらくない)


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