第405話 【警備強化】こっからおれの領地!
「…………ねぇ、
「……残念ですが……その様ですね」
「あおぉーん……私有地なのに……」
「……昨年、知人も嘆いておりました。……良い頃合の松茸が余所者に拐われた、と」
「うわそれ万死ですやん」
朝の情報収集を終えた後、家事に取りかかった
先日の投稿動画『おにわ部【DIYガレージ編】』でお披露目となった、職人系大天狗メイドガール
その中には……某大手配信者事務所所属の、某大御所男性実在仮想配信者の名前があったりするのだが……まぁ、ある意味予想通りだったのでヨシとしよう。
そんな『おにわ部』名誉顧問の
それは……おれたち以外の『人間』の姿。
幸い先方はまだこちらに気づいていないようだが……
「大人の……男の人が、二人。……山菜採りって格好じゃないですよね」
「……小型の電子機器……カメラと、マイクでしょうか」
「…………アウトドア好きの
「ノワ、ボクはいつでも大丈夫だからね。存分に
「やっぱそうなっちゃいますー?」
あるいは……どこかでおれたちの噂を聞き付けた、報道関係者か。
いや、まあ……そもそも現在、すぐそこの
数週間前の豪雨に紛れて、おれとミルさんで
当然、温泉街の皆さんとしてはこの機を逃す理由は無く、様々なメディアに
……そんな中で、おれたちの住処の噂を仕入れてしまったのだろうか。
『せっかく来たんだし』くらいのノリで、半信半疑でこっちがわの別荘地を探索しに来たのだろう。
まぁ……特に顔とか髪色隠さずに出没してるもんな。噂になってても仕方ない。
実をいうと、わたくし
ただでさえ『実在仮想配信者』騒動の実行犯と目されている上、一日署長のときの記者会見では最低限のことしかお話しできなかったせいもあってか……最近は『直接カメラで撮影させてほしい』という取材(?)の申し込みも度々あったのだ。断ったが。
なので恐らくは、
貸借とはいえ、この土地の権利者はおれだ。……いや厳密には
そこに権利者の許可無く無断で立ち入り、住人を盗撮しようとしているわけなので……つまりこれは立派な不法侵入。ギルティだ。
過剰反応かもしれないが……今回おれたちが企てていること、そして大切な可愛い子ちゃんたちの身の安全を考えれば、断じて見逃すことは出来ない。
「……御屋形様。……
「処分!? いや……えっ? 手前……ら?」
「……ええ。……御嬢様方の安全を脅かす不届き者相手と在らば……正当な理由も付きましょう。『
「「「はっ」」」
「ォワァァ!!?」
「無辜の民に爪牙を向けるは乱暴者の
「いやいやいや待って!?
「御心配無く、御屋形様。彼女等『
「そ、そういう心配してる、の、も……まぁあるんだけど!! 私有地で人死にとかヤバヤバのヤバですので!!」
「…………委細、承知致しました」
「……わかって、くれましたか」
「……ええ、解りました。然れば命を取らぬ程度に、精々痛い目に遭って頂き……追い払うに留めましょう。『行け』」
「「「御意」」」
「本当にわかってくれたんですか!!?」
「御心配無く。彼女達は利口で御座います故」
「本当に信じて良いんですね!?」
まぁ、既に烏天狗ちゃんズは翔んでいってしまったので、おれには信じることしか出来ないわけだけど……おれのエルフアイが固唾を呑んで見つめる先、修験者のような特徴的な和服を纏った彼女達の輪郭が、突如『ぐにゃり』と歪んで霞む。
……かと思えば、次の瞬間姿を現したのは……非常に立派な体躯を誇る、狼のような日本犬の姿。
おれなんかであれば完全に乗れちゃうほどのサイズの巨大わんこが、見通しの悪い山林を一目散に駆けていく。
唸り声を上げながら疾駆する先は当然……われらが
「うわぁーーーー!!?」
「ぎゃぁーーーー!!!」
『ヴォンヴォン』とか『グルルルル』とか『ギャオオオン』とか物騒な唸り声を上げる、三頭の巨大なわんこ。カメラを持った男達の周囲を執拗に駆け回り、ときにスレスレを
命の危機さえ感じさせる巨大わんこの猛攻に、侵入者はたまらず尻餅をついて後ずさろうとする。
そんな男達の背後に、人知れず姿を表したのは……なんというか、『山賊』とか『蛮賊』とかいう表現がよく似合いそうな、薪割り用の手斧を携えた熊のような大男。
あちこちが土で汚れた作業服に、どこか見覚えがある気がするツールバッグを腰に巻き……きっちりきれいに手入れされた手斧を肩に担ぐ大男の目は……ぞっとするほど冷たく、鋭い。
「………………ウチに……何か用か」
「えっ!? あっ、えっ……と」
「……コイツらが、
「い、いえ! そのようなことは……」
「…………じゃあ」
大男が不気味に黙り混み、三頭の巨大わんこが『グルルルル』と喉を鳴らし……
「勝手に入って来ンじゃ無ェ!! 今すぐ出てけェ!!」
「「すみませんでしたァ!!!」」
巨大わんこ達の咆哮に尻を蹴飛ばされ、転がるように逃げていく二人の記者。
なるほどここまで脅されれば、普通の神経を備えているヒトであれば、もう入ってこようなどとは思わないだろう。
あのおじさんの正体に薄ら寒いものを感じながら……おれとラニと
「……さて……御苦労」
「「「はっ!」」」
「あっ、やっぱ
「……えぇ。お騒がせ致しました」
熊のようなおじさんの輪郭が『ぐにゃり』と歪み、そこにはいつも通りのメイド衣装を身に纏い、ゴツいツールバッグを腰に巻き、どう考えてもそのバッグには収まらなさそうな手斧を携えた
その背後にはどこか得意気に控える、一本歯の下駄を履いた狩衣姿の少女が三人。
おれのお願いした通り、人死にや大怪我を出さず穏便に……しかしそれでいて二度と立ち入る気が沸かぬであろう程徹底的に脅して見せた、仕事人に。
「け…………結構な、お手前で……」
「……恐縮で御座います」
この『
――――――――――――――――――――
「ところで
「…………えぇ。……先程申しました、松茸を拐われた知人に御座います」
「あー…………なるほど。てっきり名の知れた武人のたぐいかと……」
「……いえ、只の地主に御座いますれば。……ただ、件の事件に際し垣間見た憤怒の感情が……少々」
「少々」
「……えぇ、少々……ヒトを脅すには過ぎたものかとも思いましたが」
「脅すには過ぎたもの」
「……説得には、ある意味有用かと」
「説得」
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