第404話 【特定害獣】勝手なことを言う



『――――さて続きましては、こちらの話題。日に日に目撃証言が増えております。今となっては都市伝説とも言えなくなって来てしまいました『ブラックゾンビ』騒動に関する話題です。岡谷さんお願いします』


『はい。……えー、ここ最近世間を騒がせている、こちらの……画像出ますか? ハイ出ましたね、こちら。……一見すると黒い人影のようにも見えますが、もちろん人ではございません。警視庁都市保安部より布告されました通達によりますと、人々の生活に悪影響を与える『特定害獣』と呼称されています』


『『特定害獣』ねぇ……』


『……はい。以前から都市伝説として度々話題に上がっていたようなのですが、ここ一月ひとつき程でその目撃証言が急増、ご覧のように写真や……こちら、動画等にこうして残される程にまで、身近な脅威となってしまいました』


『これはアレですか坂江さん、ぶっちゃけ危険なものなんですか? だとするとこんなモノを野放しにしてる警察は何をやってんだ、って話になると僕ぁ思うんですけどね?』


『…………えぇー……こちら、『特定害獣』……あるいは仰られたように『ブラックゾンビ』とも呼ばれている存在ですが……結論から申しますとですね、まだ全容は解明できていない……というお答えになりますね』


『やっぱ警察はっっそいですね! 行動が遅い! こんなの……前代未聞の事態じゃないですか! もっと国民の皆様のためになる情報をね、しっかりと出して頂かないと。我々日本国民としても我慢の限界ですよ!』


『えー、警視庁都市保安部から布告された文書によりますと、これら『特定害獣』……世間では『ブラックゾンビ』と呼ばれてますけども、万が一こちらと遭遇した際にはですね、決して近づかず距離を離して、警察に通報して欲しいとのことです』


『それは危ないってことですか? じゃあ警察はブラックゾンビの危険性を認識してるってことですか?』


『…………えー、今回の通達はどちらかというと、『安全のため』という側面が強いかとは思いますが……』


『でもこの段階になっても『気を付けてね~』以外の通達というかですよ、動きが無いわけじゃないですか。警察としては。ブラックゾンビが出る、通報してもらう、そしてそこでやっっと駆除に出向くわけでしょう? それが危険だっていうなら、遭遇しなくて済むようなね、抜本的な対策を講じていただかないと! そのために我々税金をお支払してるわけですから!』






「…………ねぇノワ」


「攻撃は許可しませんー」


「むがーーーー!!」


「はわわわわうわうわう」




 最近リビングらしくなってきたリビングのソファで、おれは朝ごはんをいただきながらテレビのニュースを耳に入れながら怪しげな週刊誌に目を通す、という離れわざ(※単にお行儀悪いだけです)で情報収集を行っていく。

 そこでは……『正義の魔法使い』であるおれにとっては非常に身に覚えのある光景が、ワイドショーの名のもとに繰り広げられていた。


 これまで魔法や神様などといった『神秘』と距離を置いていた現代日本に、どの程度まで情報を開示し……『常識』を書き換えていくべきか。

 その非常に難しい采配を取ろうとしているの方々を一切鑑みることなく、好き勝手な憶測と責任追求を捲し立てて『正義』に酔っている(つもりの)コメンテーター……その様子にかつて無いこと無いことボロックソに言われたことを思い出したのだろう、『正義の魔法使い』の相棒は非常にである。



 ぷんぷんのラニちゃんは一旦なだめておれの指をしゃぶらせることで落ち着かせるとして……問題なのは、ワイドショーでも話題となっていた『ブラックゾンビ』くんたちのことだ。

 彼らは基本的に、専用装備の支給を得たおまわりさんが対処することになっている。ということはつまり、隠蔽魔法など無い状況下での対応となるわけで……まぁ、こうして明らかに人々の目に付くようになったことで、我々の生活にも少しずつ変化が出始めていた。



 まず、正否問わず『ブラックゾンビ』関連の記事がものすごく増えた。

 もちろんその中には正しい情報を(ちょっとだけ)含んでいる記事も見受けられるが、なにせ根幹の情報はまだ公開されていないのだ。


 ほとんどは記者や出版社の想像あるいは要望であることが多く、強いて言えば『どんな行動パターンか』『万一遭遇したらどう行動すればいいのか』あたりの情報は有用……といった程度だろう。



 それに加えて……まぁ『さもありなん』といった感じなのだが、ごく一部の怖いもの知らずな人々が『肝試し』に興じるケースも増えてきたらしい。……っと、これは春日井さんからの情報だ。

 人々にとって『特定害獣ブラックゾンビ』の印象は『見た目はおどろおどろしいが動きは緩慢な謎の生物』といったところだろう。そのためおまわりさんの制止の及ばぬところで、あるいはおまわりさんが駆けつける前に、『ブラックゾンビに立ち向かった!』と……まぁ、自分の蛮勇をアピールしたい人が一定数いるらしい。


 ……ほかでもない、おれたちの活動拠点である配信サービスYouScreenにおいても、そういった蛮勇動画を投稿している配信者キャスターが少なからず見受けられる。

 『【特定害獣】ブラックゾンビに喧嘩売ったったwww【なんやソレ】』みたいなやつな。……おれじゃないぞ。



 そして何よりも……少しずつではあるが、都市部から出歩く人の姿が減ってきているらしい。


 そもそも『葉』は、まず見た目からしてアレだ。赤黒い蔦のような根のような葉のような植物繊維の集合体であり、細長いうねうねが纏まっているその様子は……なんというか、非常に名状しがたい。本能的な嫌悪感さえ感じさせる。

 オマケに――と言えるほど気安いものでもないのだが――あいつらの行動は『人々に負の感情を抱かせる』ためのものであり……まぁ要するに、人を『恐怖』や『絶望』に晒すことに対して何の躊躇もないのだ。

 その一環として……考えたくはないが『負傷』させることだって、あり得ない話じゃない。このあたりの危険性に関しては、警察からアナウンスも出されている。


 見た目キモくて、キショくて、とどめとばかりに危険な生物。

 賢明で一般的な思考を備える人は、ソレとの遭遇を可能な限り避けようとするだろう。





『――――目撃されているのは、現段階では『東京都』および『愛智県』の一都一県ですが、しかし今後出現が拡散する可能性もありますので、近隣県の方々も他人事とはいえません。万が一遭遇した場合は決して刺激せず、速やかに最寄りの警察署、もしくは専用通報窓口へと連絡をお願いします』


『これはアレですか、中村さん。都市部に出るってことは、僕らにとっては完全に普段の生活行動範囲なわけでしょ? なるべく外出控えた方が良いんですかね?』


『そうですね。安全第一という観点では、もちろん外出しないに越したことは無いのでしょうが……かといっても出勤や通学、日用品の買い物等もありますので、なるべく一人で行動しないよう心掛けて頂くですとか……』


『いっつもこうして影響を受けるのは我々一般人なんですよね。全くもって腹立たしい。僕たちの生活に不便が出たら当然国は補償か何かしてくれるんでしょうかね?』


『そもそも『特定害獣』に関しては、出現のメカニズムは全くもって不明です。責任の所在が明らかにされていない以上、補償というのもなかなか難しいのではないかと……』


『ぇえーー!? じゃあ被害が出る前に何とかしてもらわないと。それこそ目には目をじゃないですけど、例の『魔法使い』さんにキチッと働いてもらうとかどうですかね? ワケわかんないもん同士、都合いいんじゃないですか?』




「おめーの命令で動くつもりぇから!!」


「そうだそうだ! ボクのノワを何だと思ってるんだ!!」


「ばーかはーげ! まじふざけんな! 舌に口内炎できろ!」


「そーだそーだバーカバーカ! パンツの尻破けちまえ!」


「お、おふたりとも! どうどう、でございます……!」




 ……いかんなぁ、どうにもイライラしてしまう。


 霧衣きりえちゃんの淹れてくれた食後のお茶をすすり、お膝に乗っかり心配そうに見上げてくるなつめにゃんを撫でながら後頭部を吸い、心を落ち着かせる。

 情報を仕入れるのが目的であれば、無理にテレビにこだわる必要もないのだろう。リモコンのボタンを押して電源を切り、(なつめにゃんを横に退けて)食器を片付けに立ち上がる。



 嫌なことは一旦置いておいて、とりあえず気にしないようにしておこう。あのへんのイライラの原因はおれじゃなく、フツノさまや名護谷河なごやがわ署長さんやらお偉い方々に丸投げすればいい。

 おれたちは今まで通り、配信者キャスター業務の傍ら要請に応じて駆除のお手伝いをしていれば……とりあえずは、それでいいらしい。



 おれたちは……いつもどおり、有意義な一日を過ごしていればいいのだ。

 今日も一日、がんばるぞう。


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