第403話 【特殊試料】天然由来の安心素材
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対特定害獣用トップコート剤
【ゴカゴアールEX】原液 取扱説明
■ 製品概要
弊社独自設備にて抽出した、完全植物由来の次世代コーティング素材です。
昨今頻発する特定害獣に対し、高い忌避・分解効果を発揮します。
■ 特徴
一.希釈し既存装備品に塗布することで、手軽に特定害獣対応装備へと生まれ変わらせることができます。
二.コート完了後は固着化保護層を形成し、適用装備へのダメージを軽減させ、大切な装備を長持ちさせます。
三.製造過程で生じる廃棄物は百パーセントリサイクルを達成し、豊かな自然環境に対する負荷の低減に貢献します。
四.保護層形成後は、特定害獣の体組織に対する高い抗化反応を発揮し、攻撃および防御能力を高めます。
■ 用途
警棒、ナイフ、マチェット、さすまた、防盾、保護服、ヘルメット、ブーツ、ゴーグル、ボディアーマー、手袋……等
■ 使用手順
一.塗布物表面の汚れを取り除きます。
二.『ゴカゴアールEX』一に対し、塗布物に対応する希釈剤『カタイノヌール』もしくは『ヌノニヌール』五倍量を静かに注ぎ入れ、気泡が混入しないよう留意しながらよく撹拌します。
三.混合液が無色透明になったら、刷毛やローラー等で塗布物表面へと塗布していきます。塗布物によっては重ね塗りを行うことで、より強固な保護層を形成できます。
四.風通しの良い冷暗所にて、二十四時間以上乾燥・固着化させます。
■ 注意事項
製品には万全を期しておりますが、保護層形成後の装備品を使用する上で皮膚に炎症・湿疹・痺れ等の症状が見られた際には、直ちに当該装備の使用を中止して下さい。
本製品は百パーセント植物由来ではありますが、成分を極めて高濃度に濃縮抽出してあります。必ず薄めて使用して下さい。また人体への影響を鑑み、絶対に服用しないで下さい。
本製品の原材料である『レウケポプラ』は未だ研究途上の植物素材であるため、更なる研究の進展に伴い用法は随時更新されていく可能性があります。常に最新の取扱説明を参照するよう徹底して下さい。
■ 製造元・連絡先
ヒノモト建設株式会社 化学技術部
担当【襟州】【三野須】(内線:〇一三)
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「この…………レウケポプラ? っていうのが原材料らしいけど……」
「…………聞いたことある? ノワ」
「いや……おれそんな植物詳しくないし……」
春日井さんから借り受けた、くだんの特殊試料こと含光精油……こと『ゴカゴアールEX』の試料に目を通す。……いや、なんやねん『ご加護あーる』って。ネーミングセンスよ。
とにかくこの『レウケポプラ』とかいう原材料が、良くも悪くもすべての鍵を握っているようだ。
……まぁ尤も、この資料が全て正しいのだとすれば、なのだが。
「んー、ちょっと
「新しく発見された植物、って言ってたっけ。発見されて久しくないなら、まだネット上に情報無いのも頷けるけど……」
奇しくも、『苗』や『葉』による被害が増えた直後に発見・実用化されたという、極めて有効な素材。
このあまりにも出来すぎたタイミングには……正直、何者かの意思を感じずには居られない。
相棒が懸念しているのは……つまり。
「…………あの『魔王』の
「そう考えるのが妥当だとは思うんだけど……じゃあなんで敵に潮を掛けるような真似してるのか、って疑問が出てくるんだよね」
「…………塩を送る、ね。掛けちゃダメだよ」
「そうだね。だめだね」
一方では、『苗』や『葉』をばら蒔いて人々の不安を掻き立てておきながら。
もう一方では、それら不安の根元に対する特効薬を振る舞って見せる。
一見相反するその行動、この仮説が事実ならば見事なマッチポンプと言わざるを得ないのだが……そうなれば当然、今度は『じゃあなんでそんなことをするのか』という疑問が生まれてしまう。
『葉』に対処するための『含光精油』を、わざわざ敵対勢力に振る舞う理由とは、いったい何なのか。順当に考えれば、ラニの言ったように『遅効性の毒物である』という仮説が説得力ありそうなのだが……しかし仮に『毒』だとするならば、装備品に塗らせるよりも手っ取り早い方法がある。
わざわざ『原液の直飲みは厳禁』なんて記載しなくとも……むしろ『飲め』と書いた方が、効率的に摂取させることが出来るだろうに。
つまりは……この『含光精油』の目的は、やはり人間を害するものでは無いのだろうか。
『魔王』の目的はまた別のところで、この『精油』の生産はあくまで副次的なものなのだろうか。
「……そう考えると、やっぱ『毒』じゃない?」
「うーん……精油そのものは毒じゃないのかも。しかしそうなるといよいよもって……」
「何のためにバラ撒いてるのか、ってなるよねぇ……っていうか今さらだけど、例の『レウケポプラ』が『魔王』の仕業だ……って所は、ほぼ確定?」
「だと思うよ。……だって、ノワも知ってるだろ? この世界に、こんな高濃度の魔力を蓄えた植物なんて……いや植物に限らず動物や鉱物だって、これまで存在してなかったんだから」
「いやえっと……正直そこまで気合入れて探してたわけじゃないので……見落としとかあったかも、みたいな……」
「しかしだねノワソン君。事実、ボクが今こうして【魔力探知】を行ったところで、このオウチ以外に魔力の存在なんてある……はず…………が…………」
「…………??? ……え、ちょ、まままま待って、待って。……まさか? ねぇ……まって、あったの!? 魔力反応……」
「…………地下? 地中? すぐ近く……埋まってる? ……オウチの、玄関の前の…………すぐそこの、地下」
「玄関前……地下………………あぁー……」
「えっ? ちょ、な、なに? その顔は……」
おれは体と顔と耳に熱量が集中するのを自覚しながら、席を立ってラニを手招きする。
階段を降りて一階へ、目指す先は地中に魔力反応があったという玄関先……ではなく、広々とした洗い場を備えた
可愛らしく小首をかしげるラニちゃんに、どうやって説明すべきかと頭を悩ませるが……残念ながらおれは気の利いた言い回しなんて思い浮かばない。
直球で言うしか……ない。
「……もしかして、なんだけど」
「??? ……う、うん」
「その……魔力反応の、残滓? みたいなのって…………感じたりする? ここで」
「…………!! え? うそ、あっ……ホントだ! 微かに……床の…………排水溝?」
「あぁー………………」
「え、ちょっ、な、何? なんなの??」
『魔王』一味が敵に塩を送る理由に関しては、結局解らず
例の『含光精油』に……そして『レウケポプラ』に頼らなくて済む、この世界で採取できる新たな魔力素材に関しては……まぁ使うかどうかは置いておいて、思わぬところで光明を見出だし(てしまっ)たかもしれない。
……願わくば、この『精油』が本気で無害なものであってほしいと。おれたちが材料として使っても問題の無い素材だと。
おれは……そう願わずには居られなかった。
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