第401話 【暴雨一過】あの夢を諦めないで
おれとミルさんの余計なお節介に端を発する
ようやくついに、
大雨の後などに、一時的に水音を轟かせることはあれども……それは決して何日も続くようなものではない。そのはずだった。
「喜ぶがいい家主殿よ。麓ではそこそこ騒ぎになっておったぞ」
「あっ、おかえり
「先輩が復活させたっていう滝っすか? そいえばオレまだ見てないんすけど」
「おれだって大雨ん中だったもんよ! 明るい中では見てないし…………見に行ってみる? せっかくだし」
「おぉ良いっすね! 白谷さんも、気分転換に外出てみましょうよ。オレの経験則っすけど、スランプのときは気晴らしも必要っすよ。ずーっとウンウン悩んでても良い案出ないっすよ?」
「うーん……うーん……」
「…………おまた見えそア痛ァ!?」
空中にふわふわ浮かびながらぐるんぐるん縦回転しているラニちゃんは、その服とはとても呼べぬ衣装の隙間から大事なところがチラチラしちゃいがちなのだが……しかし本人はそんなことなど頓着せず、相も変わらずうんうんぐるぐる回っている。
そんな純真無垢な(外見の)妖精さんをエッチな目で見ようとしたモリアキにはエルフ肘鉄を叩き込みつつ……しかしおれもラニちゃんのうんうんぐるぐるに関しては少々心配していたのだ。
「……ねぇ、ラニ?」
「うーん……うーん……」
「ラニー? ラニちゃーん?」
「うんうーん……」
「…………パンツ見る?」
「えっマジで。見るめっちゃ見る」
「おいこのドスケベ妖精」
「えっへへへェー」
耳ざといラニちゃんはやっと縦回転を止め、好色そうな表情を隠そうともせず、今度はくねくねと身をよじらせ始めた。
現金というかなんというか……まぁ、お話できるようになったから良いとしよう。
「おしじゃあみんな、準備良い?」
「「はぁーい!」」「わうぅ!?」「むぅ?」
「『はぁーい』じゃないんだよモリアキおまえ!! 早よ
「ホエェ!? やっぱダメっすか!?」
……と、いうわけで。
お洗濯を片付けてくれた
お天気は快晴とまではいかないが、雲率は五割くらいだろうか。雨上がりの湿度はまだ残っているが、陽射しもしっかり覗いているので意外と心地良い。
この天候ならば……スランプ気味らしいラニちゃんも、いい気分転換になるんじゃなかろうか。
別荘地を出て、スマートインターの下を潜って、岩波川に掛かる風情ある橋を渡って……到着しました
おれの気のせいではないとは思うのだが……なんというかやっぱり『人々が動いてる気配』のようなものを感じる。
川縁に設けられた散歩道をのんびりと歩きながら、おれは聴覚を研ぎ澄まして温泉街の人々の様子を窺ってみる。
するとやっぱりというか、
まぁそれも当然のことだろう。
なにしろ……温泉街の散歩道からは、そして温泉街からは、当然のように見えるのだ。
岩波川の向こう側、ごつごつと切り立った崖を、威勢の良い水音を奏でながら勢いよく流れ落ちる……迫力ある
「……あっ、小井戸支配人! こんにちは!」
「これはこれは。こんにちは、若芽さん。皆さんも」
「こんちわっす、支配人。……近いうちに、また風呂お借りしに行きますよ」
「えぇ…………えぇ、是非。当館の露天風呂からなら、バッチリ見えますよ」
「んふふふふ、楽しみです。……どうせなら、一回泊まりで考えてみてもいいかもしれないですね」
「おっ、お泊まりであるか、家主殿よ」
「お泊まりでございますか! 若芽さま!」
「…………近くの住人用おトクプランとかありますか?」
「若芽さんのお願いとあらば、ご用意しましょうか」
「「「おおおお!!」」」
見るからに上機嫌な小井戸さん……おれたちがよく立ち寄り湯を利用させて貰っている温泉旅館『落水荘』の支配人だ。
どうやら、
「滝…………流れてますね」
「……そうですね。雨が上がっても水音が衰えないのは……一体いつ振りでしょうか」
「あの豪雨で川の流れが変わった、とかでしょうか?」
「そうかもしれませんね。……ここ数日で、かなり降りましたし」
「……変わりますか?」
「…………ええ。変えますとも」
ふと周りを見ると……おれが何度か行ったことがある喫茶店のマスターや、
皆さんの顔を軽く見た限りでは……やっぱり、大なり小なり『歓喜』の感情が見え隠れしているようだ。
以前おれが小井戸支配人に聞かせてもらった話では……この
果たして本当に滝が蘇ったのであれば――もちろん様々な工夫や努力は必要だろうが――ゆくゆくは以前のように復活させていくことも、不可能ではないのかもしれない。
「……何にせよ、本当に流れが変わっているのか……また滝が枯れる心配は本当に無いのか、そこを確認してからになりそうです」
「そこの確認、って……ヘリとかっすか?」
「いえ、測量ドローンで仕事をしている知人が居りますので、そこへ頼もうかと」
「ほへぇ……ハイテクっすね」
今後この温泉街がどうなっていくのか、どう盛り上げていくのか。ここから先、おれは見ていることしか出来ないが。
温泉を楽しませて頂いているいち消費者として、またひとりのファンとして。
ぜひとも、良い方向へと進んでいってほしいものだ。
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