第400話 【天候不順】豪雨の中で輝いて
「
「無茶なことしようとしてるって自覚は、まぁ正直あるんですけど……でも、このままにはしたくないなって思いまして……色々と恩もありますし……」
「
「はい。大雨の日を見計らって……ミルさんの力を借りて」
「真白の童か……成程な。良いだろ、遣って見せよ。尻拭いは
「はいっ!」「えっ……」
――――――――――――――――――――
……なんていうひと幕が、少し前にありまして。
本日はそんな
最近の地球温暖化だか異常気象だかおれにはよくわかんないけど、とにかく今年は梅雨前線が非常に発達しているらしく、現在日本列島はその影響をもろに受けていて、そしてそれは当然おれたちが居を据えた岩波市においても同様なわけで。
今日現在こちら……滝の音が消えて久しい別荘地『
「この雨ですが……いけますか? ミルさん」
「はっはっは。勿論ですとも若芽さん」
降り続く叩きつけるような雨で、昼間だというのに薄暗く劣悪な視界の中……おれたち二つの人影は一塊になって、
元々人目の少ない滝の跡地、かつ曇天とどめに豪雨。加えておまけに【隠蔽】魔法も発動しているとあれば……まぁ普通に考えてバレることは無いわな。
ミルさんの【水魔法】によって流水膜の防壁を作り、豪雨をものともせずに進んでいき……やがてたどり着いたのは、どこまでも続いている(ように見える)コンクリートの巨大な壁。
物流と交通の大動脈、第二東越基幹高速だ。
「えーっと……地下水道みたいなのって、ミルさん視えます?」
「ちょっと待ってくださいね。今ぼく背中に感じる柔らかな感触と体温でココロがいっぱいで」
「落としますよ?」
「冗談です。視えました。……あー、新東越の工事で流れ変えられちゃった感じですね」
「そうなんですよ。……見た感じ、単にもとの流れに戻す工事をやってないだけに見えるんですよね」
「あぁ、なるほど。地下の水道からまたコッチに戻してあげれば良いんですね?」
「そうです。地面削るのはわたしがやるので、ミルさんには水流の矯正をお願いしたいんですけど……」
「わかりました。やってみましょうか」
「ありがとうございます!」
地下水道の終点から明後日の方向へと流れていってしまう水流を、もとの誉滝の方向へと導き、川を矯正する。
それこそが今回おれが画策している『思い切ったコト』であり……勝手に恩義を感じている
大雨の後なんかに『ちょろちょろ』と滝が復活していることもある、という情報は得ているので……もしこの豪雨の後に誉滝が復活していたとしても、『きっとあの大雨のせいだな!』となってくれるに違いない。
万が一不慮の事態が生じた際には……そのときは、われらがリョウエイおにいさんがなんとかしてくれる(らしい)。
……というわけで全ての懸念は払拭されたので、いよいよ作戦開始だ。気合を入れて臨もうと思う。
「おれこの戦いが終わったら
「なんですかソレ羨ましい! ぼくにもおこぼれ下さいよ!」
「じゃあ……わたしの『いいこいいこ』でどうですか?」
「絶対に成功させましょう」
ミルさんの気合いも十分なので、まずはおれから行動開始だ。
現在の地下水道出口、あさっての方向へと水を吐き出し続けている場所を始点として、終点は誉滝跡へと続く川の跡のどこかへと繋げばいい。幸いというかこの豪雨で幾らか水流が生じているので、川のラインとしては判りやすい。
しかし、ただ闇雲に繋ぐだけでは色々とマズい。
いうなれば新しく川を作ろうとしているようなモノであって、つまりは現在川ではない部分を川にしようとしているわけだな。
ただでさえ山の斜面であり、水平な地面とは色々と勝手が異なる。第二東越基幹高速のように鉄筋コンクリートでガッチリ固めてしまえれば、たとえば用水路のように真っ直ぐでも大丈夫なのだろうけど……自然の川は水流の影響により、えてして『ぐねぐね』と曲がりくねるものだ。
今日みたいな大雨のときに氾濫してしまえば、簡単に流れが変わってしまう(かわだけに)。なので新しい川の道筋を作るにしても、簡単に氾濫しないように角度等を意識しておかなければならないわけだ。
「【
「おぉーーーー」
ミルさんが歓声と共に見下ろす先、地面が『ゴリゴリ』と音を立てながら変形していく。
木々の根を(可能な限り)避け、しかし低木や下草を盛大に巻き込み、幅三メートルから五メートル前後のそこそこ深い溝が、ぐねぐねと形成されていく。
その溝の到達する先はもちろん、かつて誉滝へと注ぐ流れを作っていた川の跡地。
思っていたよりも下流に繋げる形になってしまったが……まぁ、滝には注がれるだろうし『よし』としよう。
「それじゃ先生。お願いします」
「うむ。任されよう」
ミルさんの【水魔法】が地下水路を流れる流水を捉え、その流れを無理矢理に変えていく。
おれが今しがた掘り、固め、形成した『川・予定地』へと、際限なく流れてくる流水をそのまま注いでいく。
それなりに余裕を持たせて掘削したお陰か、水を流し入れても決壊や氾濫する兆候は見られない。
最初こそミルさんに引き入れられた水流だったが……やがてミルさんの制御を外れても、新しく引いた川は順調に流れていった。
そして……その行き着く先は、今は雨水が弱々しく流れ込んでいるだけの、
おれたちによって導かれた水流が、ついに誉滝へと到達し……久しく音を喪っていた滝は久方ぶりに勢いを増し、元気よく流れ落ちていった。
「どうですかミルさん、危なっかしい箇所とかあります?」
「今のところ大丈夫そうですね。実際もう全部ぶっ込んで流しちゃってるんですけど」
「えっ!?」
「流しちゃってるんですよ。この豪雨の水量を。……まぁ、数日後にもう一度……いや何回かは様子見た方がいいとは思いますけど」
「大丈夫そう……ですか?」
「そうですね。少なくとも、しばらくは」
「……………おぉー!」
残念ながら、というべきか……梅雨前線の停滞に伴い、この豪雨はしばらくの間続くようで。
麓の人々がこの滝の『異常』に気付くのは、もう少し先のことになりそうだが。
「雨やんだら、ミルさんも温泉行きましょう。滝の音聞きながらの露天風呂……きっとなかなか風流ですよ」
「なんですか混浴ですか? もしかしてぼく誘われちゃってます?」
「にゅや!? ち、ちちっ、ちっ……違いますですので!!?」
「ざんねん。……いつでも誘ってくださいね?」
「ヒュっ」
ま、まぁ……混浴は置いといて。
おれたちのこの勝手なお節介が、温泉街を少しでも元気付けてくれると信じて、今日のところはおうちに帰ろう。
元気を取り戻した滝音谷温泉街……単純に、とても楽しみだ。
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