第388話 【歌唱共演】さいごの仕掛け
まぁまぁまぁ……最初こそあんなに『そんな歌わないでいいです、聞きたいだけです』みたいな顔してる子だってね。
長丁場でまわりのみんながノリノリで歌っていればね、段々とノって来るってもんですよ。
十八時に幕を開け、一対一から始まった今回のカラオケコラボだったが……途中で人数が増え、しばらくしてまた増え、スイーツの注文と共にまた増え……最終的には七人での長時間カラオケコラボと化したわけだ。
カラオケなんていうものは、基本的に参加人数が増えれば増えるほど、一人あたりの負担は少なくなる。例えば今回のような七人カラオケの場合、自分以外の六名が歌っている間は丸々休憩時間と化すわけだな。
というわけで、たとえ長丁場で予定が組まれていたとはいえ……七人で疲労を分担することができたこともあり、体力的な負担は思っていたよりも少なかったわけだ。
そのため……おれも含めた七人が七人とも、今回のカラオケを純粋に楽しんでいたわけだが。
「……うげ、もうこんな時間か……」
「えーやだー! わちもっと歌いたいー!」
さまざまな魔法を修めた叡智のエルフとて、さすがに時の流れを止めることはできない。
参加者全員が楽しみ、また視聴者さんたちも(最推しが出ない、という点を除き)存分に楽しんでくれていた、およそ六時間にも及ぶ『おうたの集い』は……惜しまれつつもエンディングへと向かおうとしていた。
タイミング的には、今をおいて他には無いだろう。
時計の針も
「あっ……じゃあ、ティーさま。せっかくですのでハモるやつ歌いませんか? マクベスFの『オリオン』とかどうです?」
「うたう! わかめちゃんとデュエットする!」
「ありがとうございます! じゃあわたし予約するので、お立ち台にお願いします」
「はぁーい!」
作戦第一段階。既にまったりムードの室内の注意を引き付け、動きを止める。
自分で言うのもアレだが……神秘的で可愛らしいエルフのデュエットともなれば、視聴者さんたちだけではなくこのお部屋の中の注目も引き付けられることだろう。
なので……そうして、おれたちが場を維持している間が勝負となる。
作戦第二段階。貴重な男手であるハデスさまを抱き込み、作戦の要となる品の搬入を行う。
前もって『終了直前のタイミングで手伝っていただきたいことがある』とはお願いしておいたので、作戦開始の合図を下す。
配信のカメラが切り替わり、マイクを握るエルフ二人が配信の画面に載り、同時にそれ以外の方々はカメラから一旦外れる形となり……つまりは、こっそり退室していても視聴者さんには気づかれない。
作戦第三段階。予約した曲の伴奏が流れ始め、いよいよもってその他の音を塗り潰していく。
現在おれはティーさまと一緒にデュエットの真っ最中なのだが……こっそり協力を取り付けておいたハデスさまは、今ごろ廊下にてモリアキおよびラニちゃんと合流しているはずだ。
そして……勝負どころの第四段階。
合流したラニの【静寂】魔法により、ドアの開閉音および搬入に伴う騒音をゼロにしながら、ハデスさまとモリアキは二人掛かりで『例のブツ』搬入を行い、テキパキとケースを外してしまう。
なおこのとき、ラニちゃんはティーさまとくろさんのお二人には【認識撹乱】系の魔法を掛けてくれていたらしく、
こうして、おれが自身に注意を引き付けながら、その裏でこそこそ根回しして進めて(もらって)いた準備こそ……まぁ、もうおわかりですね。
丹念に心を込めて(魔法併用で)修理した、初お披露目となるグランドハープちゃんでございます。
「…………はふー……わかめちゃんすごいよぉ、わちすっごい気持ちよかっ…………ひゃえー!?」
「はい! おつかれさまでしたティーさま!」
「わ、わっ、わっ、わかめちゃ、いつのまに、あの、」
「わたしも! とーっても気持ちよかったです! 光栄です! 本当にありがとうございます!」
「えっと、えーっと……う、うん……それでね、そのハ」
「そろそろお時間もお時間ですし! 最後はせっかくなのでくろさんと! そしてわたしが! 僭越ながら務めさせていただきたいのですが!」
「う、うん…………わちは……よいと思う」
「ありがとうございます!!!」
『にじキャラ』
そして……同・配信スタッフの方々も、さすがというか有能な方が揃っておられる。おれが事前に頼んでおいた『お願い』をバッチリ実行に移してくれたようだ。
「えーーっと…………じ、じゃあ……最後のトリは、やっぱクロとのわっちゃん、ってことで……ええんやな?」
「えぇーーっとぉ、わかめちゃんがすごいことやろうとしてる気がすんだけど……おれら期待しちゃっていい感じ?」
「ふっふっふ……まーかせてください! わたしとクロさんの……真の『おうたコラボ』をお送りさせていただきます!」
一旦カメラがソファ席に移り、男手であるハデスさまを除いた女子六名が、心なしか『そわそわ』しながら場を繋いでいる間……モリアキとハデスさまの手で『えっさ』『ほいさ』とグランドハープが設置され、すぐさま大道具係さんは撤退。これですべての準備が整った。
……というわけで、いよいよだ。
僭越ながら、おれが演奏を勤めさせていただき……今や実在の歌姫と化した
お送りする曲は……その出自こそ
類稀なる歌唱力を誇るくろさんのことだ。原曲の雰囲気を損なうことなく、すっきりしっとりと歌い上げてくれることだろう。
歌・
さあさ皆様、ご拝聴。
「では、準備ができたようなので……いけますか? くろさん」
「ん。まかしときー。ところで」
「は、い? …………えーっと? ……ど、どうしました?」
「…………んんー?」
「??????」
ステージに立ってマイクを握り、カメラの前に姿を表した『歌姫』くろさん。可愛らしく小首をかしげ、何やら考え込んでいる模様。かわいい。
その整ったお顔を、椅子に腰掛けてハープを構えるおれに『ずいっ』と近づけ……えっと、なんだか甘酸っぱいフルーツのようなミルクのようなバニラのような……なんだかとってもいいにおいがしますね。……あっ、イチゴパフェの香りですね。かわいい。
「…………かめちゃん」
「はいなんでしょうくろさん」
「………………それ、ハープ?」
「…………そう、ですよ?」
「わあすごい。えっ、いつのまに出したん? やっぱ魔法使い?」
「えー……っと…………さっきティーさまと『オリオン』歌い終わったときに……ハデスさまに……」
「ほーん? まぁええか」
((((((ええんかい!!))))))
……まぁ、肩透かしを食らったというか、出鼻をくじかれたというか。こんなにデカい楽器が、いきなり現れたように思えるだろうに……相変わらずのんびりとしておられる。
くろさんがこの様子なら、問題ないだろう。ちょっと
それでは、大トリとなる一曲。
わたくし木乃若芽……つつしんで演奏させていただきます!
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