第386話 【歌唱共演】(頭数)いっぱい出たね
ところで、今回の『おうたコラボ』だが……メイン会場はくろさんのチャンネルである『仮想温泉旅館くろま』にて執り行われているのだが、一方わたしのチャンネルでも『サブチャンネル』という形で配信許可は頂いている。
がっつり『にじキャラ』スタッフさんの手を借りているのに、自前でも配信してしまって良いのか? 言い方は悪いが、利益は『にじキャラ』さんたちの総取りとなるのでは? ……とも思ったのだが、ところがどっこい部外者であるおれも同時配信してオッケーなのだという。
……というのも、今回のコラボはそもそもが軽いノリで立ち上げられたものであり、ここまでガッツリ『にじキャラ』スタッフさんが絡むものになるとは予想外だったのだ。
要するに……今回の件では、『にじキャラ』の運営側が
もちろん、メイン会場は『仮想温泉旅館くろま』である点は変わらない。中央に据えたカメラや卓上固定カメラを臨機応変に切り替え、非常に見ごたえある映像を提供してくれているのは、他ならぬメイン会場の方であろう。
ではでは、サブチャンネルである『のわめでぃあ』の配信画面では、いったいどんな配信が繰り広げられているのか。
おれのおうた(三曲目)の途中だが、そこんところをちょっとご説明させていただこう。
まず、音声について。こちらは『にじキャラ』さんのご厚意により、メインチャンネルで使用されている音声入力ソースをそのまま共有させてもらっている。カラオケ筐体から出力させる伴奏や、マイクから入力されるおれたちの歌声やトークなんかだな。
分配器で出力を分けて、メインチャンネルとおれたちサブチャンネルにそれぞれ提供された音声は、まずはケーブルでわれわれ『のわめでぃあ』待機室へと導かれる。
そこでモリアキとラニの手によって映像と組み合わされ、会場である『おうたの館』さんのインターネット回線を拝借して配信されていくわけだ。
そして気になるその『映像』はというと……はい、毎度お馴染み小型アクションカメラ、ゴップロさんです。
おれはというとその
まぁ……カメラを移動させるときもバッチリ撮影中なので、そのときの映像はぐわんぐわん動いてしまうことだろう。もしかすると酔っちゃう人もいるかもしれないな。おれのかわいさにな。
…………ごめんて。ゆるして。
っとまあそんなこんなで、歌いながらの現実逃避を終えたところで。
……ええ、思った以上に恥ずかしかったです。二度とやらん。
『くっっそかわ』『しあわせ』『【¥1,320】女将、お嬢さんにイチゴパフェを』『脳が融ける』『【¥880】わかめちゃんかわいいが』『【¥1,760】あちらのお嬢さんにベンリアック』『すげーわこの女児』『すごいしか出てこねぇ……』『【¥980】おじさんのソーセージを』『ゲロ甘ソングすっっっき』
おれが一曲歌い終えるとともに、多くのコメントや色つきコメントが流れてきてくれる。文章のコメントだけをピックアップしても、こんなにたくさんのコメントが寄せられているのだ。拍手を表す『88888888』系のコメントも含めると……もう、到底数えきれないくらいだ。
「おぉーすご、かめちゃん人気やなぁ」
「さすがエルフっこじゃね! わちも鼻が高いどす!」
「のわっちゃんへのスパチャこっち投げてどうすんねん。のわめでぃあに投げてやりーや。概要欄とこにのわっちゃんのチャンネルあるから…………あるよな?」
「えーっと…………たぶ、ん? 書いてくれるって言ってたような……あ、ありましたね。ありました」
「あるって! ぅおおぃ視聴者共ォ! のわっちゃん宛はそっちに投げたってや! こっち投げてもクロのおやつに消えるだけやで!」
「おおきに!」
「まぁそうなる前にわちらで使っちゃうけども。わかめちゃんもイチゴパフェ食べるどす? まぁ『食べるどす?』って聞いといてあれじゃけど、もう人数分注文しちゃってあるんどすよね」
「えっ!? アッ…………ご馳走さま……デス」
みなさんの発言の意図するところは……つまり、
また既にこちらへ寄せられている
実際『にじキャラ』さんからは、事前に『フードやドリンクは好きなものを注文して大丈夫』『費用は運営サイドで負担するので、遠慮なく』と告げられているし……くろさんもうにさんもそのことをキチッと把握していたのだろう、遠慮なくスイーツとドリンクを注文したようだ。
まぁ……さすがにベンリアックは注文していないようだが。注文してないよな。するなよ絶対だぞ。
しかしながら……ただ単に飲食をするというだけでも、こと今回の演目においては非常に重要な『魅せ場』となり得る。
フルモーションキャプチャーで動かす3Dモデルとは異なり、実在の飲食物をそのまま撮影・飲食できる点も、この演出手段ならではの大きなセールスポイントであり、そこんところをアピールしていきたいという狙いもあるのだろう。せっかくなのでおれもご相伴にあずかることにした。
……も、もう注文してあるなら仕方ないもんね。ちゃんと食べてあげないとね、もったいないもんね。べっ、べつにイチゴパフェ食べたいってわけじゃないんだけど、せっかく用意してくれるんだもんね。もったいないからだもんね。勘違いしないでよね。
三曲目のゲロ甘ソングを歌い終わったおれは、自前のカメラを回収しつつソファ席へと戻りながら、そんな自己弁護をモニョモニョと準備していたところだ。
するとどうだろう、会場であるこのカラオケブースのドアが『こんこんっ』とノックされ、店員さんとおぼしき黒服を着た男性の影が見える。
もう来たか、早い! ……なんていうセリフが脳裏をよぎったが、そういえば注文自体はおれがゲロ甘ソングを歌っている間に済ませていたようだったし、およそ五分もあればパフェを用意することは可能なの……か?
……まぁ、少なくともこのフロアは他にお客さんもいないようだし、つまりはおれたちのオーダーを最優先で受けてくれたということだと思われるので……細かいところは気にしないようにしよう。
「失礼しまァーす」
「しちゅえいしまーっす」
そんなとりとめのないところに、高速思考で思いを巡らせていたおれの目の前で……ご注文のお品ものを届けるためにブースの扉が開かれ、二人の店員さんがトレンチを携え入室してくる。男性店員さんの影に隠れて、どうやらもう一人いたらしい。
男性店員さんは堂々たる物腰で、
その一方でもう一人の……こちらは小柄な女性店員さん。揺らさないように両手でしっかりとトレンチを保持し、長身の男性店員さんの近くへとヒョコヒョコと進んでいく。彼女が持ってきた五人分のイチゴパフェは男性店員さんの手によって、おれたち五人の前へとそれぞれ届けられる。
…………で。
「いやいやいやいや、俺様ホント
「いーやいやいやいや……おれも一ヶ月ぶりくらいだわぁ。からおけからおけ……忘年会の二次会いって以来かぁ?」
「オイ
「あっ。…………げっへへへ」
ドリンクとパフェを持ってきてくれた店員さんお二方――豪奢な黒服を着た大柄な男性と、ライトブルーとホワイトのフリフリドレスを着た小柄な女性――だったが……さも当然のようにそのままソファ席へと場を移し、和気あいあいと団らんし始め、ニコニコ顔で
……どうやらこの状況に対して疑問を抱いているのは、視聴者さんを除けばおれと
「……………………ど、どういうことなんですか!! あなたたち……さては店員さんじゃありませんね!!?」
「…………フッ。バレてしまっては仕方無い」
「フッフッフ……おれたちの名が知りてぇか? おぢょーちゃん」
「えっ? ……えー…………えーっと……じ、じゃあ……一応、お願いします」
……なるほど…………こうやって自由気ままに動き出す面々が多すぎるから、Ⅳ期の
うにさんもくろさんも、そしてこちらのお二方も……良くも悪くも自己主張の激しい人たちなので、誰か進行役が居てくれないと機能不全を起こしかねない。よく『しねどす』されてる
おれの目の前、ノートPCの業務連絡用メッセンジャーに流れてくる、どこか焦ったような指示に従い……おれは謎の二人組に向けて、おっかなびっくり自己紹介を促す。そうでもしないとこのいろんな意味で
……くろさんもうにさんもティーさまもイチゴパフェでほっぺたおちちゃってるナウなので、ちょっと使い物にならないからね。
「よぉよぉ! 今日も励んでおるかな皆の衆! 俺様こそが混沌の主……『冥王』ハデスである!」
「こんちとー! 戦場に揺れる一輪の花!
今日この日のために、およそ二週間に渡って熟考・練習してきたキメポーズとともに。
実在
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