第385話 【歌唱共演】第四・第五の刺客



「こんばんしっす! 日々成長、日進月歩! 仮想アンリアル……いや、実在? 実在仮想アンリアル? ……えっと……今日のところは『実在出世頭しゅっせがしら配信者キャスター』、三面六臂さんめんろっぴ洟灘濱いなだはま道振ちふりでッッす!」


「ご機嫌よう、わちの可愛い王国民たち……と……仮想温泉旅館くろまの視聴者さん……ほかあちこちからご覧の人の子諸君よ。わちはアイナリエル第一王女、トールア・ティーリットであるよ。よしなにじゃよー」


「いやーティー様……本っ当可愛いですね。いや前から可愛らしかったですけど」


「んふふー! ちふりちゃんもメッシュ似合っておるよー! こんな可愛かいらしいのに元気っこじゃもんなぁー」


「いやいや、ティー様こそ」


「いやいやいや、ちふりちゃんこそ」


「いやいやいやいや」


「いやいやいやいやいや」




 ……はい! というわけで!


 Ⅳ期の洟灘濱いなだはま道振ちふりさん、ならびにⅠ期のトールア・R・ティーリットさまが参戦ログインしました!!


 乱入してきた実在仮想配信者アンリアルキャスターのお二人に『せっかくだから』とデンロクを押し付け、それぞれ一曲ずつおうたを披露してもらう。

 道振ちふりさんのほうは……うん、元気いっぱいで可愛らしかった。格好からして違和感も特になかったのだが……一方のティーさまのほうがね、やばかった。


 いやね、もう……プリンセスですわ、これ。




「いやー……ここまで『ファンタジー』なのを見せつけられるとは……正直思いませんでした。……すごいですね」


「「「いやいやいやいやいや」」」


「わち……わかめちゃんには言われたくないどすー」


「ぇえ!!?」



 ムーンライトな伝説級のアニメソングを、可愛らしくノリノリで歌い終えたティーリットさまは、とても清々しい表情で『ほぅっ』と一息つくと、これまた優雅にソファ席へと腰を降ろす。

 その所作はとても『王女様』然としており、場所が場所カラオケボックスなだけに違和感も物凄かったのだが……しかしその圧倒的な可愛らしさと神々しさで、全ての違和感を捩じ伏せているかのようで。


 まぁ……なんというか、非常にしあわせな空間なのだ。




「おうた配信は何回か聞きましたけど……やっぱ『実物』を目にすると違いますね。ちふりんもティー様もめっちゃ可愛い」


「で、でも……わち、うにちゃんの歌ってるとこ、見れてないどす? ちょっと不公平、っていうか……」


「ですよねティー様! いやいやいやいや……やっぱここはもう一度うにちに歌ってもらわないといかんっすね!」


「は!? え、ちょ…………や! うちは別に、メインの二人を囃し立てて楽しむだけのお気楽ポジションやし!!」


「やーんわたしもっとんにはんのおうた聞きたい~~! んにはんもっと歌って~~!」


「いやいやいや!! 何言うとんねんおうたプロが! 視聴者さんらはあんたらがもっとバチバチ曲いれんの期待しとんねん!」


「で、でも……道振ちふりさんやティーさまも大概ですけど、うにさんめっちゃ大人気ですよ? コメント見ます?」


「なァッ!!? んなアホな!!」


「おぉー? 見して見して見して」



 ふふふ……自分は一曲だけ歌ってきもちよくなって、あとは見学ムードでお茶を濁すだなんて……そんなことはおれも視聴者さんも許しませんことよ。

 うにさんも、そして道振ちふりさんもティーさまも……来たからにはおれたち同様、時間切れまでたのしい『おうた会』にご参加頂こうではありませんか。


 幸いにして視聴者さんも、くろさんとじゃれ合ううにさんの可愛らしさにメロメロのようなので、おれはここぞとばかりに視聴者さんたちへアピールして『もっと歌わせるべきだ』とお客様たちに訴求してみせる。

 おれとくろさんだけではなく……ゲストのみなさんが歌うことの必要性を、多方面からわからせて差し上げる必要があるのだ。


 大丈夫。みんなで歌えば、つらくない。



 そんなおれの作戦が功を奏したのか……数多寄せられる称賛のコメに、うにさんはまんざらでもなさそうな表情を見せ。




「うぅー……じ、じゃあ…………アイス食ったら! うちアイス注文すっから……それ食い終わったら! そしたらうちもがんばるから!」


「あっ、うちもぱふぇ食べたい。イチゴのやつある?」


「わちもパフェたべる! 歌ったらおなかすいたもぅん!」


「『もぅん!』じゃないですよティー様……いやー本当に幼くなっちゃって……」


「……じゃあ……僭越ながらわたしが、時間稼ぎにもう一度歌わせていただきますので……その間に決めちゃっててくださいね」


「「「わぁーーい」」」


「アーかわいいなぁもう!!」


「あははは……ありがとね、わかめちゃん」




 道振ちふりさんに『任せておけ』と笑みを返し……おれはこの場を繋ぐためデンロクを叩き、三曲目となる予約を入れる。

 一方のみなさんはニコニコ笑顔で『どれにするー?』『うちこれがいいー』『私イチゴー』『わちもイチゴにするぅー』などとじゃれ合いながらデンロクを弄り始め……とても微笑ましくスイーツをチョイスしているようだ。女子三人(以上)寄れば姦しい。

 フードやドリンクの注文もタッチパネルで楽々なので、おれが歌い始めても電話やら内線やらで妨げられることはない。注文の際に声を張り上げる必要もないわけだ。べんりだね。




「えーっと……はちばん、木乃若芽きのわかめ。『Sweets☆Ensemble』」


「「「「いぇーーい」」」」



 もはや場が完全におやつの空気になったので、おれはそれっぽい一曲をチョイス。こちら某アニメのキャラソンのひとつなのだが……歌詞のほとんどがスイーツの名前で占められているという、非常に甘ったるい一曲だ。

 とはいえ甘ったるいのはその歌詞だけではなく……声優さんの演技力が光る歌声もまた、非常に甘ったるくて可愛らしい。

 そんなスイートな曲をおれが歌うのには、若干の気恥ずかしさがあったりもしたのだが……完全にスイーツの気分になっているお二人には喜んでもらえそうなので、がんばって可愛らしく歌おうと思う。



 今のおれがどこまで『かわいい』を表現できるのか……そこんところは正直、気にならないわけじゃない。まぁおれはおとこなわけですが!


 よーし、ちょっと本気出すぞ。

 若芽ちゃんのかわいさ……目と耳かっぽじって、存分に味わうがよい!


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