第384話 【歌唱共演】うには仲間を呼んだ



 おれこと木乃若芽ちゃんと玄間くろさん、一対一のガチおうたコラボという経緯で始まった今回の配信だったが……共演相手の手綱を握ることが不可能だと泣き言を上げたおれの不甲斐なさにより、急遽追加人員を投入するかたちとなった。


 いつものように自由気ままな振る舞いを見せるくろさんを制御下に置くため、今配信の舵取りを務めるカガミさんの指示のもと出撃指示が下ったのが、ほかでもない村崎うにさん。

 数多くのスタッズが散りばめられたパンキッシュなフードパーカーと、そこから覗く鮮やかなライトオレンジの髪が可愛らしい……くろさんの同期にしてマブのダチだ。



 ディレクターさんにチャットで援護を要請したあと、おれは指示通り二曲目を歌わせていただき……演奏が終わって一息ついたタイミングでおもむろにドアがノックされ、くろさんの『はいってまーす』の返事をガン無視するかたちで、助っ人うにさんが乱入してきたのだ。


 それをくろさんは心底嬉しそうに受け入れ、これまたてぇてぇ絡みが発生。

 おれと視聴者さんを盛大にしあわせな気持ちにさせてくれるとともに、そのパンクでオシャレなファッションのをしっかりと見せつけてくれる。


 さすがうにさん、色々と弁えてくださっている。見せ方も魅せ方もなかなかサマになっており、ママデザイナーさんこだわりの衣装とデザインをまるで自分のことのように……いや実際自分のことなのか。とても嬉しそうにアピールしてみせる。かわいいが。



「ほらクロ! せっかくのお披露目なんやから……ちゃんとこっちこんね!」


「やぁや、うち恥ずかしいもん」


「『もん』やないねんなぁ!! おン前ほんまえあるお披露目第一号やぞ! そんなわがまま許されると思うなや!?」


「んひゃふゥーー!」




 しかもしかも、うにさんの活躍はそれだけにとどまらない。

 おれの力では畏れ多すぎて実行に移せなかったくろさんの『捕獲』、それをいとも容易く成し遂げ……これまたカメラの前でじっくりとそのお姿を手取り足取り肩取り腰取り、余すところなく晒してくれる。


 鮮やかな帯に乗っかる確かな膨らみと、帯で締められた腰からおしりにかけてのライン、足袋に包まれた爪先や草履、蒼色のマニキュアを塗られた指先に至るまで……後ろから抱きつくようにホールドし、その隅々をカメラへと見せつけてくれる。



 くろさんはくすぐったそうに身をよじるも、しかし振りほどくような真似はせず……いつもの鳴き声を上げながら、同僚になされるがまま。

 おれは眼前で繰り広げられる尊さ溢れる光景に言葉を失い……視聴者さんと一緒に、ただただ歓喜に打ち震えていた。


 うにくろてぇてぇ。




 ……とまぁ、そんなこんなで。

 非常にありがたくも乱入してきてくれたうにさんだが、『せっかくやし』ということで一曲披露してくれることになった。


 ロリエルフと着物美少女に続く、(ミルさんの現状を知らない視聴者さんにとっては)三人目となる実在仮想配信者アンリアルキャスター……パンキッシュゲーマー少女うにさんの、本気のおうただ。




「えー…………つぎ何番?」


「よんばんまでは行ったな」


「おっけっけ。……じゃーいくでー! ごばん、村崎うに。『エンドレス∞ローテーション』!」



 長年親しみ苦楽を共にしてきた、仮想配信者ユアキャスとしてのアバター……愛着も思い入れもひとしおであろうその姿をに存在させる、演者にとっても夢のような新技術。

 実体を得たその身体で、心の底からの喜びをアピールするかのように……うにさんは大人気ガールズアイドルグループの代表曲を、振り付けまで完全再現し全力で歌い始めた。


 実在仮想配信者アンリアルキャスターうにさんは単純に、当然のように可愛いし……元気いっぱいでガーリーな振り付けも非常に似合っていて可愛らしい。

 そんなの見せつけられちゃったら……コメント欄は、まぁ……当然のようにメチャクチャ盛り上がっていましたね。





 やがて賑やかな伴奏が鳴り止み、フィニッシュのキメポーズを取っていたうにさんは、吐息とともに自然体へと戻っていく。


 元気いっぱい歌い終えたうにさんは、おれたち二人の盛大な拍手と視聴者さんたちからの称賛コメントを浴びながら、どこか気恥ずかしそうにソファへと着座する。

 その恥じらい方や座り方や、あとはパーカーの袖を伸ばして指だけをちょこんと覗かせる『萌え袖』などなど……いちいち女の子らしさが滲み出ている所作は、ぶっちゃけ非常に可愛らしい。


 そんな端々の『可愛らしさ』を余すところなくカメラに納められるのは、やはりこの【魔法】のような演出技術ならではだろう。




「あ゛あーー!! めっっちゃ気持ちよかったーー!!」


「うにちーーーお疲れ様ぁーーー!!」


「ワァーーーーー!!?」


「「おぉーーーー!!」」



 うにさんが歌い終わるとほぼ同時、ブースのドアが『バァン』と勢いよく開かれ……元気いっぱいな言葉とともに、一人の美少女が姿を現す。


 ぴっちりした長袖の黒インナーに和服っぽい半袖の上着を羽織り、赤いメッシュが入ったグレーの髪をバンダナで包み、勢いのよい筆文字で『出世街道』と書かれたエプロンを身に付けた彼女。

 ぱっと見は『居酒屋の店員さん』にしか見えないが……当然ここは居酒屋ではないし、かといってこのカラオケボックスの店員さんというわけでもない。


 くろさんやうにさんよりも、更に『現代っぽい』格好の彼女。そのまま夜の飲み屋街に居てもおかしくなさそうな彼女は……ほかでもない【Sea’sシーズ】の一員、洟灘濱いなだはま道振ちふりさんだ。



 うにさんのおうたが終わって、人心地つく間もない強襲に……おれは素で『びっくり』の悲鳴を上げ、くろさんとうにさんは嬉しそうな歓声を上げていた。




「やーごめんごめんごめん。なんかさ、うにちがカラオケコラボにとつったって聞いてさ。あたしらもせっかくなら仲間に入れてほしいなって思ってさ? 善は急げで突入したってわけなんだけど……大丈夫だった? 興醒めしない? 盛り上がってる?」


「えっ? えっと……ま、まぁ……大丈夫だと……」


「ちふりんちふりん。『あたし』って何なん? まだだれかおるん?」


「おるよぉー……っと…………何してるんですか? 入ってきたらどうです? 来てくれないとわかめちゃんあげませんよ?」


「わたしは道振ちふりさんのモノじゃありませんよ!?」



 おれはそんなツッコミを入れながら、自然と視線はドアの方へ。

 するとそこにはなんというか……どう見てもドレスのスカートのようなものが、チラチラと見え隠れしており。


 そして奇しくもそれは……おれがこの二週間ほど、毎日のように目にしてきたお方の御召し物であるらしく。






「ティー様やないですか!!」


「ティー様早く早く! わかめちゃんが物欲しそうな顔してますよ!」


「してませんけど!?」


「な、なんでしておらんの!? やだやだやだ、わちもわかめちゃんと遊ぶのぉ!」


「エッ!? アッ!! エット……こ、光栄……です?」


「んゅふふふふー! わちのほうこそ……光栄どす」




 本日初のお披露目となる、実在仮想配信者アンリアルキャスターがお二人。仮想居酒屋『出世街道』店員さんと、エルフの国の王女様。


 『にじキャラ』三人目および四人目となる起爆剤の投下により……コメント欄とSNSつぶやいたーはより一層の盛り上がりを見せたのだった。



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