第381話 【決起集会】どんなキャラですか
とてもとても大切な局面である、おれとくろさんとの『おうたコラボ』を翌日に控え……おれは自局の定例配信にて共演者である
本当に今更だが……その独特の雰囲気と耳心地の良い声色と、そして何より類稀なる歌唱力を秘めた彼女は、おれにとって憧れの人物といって差し支えない。
つまりは、これはおれの
『……はい! というわけでぇー……本日お招きしましたのはぁー? …………ヤバ
「???????」
『いやーんよーゥこそ来てくれましたぁー! キャーくろ嬉ッスィー! くろねぇー、前から
「は??? アッ、いえ……エット、いや…………は!?!?」
『でもでもだってほらぁ、
「……アッ……………………ッス」
『ごめんて。そんなドン引かんでもええやん』
「そうは申されましても」
『んふゥーー!』
……いや、端的にいって非常に思うところがあるんだけど……もしやくろさん、おれが緊張してることを見抜いて、それを解すためにわざわざあんなキャラを……?
いやいくらなんでもまさか。いやいやでもくろさんならやりかねない。いやいやいやだがしかし。いやいやいやいや……まあいいや、考えてても埒が明かない。
まぁでも、確かなことは……くろさんのお陰でおれの緊張がきれいさっぱり解れたということだ。
「……そうです、明日の『おうたコラボ』なのですが……改めて概要を説明させていただこうと思います」
『うん。おねがい。うちもよー知らんし』
「おいこら主演。…………すみません失礼しました。ちょっとお言葉が過ぎました。ごめんなさい許してください」
『今なんでもするって言うたー?』
「言うてないですー」
『そっかぁー……』
なんだか妙に残念そうなくろさんは一旦置いておいて(そんなにおれに言うこと聞かせたかったのか)……ここで視聴者さん(とくろさん)に向けて、改めて明日の概要を説明させていただく。
明日の催し物……まぁ暫定『おうたコラボ』と呼称している配信だが、いわゆる『オフコラボ』という形での配信となる。
実在
つまり視聴者のみなさんは……今の段階では『なにが』とか明言は避けるけど、これまでに見たことも聞いたこともない配信をご視聴いただくことになるのだ。たのしみでしょ。たのしみっていえ。
そんな『たのしみ』なコラボの内容は、これまでも何度か告げているように『カラオケ』である。くろさん(と
当日は
配信ページにはコメント欄も当然あるのだが……おそらく流れがかなり速くなると思われるので、あえて
気になる配信のお時間のほうだが……配信開始は十八時から、なんと最長六時間。つまりは零時まで。
途中小休憩を挟みながら、思う存分『最新技術』を堪能していただこうという魂胆である。
そして……ここからがオフレコ。
この『小休憩』というのが――視聴者さんは軽く流しているだろうけど――非常に大きなポイントなのだ。
視聴者さんたちは『小休憩』と聞いて、おそらくこれまでの『配信』の常識に当てはめ、『映像入力を落とした状態で『休憩中』画面を表示させ、十分か十五分くらいは動きの無い状態になる』という……そういう感じに『小休憩』を想像してくれていることと思う。
しかし、実際は全く違う。
カメラは回しっぱなし、音声も繋ぎっぱなし。その状況で好きに飲み物を飲んだり、軽食を摂ったり、室外へ用を足しにいったり……それこそ普段カラオケにいくのと同じような状況のまま、六時間粘ろうというのだ。
……ここだけの話だが、おれとくろさん以外にも何名か応援に駆けつけてくれる予定だ。そのため配信画面が寂しくなる可能性も低いだろうし、息を整える時間も確保できる。かんぺきなさくせんだろう。
なお、本格的に心と体を休めたくなったときに備え、ちゃんと緊急避難先となるお部屋も確保してくれているのだという。至れり尽くせりだ。
はい、オフレコここまで。
……と、いうわけで。
わかりやすく纏めると……楽しさいっぱい・サプライズいっぱいの六時間が、いよいよ明日に迫っているのだ。
「わたしたちも、視聴者のみなさんに楽しんでいただけるよう……せいいっぱいがんばります! 明日の十八時から『仮想温泉旅館くろま』、ぜひご覧ください!」
『いうてかめちゃんも『のわめでぃあ』で配信すんねやろ。ちゃんとそこも告知せなあかんよ?』
「えっ、アッ……ありがとうございます。……はい、当日はこちら『のわめでぃあ』もサブチャンネルとして配信させていただきます。手持ちカメラで配信する予定なので……手ブレとかで、あんまりきれいに映らないかもしれませんが……」
『みんなちゃんとスパチャ準備しとかなあかんで。かめちゃんねるにバッチリ振り込んでこうな』
「ふューー!! う。うれしいですけど……無理はいけませんからね!? あと『のわめでぃあ』ですし!!」
『んふゥーー』
そんなこんな、なんとも掴み所の無い空気の中で執り行われたご連絡を終え……おれは『それではくろさん、ありがとうございました』と通話を終えようとしたのだが。
『せっかくゲストに来てくれたんやし、もうちょっと話そ。かめちゃん最近『ワクワクすること』って何かあった?』
「えっ? アッ、えーっと……そうですね、お庭の開拓を本格的に動き始めたので、そのあたりでしょうか? ……あの、ゲストはくろさんなんですけど」
『お庭なー広々やもんなー。今後はどんな開拓してこう思うとるん?』
「えっ? えっ? えっと…………漠然とですけど、水辺でゆっくりできるスポットとか良いなーって。……あの、わたしが訊くがわだと思うんですけど」
『ところで、さっきから良い子にしとるりえっちゃんなんやけど……パンツ何色?』
「は、はいっ!! し、白地にお花の柄にございまする!!」
「ちょっと!!?」
そんなこんなで……そのままズルズルと雑談に突入。
肩肘張らない雰囲気のくろさんのお陰か、意外なことにトークも弾み……一部あぶないところはあったが、視聴者さんにも概ね好評だった。
結局……二時間に及ぶ『生わかめ』のうち、一時間以上も通話を繋いでくれていたくろさん。そのネームバリューはやはり強力無比であり、来場者数と『よいね』の数はわかめ史上ベストスリーに入るほどだった。
くろさんの質問のおかげで恐らく『切り抜き』したら面白いことになるだろう場面も結構あったし、おれは質問されるがわにはいまいち慣れていなかったので、とても良い経験になったと思う。
正直いって、単純に非常に助かった。
この借りは……
予定通りの時刻に、想定以上の『撮れ高』にあふれる配信を終えたおれは……明日の『おうたコラボ』本番に思いを馳せるのだった。
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